そばかす



6,



弘樹「真那の葬式が終わってから、母親を問いつめた。だけど、逆ギレされて。それで、俺は家を出た。っていうか、出てけって言われたんだけど。」


弘樹が、ふう、と一息つく。

弘樹は、俺たちに全てを話してくれた。
藍子は、話の途中から、ずっと泣きっぱなしで、今もなお、泣き続けている。


やっと、わかった。
だから、藍子が俺たちに加わろうとしたときも、なんだか納得いかないような顔をしていたんだ。

藍子の笑顔を見ると、死んでしまった妹を、思い出してしまうから。


浩介「だから、一人暮らしなんだ・・・?」
弘樹「あぁ。そういうこと。ごめんな、嘘ついて。」


弘樹がアパートに一人暮らしだということは知っていた。
でも理由を聞くと、親の仕事の事情で、こっちに一緒に住んでいられないから、というものだった。
今だったら、全て理由がつく。
弘樹が高校生になったときに遠くから引っ越してきたのも。
弘樹が一人暮らしなのも。
初ライブのとき、弘樹の家族だけが来ていなかったことも。


全て、ちゃんとした、しかもとても深い理由があったんだ。


藍子「ひっ、ひろきぃっ。うっ・・・っ。」


泣くじゃくってしまっている藍子が、とぎれとぎれ、苦しそうに声を出す。
あー、見てらんねぇよ、もう。泣いてしまう程の話ではあったから、しょうがないことだけど。特に、当事者の藍子にとっては、辛い話だったのだろう。

いつも笑顔の晴彦も、真剣な顔をして、弘樹の話に聞き入っていた。


弘樹「あーぁ・・・もう、顔ぐちゃぐちゃだよ、藍子。ごめんな。」


弘樹は、優しく微笑みながら、藍子の頭を撫でる。
藍子はまた涙を流して、必死にしゃべろうとする。


藍子「あっ、あのね・・・この間のっ・・ライブの後・・・。」
弘樹「あぁ、みんなで楽屋に居たときだろ?あれ、母さんから電話来て。聞こえてたんだ?」
浩介「なるほどな・・・。それで、か。」
弘樹「うん。久しぶりに、電話かけてきて。仕送りしてもらってるから、まだでっかいことは言えないけど。・・・戻ってこないか、って言われてさ。ちょっと、むかついた。」
晴彦「・・・・なぁ、弘樹。」


それまで黙って話を聞いていた晴彦が、口を開いた。
みんな、一斉に晴彦の方へと視線を移す。


弘樹「ん?」
晴彦「なんで、弘樹の母さん、治療費振り込まなかったんだ?っていうか、振り込めなかったんだろ?いっくら育児放棄したからって、親なんだし。意図的に振り込まなかった、ってことはないだろ。」
弘樹「いや・・・半々、ってとこかな。」
浩介「え?」
弘樹「振り込まなかった、ってのもあるし、振り込めなかった、ってのもある。あの人、ギャンブル、好きで。それに、男に貢いでたり。それで、ただ単に、お金がなくなってしまったらしい。」


全員押し黙る。
弘樹に、こんな暗い、辛い過去があっただなんて。
ショックだった。
こんなの、ドラマだけの世界だと思っていた。
こんな身近に、体験している人がいただなんて。


弘樹「・・・真那の命日が、三月なんだ。そのせいもあるのかもしれないけど、ここんとこ最近、夢に真那がよく出てきて。それで、荒れっぽくなってた。本当ごめん、みんな。」


弘樹は、申し訳なさそうに、頭を下げる。
どうしようもない気分になった。
俺は、物心ついてから、大切な人を亡くしたことがない。
だから、正直言うと、弘樹の気持ちがはっきりとはわからない。
でも、大切な人を亡くしてしまったら・・・しかも、それは自分のせいだと思いこんでるとしたら・・・こんな弱っちぃ俺じゃ、きっと、耐えきれないだろう。
前を見ないで、いつまでもふさぎ込んでるだろう。
弘樹みたいに、笑えてないだろう。

なんて強い人間なんだ、弘樹は。

やっと落ち着いてきたらしい藍子が、口を開く。


藍子「弘樹、真那ちゃん・・・きっと、幸せだったって。それに、弘樹のせいじゃ、ないよ。真那ちゃんが、亡くなってしまったこと。」
弘樹「・・・・。」
藍子「誰かが言ってた。人は、生まれたら、一歩一歩、終わりに向かって生きていくんだって。それが・・・真那ちゃんは、終わりの時期が、早かっただけだよ。しょうがないことだよ・・・。自分を、あんまり、責めないで。」


また、藍子の瞳から涙があふれ出す。


浩介「弘樹みたいな兄ちゃんに恵まれて、真那ちゃん幸せだったと思う。もし、弘樹が兄ちゃんじゃなかったら・・・弘樹がいなかったら、楽しいこと知らずに、天国行ってしまってたと思う。」


うまく言えないけど。藍子みたいに文才ないし、照れだってあるし、大きいことだって、感動できることだって言えないけど。
仲間のために、自分の考えぐらい、言える。


晴彦「そうだよ。真那ちゃんが死んでしまったのは、弘樹のせいじゃない。むしろ誰のせいでもない。・・・・しょうがない、ことだったんだと思う。」
藍子「弘樹がいなかったら、真那ちゃん、愛されること知らずに、天国へ行っちゃってたよ。」


みんなは、思い思いのことを言っていたように思う。
励ましなんかじゃない。言いたいから、言うんだ。弘樹のためだけじゃない。自分の、ためにも、言うんだ。


弘樹「・・・ごめん、クサイこと言うけど。」


頷くこともなく話を聞いていた弘樹が、ほほえみながら言い出す。
みんな、何?と弘樹へ耳を傾ける。


弘樹「俺、お前らのこと大好きだわ。」


その言葉を聞いて、藍子と晴彦が、ぷっと吹き出す。


晴彦「何だよお前!いきなりなんだと思えば本当にクサイこと言いやがったな!キザ担当は俺なんだよ!アホ!」
藍子「あはははは!!最高!弘樹!」


晴彦なんか、弘樹の背中をバシバシ叩きながら、大笑いして。
藍子は自分のお腹を抱えて、すっかり涙も枯れたようだ。
弘樹も一緒に、大笑いしている。


晴彦「おい浩介!お前もなんか言え!」
浩介「え!?」


ったくもう、いきなりなんか言ってくるのは変わらねぇな、いつだって、コイツは。


浩介「えっと・・・・。」


他の3人が、興味深そうに俺に視線を送る。
え、どうしよう、本当にクサイこと言わなくてはいけない雰囲気だぞ。
もう、いいや、この際。


浩介「いや・・・俺も大好きだから。」


苦笑いしながらノリかまして言うと、みんなは一拍置いてから、また笑い出す。


晴彦「俺も大好きよーん☆浩介ぇぇぇvv」
浩介「うわっ、くっつくなよ馬鹿!気持ち悪いな!うわっ!チューしようとするな!」
藍子「私も大好きぃーー!浩ちゃーん!」


晴彦が俺に抱きついてくると、隣にいた藍子も、負けじと笑顔で抱きついてくる。
いや、藍子はいいけど、晴彦まじやめろ。男にやられたってうれしくない。


弘樹「俺も入れろよー、浩ちゃーん☆」


そうふざけた声で言うと、弘樹も正面から抱きついてくる。
3人に抱きつかれてほっぺにチューされて、(※晴彦に弘樹も含む。)もうもみくちゃ状態。


浩介「あ!弘樹!どさくさに紛れて藍子にチューするな!」
弘樹「だって、真那に似てるんだもん☆かわいー、真那ー。」
藍子「お兄ちゃーん☆」
浩介「藍子ノるな!晴彦離れろ!」


バカなのは、相変わらず。
アホなのも、相変わらず。
仲が良いのも、相変わらずで。


Clumsyは、新しい絆を胸に、また歩き出す。



床の涙のあとは、すっかり消えてなくなっていた。







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