『バイトでサンタ』




サンタクロース。
その人を、知らない人はいないでしょう。
言わずもがな、サンタクロースは、一年に一回のクリスマスに、人々へ愛と夢、そしてプレゼントを渡し、そしてまた来年、と去っていく人。
トナカイが引くソリに乗り、赤い帽子に赤いコートにズボン。白く長い髪とひげ。
こんなこと説明しなくても、想像は簡単にできるはずです。


そんなサンタクロース。
毎年毎年、クリスマスに世界中の子供達へプレゼントを分けて、本当にご苦労様、という感じなのですが・・・。


サンタクロースが世界に一人だけ、だなんて、誰が言ったのでしょう?


そう、世界にサンタクロースは一人ではありません。
悲しいことなのか、12月25日の夜は、世界中すべての国に訪れます。
時差があるため全く同時ではないものの、190あまりの国に、平等に訪れます。


その国々の全ての人々のもとを、一人で回れ、と?


そんな残酷な・・・。
さすがにサンタクロースでも、できません。
そこで一人のサンタクロースが、『サンタクロース協会』というものを作りました。
それは、今となっては全世界に広まっている、サンタクロースのネットワーク。
開設は、何百年と昔のこと。
世界各国に支部があり、本部はフィンランドにあるそうです。


そしてその中の、ある国のサンタクロース協会は、毎年、サンタクロースのアルバイトを募集します。
いくらあの有名なサンタクロースと言っても、一年に一度しか仕事の機会がないですから・・・サンタクロースは普段、普通に働いています。
例えばサラリーマンの方もいるでしょうし、大工をやってる方だって、ある喫茶店の店長かもしれないし・・・。


とくにこの国では、サンタクロース協会の正社員は数多くいません。ほんの、2、3人しか。
いろんな方々が、毎年、愛と夢とプレゼントを運ぶため、サンタクロースのアルバイトをします。
だから、「あの子のお父さんは、サンタクロースをやってるんだって。」とか、「サンタクロースって、お父さんがやってるんだよ。」という小さな頃の友達同士のうわさ話は、本当のことなのですね。
だって、お父さんは、サンタクロースのアルバイトをしているんだもの。


え?『この国』って、どこの国か、って?


それは・・・知っているかしら。
東洋の、小さな島国。
日本、っていう国。
英語だと、ジャパン。
タイ語だと、ジープン。
ドイツ語だと、ヤーポン。
って言うらしい。


今日は、その国の、あるサンタクロースのお話。



* * *



「はぁ?サンタクロースのバイト?」


俺がそんな声を上げた理由は、その言葉の通り、『サンタクロースのバイト』について彼女から聞いたから。


「そうそう。あるらしいよ?」


彼女はうれしそうに話す。
だからサンタクロースは、世界中の子供達に一晩でプレゼントをわけられるのね、とそのあと続けた。
ったく、コイツは昔からそうなんだ。
純粋すぎて、どんな話だって信じてしまう。
この間俺が、カタツムリはほ乳類と同じように母親の腹から生まれてくるんだ、そっから人間と同じように育って、成人したときに大人の証としてあの渦巻き殻を親から譲り受けるんだ、と大嘘ついたら、顔をキラッキラさせて、『本当!?すごいね、それじゃあカタツムリにもいろんな人生ストーリーがあるんだろうなぁ・・・。』とこれまたうれしそうに言い、それじゃナメクジはカタツムリになるのを夢見て一生懸命生きているんだね、とありもしないカタツムリの暖かいホームドラマを想像していた。
・・・まぁ、本当はカタツムリ、卵から生まれるんだけど。
うれしそうにカタツムリ親子の愛の物語を一人何役もやってシミュレーションしてみせるものだから、結局言い出せず終い。
今だに彼女、澪はカタツムリを見る度その愛情物語を思い出し、目頭を熱くさせているのだろう。


「誰から聞いてきたの、そんな話。」


俺は読んでいた雑誌から目を離さず、澪の夢の発信源を探る。
くそ、コイツに夢の嘘話をしていいのは俺だけなんだよ、となんだか正体のわからない嫉妬を覚えながら。


「加奈子が教えてくれたの。」 


澪は机にコーヒーの入ったカップを二つ置きながら言った。
特別おいしい彼女の入れるコーヒー。
どんな方法でやっているのかは知らないが、うちに来ると必ず、男の一人暮らしで汚くなったキッチンで、このコーヒーを入れてくれる。
外の寒い外気とコーヒーの温かい湯気とで、今はクリスマスが近い、冬であることを再認識した。


加奈子とは澪の友人で、澪が大学に入ってから知り合った、大学でいつも一緒にいる友達らしい。
俺は合ったことはないのだが、澪の話を聞く限り、とてもいい人で優しいのだそうだ。


そんな人が澪に嘘などつくのであろうか?


「今年は、どんな人がサンタクロースをやるんだろうね?」


俺の横に腰掛けコーヒーをすすりながら、そう言った。
そんなこと俺に聞かれても・・・と思いながらも、彼女の夢を壊したくはないとなぜか思う俺は、一生懸命返す言葉を探す。


「ん・・・あれじゃない?以外と普通のオッサンとかがやってるんだよ。もしかしたら俺みたいな大学生がやってるかもしれないし。」


あまり大きく夢をふくらませさせすぎると、真実を知ったときに深く落ち込むことが普段の彼女から容易に想像できるので、あまり大きなことは言わない。
ほどほどに。


「そっか〜、そうだよね。クリスマスなんて一年に一回しかないもの。きっとサンタクロースのバイトって、単発のバイトと同じような感覚かな。」


よし、良い感じに夢縮小。
自分で入れたコーヒーを、おいしー、とうれしそうにつぶやきながら、俺に笑いかける澪。


「そんな感じかな?ほら、あるじゃんユーミンの曲。『恋人はサンタクロース』って奴。」
「あぁ!きっとユーミンの恋人はサンタクロースのバイトをしてたんだね。」
「そうだと思うよ。」


そして澪は、ねぇ、クリスマスどこに行こうか、とその無邪気な笑顔を浮かべて言った。



* * *



「マジかよ・・・。」


澪を澪の自宅まで送っていったあと、俺はこの間買ったノートパソコンを開く。
インターネットで、サンタのバイトのことを検索してみようと思ったのだ。

そして。
「サンタクロースのバイト」検索の結果。


『サンタクロース協会 日本支部 2005年サンタクロースのバイト募集中』


ありえないだろ、これ。



* * *



「ふ〜ん・・・あ。あと。」
「は、はい?」
「君、子供の頃木登りしたことある?」
「ありますけど。」
「じゃ、大丈夫だな。うん、決まり。」


目の前のオッサンは、そう偉そうに言ってから俺が持ってきた履歴書を机の上にぱさり、と置く。
そして机の上に置いてあったペット入りの茶をぐいっと飲み干すと、足を組み直してから、これまた偉そうに言った。


「じゃ、今度の日曜日・・・明後日だな。ここでまた一斉に説明あるから。10:00までに来て。これ軽くしか載ってないけど説明書。目、通しといて。」
「はい。」
「じゃぁね、また。」


失礼します、と言ってドアから出る。長い廊下を歩いて重いドアを開き、暗い階段を上っていく。


俺は、例のサンタクロースのバイトの件で、この地下に設けられている―――一見ただのスナックバー、しかしサンタクロース協会の日本支部であるこの店に来ていた。
インターネットでこのことを知ってから、俺は妙にこのことについて興味が沸いてしまった。そしてそのページに書かれていることを読んでいるうちに・・・まぁ、このサンタクロースのバイトをしてみようと思ってしまったのだ。第一の理由は単発なのに時給がいいこと。そして、サンタクロースのバイトをした、なんて言ったら澪が絶対に喜ぶだろうと思ったからだ。

そしてそのホームページに表記されていたサンタクロース協会日本支部の住所を頼りに、このスナックバーまで来て・・・つい先ほどまで、サンタクロースのバイトの面接を受けていたのだ。最初はガセネタだと思っていた。それにここは喫茶店だったし。でも、俺は現にサンタクロースのバイトの面接を受け、そして見事合格してしまったのだ。つまり、俺は今年の12月25日はサンタクロースになるのだ。
笑えてしょうがない。



* * *



12月25日、PM10:00。


「んじゃ、それぞれ仕事お願いします。」


あの偉そうな面接管がそう言う。すると、俺を含めた15人のサンタクロースは、喫茶店の階段を上る。


面接のときに言われたとおり、俺はちゃんと日曜日に説明会に行った。
なんかさ、サンタクロースってぐらいだから、いろいろ決まりがあるみたいで。


このバイトをしたことを誰にも言わないこと。内容はもちろん、どんな話をされたのかも内密に。


これが基本で始まり。


「えーっと、一応サンタクロースは見られちゃいけない人なんで、これ、飲んでください。」


というあの喫茶店のマスター兼面接官兼サンタクロース協会日本支部会長の言葉により、当日、一人一本ずつ配られた、それは一見、栄養ドリンクのような怪しげな薬。
会長の説明によれば、姿が見えにくくなる薬・・・らしい。
こんな怪しいもん飲めるかよ!!って感じだったが、飲まなきゃ仕事はできないし、他の人たちもしぶしぶだが飲んでいるし、ということで、俺もちゃんと飲んだ。・・・いちご味だった。
この薬のどういう成分がどういう原理で俺たちサンタクロースの姿を見えにくくするのだろうかと、不思議でしょうがない。大学で生物学を勉強している俺にとっては、とても興味深いことだった。
だから会長に聞いたら。


「なるもんはなる。」


・・・・あー・・・はい、そうですよね、うん。


衣装は着たい人だけあの有名な赤色の衣装を着る。別に私服でも動きやすくて寒さをしのげるものなら可。
俺は別にどっちでもよかったのだが、私服の方が寒くないだろうと思って、私服にしようと思ったら。


「えー、着よう、せっかくサンタクロースなんだし。」


というバイト仲間の言葉により、協会が貸し出してくれる、「むしろ寒さって何?機能的で最新のサンタクロースルック!!」という明らかにふざけているキャッチフレーズがつけられたサンタクロースの衣装を着ることになった。


そして。
気になるのが、移動手段。だってほら・・・サンタクロースってトナカイが引くソリに乗って、空を軽快に走り抜け・・・って感じじゃん。
どうするんだろう、って気になってたら。
説明会の、会長のお言葉。


「えーっと、足については一人に対してトナカイは二頭、ソリは床暖房完備のものを貸し出す。トナカイについては安心しろ、ちゃんと調教してあるし空も飛べる。初心者でも少し練習すれば快適だ。」


・・・。ハイ、もういいですよ。だいたいこのバイト決まったときから現実なんて捨ててましたよ。


「んで、どうやって家に入るかはだな、ピッキングの方法教えるから玄関か窓から普通に入れ。」


サンタクロースっていろんな意味で、きっといつ逮捕されたっておかしくないと思う。



* * *



トナカイが引いていくソリに乗りながら、次の家はどこで、どんなプレゼントを持っていくかを、リストを見て確認する。
プレゼントを届けるべき人は、あらかじめサンタクロース協会がリストアップしていて、プレゼントもしっかり協会が用意してくれてある。
だから、俺たちバイトサンタの仕事は、プレゼントを届けるだけ。


「おっ、もうこれで最後だ。・・・・え。」


俺は、そのリストに書かれていた名前と住所を見て、息をのんだ。


「澪・・の家・・・・。」


そこには、澪の名前と、澪の一人暮らしのマンションの住所が書かれていたからだ。
サンタクロースは、サンタクロースを信じている人たちのもとにのみ行く。信じてない人たちのところには、プレゼントを持って行かない。そんな人たちに持っていったって、ただ、プレゼントを与えるだけだから。愛と希望は、与えられないから。


そういや、アイツ、サンタクロース、信じてるんだっけ。・・・まさか、俺が担当するブロックが、澪が住んでいるところだったなんて。
この仕事のことは秘密にしなきゃいけないから、澪には話していない。話したら、絶対喜んでくれると思ったけれど、しょうがない。


「ほしいものは・・・CDと・・・洋服・・・。」


リストに書かれている通りのものを、袋の中から取り出す。

あ、これ、俺がほしいって言ってたCDだ。なんでアイツが?
男ものの洋服・・・?これ、澪が俺に似合いそうって言って、雑誌をうれしそうに見せてきた時のものだ。結構いいデザインで、何気なく、ほしいなぁーって、俺が言ってた。


・・・・これって、もしかして。


澪がほしいとサンタクロースに頼んだものは・・・俺がほしいと言っていたもの。

ったくもう、クリスマスぐらい、自分がほしいもの頼めよ・・・・。


いつだってアイツはそうだ、自分のことより、周りの人を優先する。自分のことは二の次。自分はどうなったってかまわないと、本気で思ってる。・・・話にならないぐらい、優しくて、真っ白で、素直で。


澪を、思いっきり、抱きしめたくなった。




* * *




澪の家に着くと、澪はもう寝ていた。ベットには、きれいで、かわいい寝顔。もう、何万回も見たような気がする。
俺は、そっと、澪の枕元に、サンタクロース協会が準備したプレゼントと・・・もう一つ、俺が準備した、小さな小箱を置く。

さっき、あの喫茶店まで戻り、会長に頼みこんでもらってきた、最高級のコーヒー豆。コーヒーが大好きな澪は、一度でいいからものすごく高いコーヒーを、自宅でゆっくり飲みたい、と言っていたのを思い出したからだ。
会長にラッピングセットをもらって、慣れない手つきで包んだその小箱は、他の二つよりもいびつな形をしていて、なんだか少しだけ笑えた。

澪が寝ているベットの横に膝立ちをして、澪の顔をのぞき込む。


「・・・ずっと俺の近くにいろよ。」


そう、小さな声でつぶやいてから、軽く頬にキスをして。
澪の家から、出ていった。




* * *




「ねぇっ!!ねぇ!!大介!!」


バタバタと、澪が俺のマンションの部屋に入ってくる音で目覚めた。
時計を見ると・・・朝の7時。
こんな時間にどうしたんだ?澪ってば。


「んぁ?どーしたんだよ、朝っぱらから。」


俺が体を起こすと、澪は俺が寝ていたベットの上に座り、じゃーんっ!と、何かを俺に掲げる。


「これ、なんでしょー!?」
「・・・コーヒー豆?」
「そう!!そうなの!!誰がくれたと思う?」
「・・・え、誰?」


本当は誰かなんてすぐわかったけど(まぁあげたの俺だしね)、わからないふりをする。
そっちの方が、澪にとっては楽しいかなと思ったから。


「サンタクロースがね!!昨日の晩、私の枕元に置いていったの!」
「マジでー。すごいじゃーん。」
「・・・信じてないでしょ。」
「し、信じてるよ!」





澪は、俺にモーニングコーヒーと言って、俺がプレゼントしたコーヒー豆をひいて、最高のコーヒーを入れてくれた。
朝一番に飲むそのコーヒーは、なんだかすごくおいしくて、安心する味だった。


「やっぱり、サンタクロースがくれるコーヒーは違うねー。おいしvv」
「そだな、んまい。」
「なんでサンタさん、頼んでないのに私がコーヒーほしいってわかったんだろう?」
「んー・・・あれだよ、サンタはやっぱりわかるんだよ、人の心の中が。」
「そうだよね〜・・・そうじゃないとサンタクロースなんてやってられないよね。」
「そうそう。」


しばらく、澪はおいしー、と繰り返しながら、コーヒーをすすって。俺も同じように、澪が隣にいる幸せをかみしめながら、おいしいこのコーヒーを飲んでいた。

そして俺はふと、思った。サンタクロース、やってよかったなぁ、と。



「ねぇ、大介はサンタクロースに何か頼んだ?」
「・・・うん、頼んだ。ちゃんと、届いたよ。」
「え!?何、何?教えて?」


俺はコーヒーカップを置いて、澪にぐっと近づく。音を立てて、澪の唇にキスを落とす。


「澪。」





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*あとがき*
クリスマス企画としてクリスマスネタの小説、
クリスマスが終わって4日経とうとしてるのにアップしてみました。
しかし何言いたいのかいまいちわからないのは・・・ご愛敬☆






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