そばかす
1、
今ここにいる あたしの足で立って 君の足で立って
ちゃんと歩いてる
今ここにいる あたしの体は空気を吸って 君の体は空気を吸って
ちゃんと生きてる
苦しさはそのうち消えるわ 寂しさもそのうち紛れるわ
そんなものゴミ箱に捨てて 楽しさは机の上に飾っておこう
いつだって見れるように 思い出せるように
Searching happy and fun everyday.
Let's try it!
It's important for us to enjoy our life.
If is it difficult for you,I will help you.
手を握って
走り出せるから
今ここにいる あたしの手は光を透かして 君の手は朝日を掴むの
ちゃんと見えてる?
不器用にだって 立てるし 見れるし 生きれるし
別に困らない 逆にその方が楽しそうな気がしてきたもん
いつだって一生懸命に生きられるような気もするから
Be happy and please smile!
If you feel you are unhappy,I will make your happy.
It's all right.
No problem!
一緒に走って
きっと笑えるから
『LIVE』
* * *
浩介「暑い・・・。」
猛暑だ。こんなん嘘だ。絶対嘘だ。猛暑だ。
藍子「・・・弘子ー、浩ちゃんが変になっちゃったー。」
弘樹「あーら藍子ちゃん、それ最近多いわよー。」
暑い。ヤダ。何コレ。やだ。
ライブは好きだ。楽しいしさ、テンション上がるしさ、ストレス発散になるしさ、ファンのみんなの顔見れるしさ。
でもさ。
夏のライブって、どうしてこんなに暑いんでしょうか。
晴彦「そりゃ暑いだろ、夏だし。」
藍子「8月だし。」
弘樹「今年は記録的な猛暑だし。」
俺たちClumsyは高校三年生になって、高校生活最後の夏休みを迎えていた。
高校三年生の夏休み、と言えば進路へ向けていろいろと決めたり考えたりしなければいけない時期。
だけど、俺らはそんなこと気にもしない感じで、いつものようにライブ漬けの毎日だった。
その理由は・・・。
* * *
晴彦「なぁ、お前ら、進路とか決まってる?」
数ヶ月前。
5月に、入ったか、入らないかくらいのころだ。
藍子「あー、一応大学行く。文系のだけど。」
弘樹「就職する。大学行きたい気もするけど。」
それぞれが、晴彦の質問に受け答えた。
俺もみんなにならい、自分の進路について言う。
浩介「・・・大学。」
あ、やばい、めっちゃ機嫌悪そうな声だ。
しかも単語のみか、俺。
確かに、外で舞い散りまくっている花粉のせいで、機嫌は悪かったけど。
晴彦「そっかー。」
弘樹「そーゆー晴彦はどーなんだべやー?」
弘樹がどっかの方言でふざけて聞くと、晴彦は少しぽけーっとした様子で黙った後、ゆっくりと口を開いた。
晴彦「あのさ、お前ら、バンドで食ってく気とか、あったりする?」
藍子「えー?そりゃこれで儲かれば言うことなしだけど。」
弘樹「人生そんな甘くないって。」
藍子と弘樹が、いつものペースでがしゃがはと笑う。
バンドで食ってく、ってことは、プロになって、CD出して、テレビにも出て、ライブやったら金たくさん入ってきて、って奴か。
超夢の世界だ。
好きなベース弾いて、好きなライブやって、好きな仲間と一緒にいれて、それでいて金入ってくるとか・・・超いいじゃん。
いいな、俺的にはその進路希望だ。
でも、メジャーデビューなんて夢のまた夢だ。
ほら、あれだろ、よくあるやつだ。たまたまライブを見に来ていたそっち系の関係者に認められて、名詞渡されて、「メジャーでやってく気はないか?」みたいな。
ははは、んだそれ。ありえねぇわ。うん。この田舎町で。
だいたいそんなんでデビューして食っていけてるやつらなんて、本当一握りなんだって。
メンバー全員が才能あって、それでいて音楽性とかも今の流行とかに乗っ取ってて、ポップス気味とかじゃないと売れない。
俗に言う、『売れメロ』って曲を、作っていかなければならない。
そんな器用なこと、俺たちにできるわけない。
好きな曲を自由に作って、小さい街のライブハウスで、こまごまとライブをやっていくのが向いているんだ、俺たちには。
才能に関しては俺以外のメンバーは言うことなしなんだろうけど。
藍子は言うまでもないが、晴彦だって、弘樹だって、かなり才能がある方だと思う。
俺が足ひっぱってんだ、きっと。
晴彦「いや・・・あの、ものすんごく、言いにくいんですが。」
藍子「へっ?」
晴彦「ライブのテープ・・・・送ってみたんだよ。レコード会社に。」
弘樹・藍子「えぇぇぇぇぇっ!!!!?」
あ、やっぱり。
素で驚いている弘樹や藍子の様子をよそに、俺は一人冷静に納得していた。
最近やけに晴彦じは俺たちのHPチェックしてるし。
一ヶ月前ぐらい前、うれしそうに気持ち悪いぐらいにニヤニヤしてたし。
それにこの間のライブで、晴彦だけやけに気合い入ってて、ライブハウスの後ろの方にスーツ姿の男が2、3人いたのを覚えてる。
あー、晴彦なんかやったんだな、って、薄々感づいてはいた。
藍子「浩介っ!なんでそんなに冷静に淡々としてんのっ!」
浩介「いや、気付いてたし、薄々。」
晴彦「あ、やっぱり。浩介は気付いてるなーとは思ってた。」
弘樹「浩介って、人の好意にはつくづく鈍いのに、そういうのは鋭いんだよな。」
そうなのだ。どうやら弘樹の言う通りらしい、俺。
藍子のときが大きな事例だが、人の自分に対する好意とか自分のことには折り紙付きの鈍感さを発揮するのに、人のこととか周りのこと、他人のことは鋭いみたいだ。
どんな神経をしてるんだ。解剖して、みてみようか。
晴彦「それでー、この間のライブ・・・レコード会社の人が見に来てくれてて。」
浩介「あー、アンコール3回やったときだろ。」
晴彦「そうそう。それで、『やる気があるならインディーズとして地元で一回出してみて、その結果でメジャーは考える』って。やったねー。」
藍子「・・・ま、まじっすか・・・。」
ったく晴彦め、そういうことは要相談だってのに。一人で勝手なことすんなよ、バカめ。
晴彦「やってみますか?」
「もちろん!」
それから、ライブ漬けの毎日は始まったわけだ。
* * *
「でもさー、暑くたって、ライブ、好きでしょ?」
自転車のをこぐ俺の後ろで、藍子は珍しく悟らせるように言った。
いつも通る長い坂道を、ブレーキを軽く握って、下っていく。
夕方に近くなって気温も下がり、坂道を下っていることによって風が横を通り、昼間の死ぬかと思うぐらいの暑さはおさまってきていた。
「そりゃ、ね。」
「好きなことできるって、すごくしあわーせなことだよ。」
「・・・そうだな。」
確かにそうだ。
こんな時期に、いくらCD発売やメジャーの話があるからって、自分たちが大好きでやりたいことをやりまくってる。
考え直してみると、すごく、すごく、幸せなことだ。
「ね、浩介。」
「ん?」
「私、海行きたい。」
海に着いたころには、もう夕日が西の地平線にすごく近かった。
あと、ちょっとでもう日没してしまうだろう。
そんな時間だったけど、そんな時間だったからこそ、海の水面は夕日が出したオレンジ色と光で、きらきら、眩しかった。
おかしなぐらい、海岸の砂浜には誰もいなくて、俺たち二人だけだった。
目の前に広がった、砂浜の白さと手前の草原の青さが、目にしみる。
「海!久しぶりだー!」
藍子は履いていたサンダルを脱ぎ捨てると、波が打ち寄せる水際まで走り出した。
俺はその無邪気な小さな体を目で追いかけながらも、ゆっくりと水際まで歩いていく。
水際まで着いた藍子が、揺れるワンピースの裾から出した白い足を、波と遊ばせている。
俺もサンダルを脱ぐと、さらさらな砂を足の指にからませ、藍子の立っている場所とは4メートルほど離れたところに腰を下ろした。
しばらく俺は水平線を見ていた。
藍子は砂で城とか作って遊んでいた。
城を作り終えたら、また水際を行ったり来たりして、水と遊んで。
そのうち、鼻歌を歌い始めた。
”I WANT THE MAN WHO IS VERY LATE RISE
PREASE TELL ME HOW TO GET THE MAN...”
聞き慣れたその曲の、そのフレーズ。
『奥手な彼をその気にさせる方法』・・・。
その藍子の鼻歌を聞いて、俺はにやけそうになった。
歌詞もメロディーも好きだけどさ、やっぱり照れるんだよ、少しだけ。
行ったり来たりするのが飽きたらしく、また藍子は立ち止まって、俺をまっすぐ見据えた。
「浩ちゃん、この間、二人で考えた曲・・・」
「うん?」
「リリック、できた。」
笑顔でそう言うと、すう、と息を吸って、この間二人で考えたメロディーをハミングで歌った後、じゃぁいくね、と言った。
「おやーこどーんの具・よ・り〜 おやーこどんのどんになーりーたー・・・」
「いやいやいやいや・・・・。」
また来た。やけににやけてると思ったら。最近よくあるパターンで、歌詞ができたと言って俺に聴かせるとき、必ずおもしろおかしいけどどこか感心できる詞で、歌ってみせるのだ。
「なんて歌ったの?」
「親子丼の具より、親子丼の丼になりたい、って歌ったの。」
「なるほど。その続きは?」
「エビ天のエビより、エビ天の衣になりたい。」
「・・・?」
「いっくらおいしいごはんと、いっくらおいしい親子丼の具があっても、それを入れるどんぶりがなきゃ、親子丼はできあがらないし、食べれないでしょ?一番必要なんだよ、親子丼にとって、どんぶりは。」
また波と遊びはじめ、微笑して言った。
そして、無口な俺が、自分の言葉には言葉を返さない予定であることを見透かしたかのように、言葉を続ける。
「世の中全員、誰にとっても主役じゃなくても、必要とされてなくてもいいの。誰かに、誰か一人にでも、必要とされていれば、生きていける。・・・私はね。」
いつも藍子が言うことは、ちっちゃい俺にとってはでっかかった。
そのきれいで純粋な言葉は、ときどき俺に、自信を無くさせる。
じゃ、本当の歌詞で歌うね、とまた笑顔で言うと、大きく息を吸った。
覚めない夢は夢じゃない
呼び起こす この手と あざで
傷を癒す必要はない
勲章だと笑って 誇れ
暗闇でも構わない
少しでも光れば
美しく 儚く 咲く
いつまでも 枯れはしない
目をつむって、その透き通ったよくのびる声を、聴いていた。
この声、俺だけのものになればいいのに、とか、ときどき思うんだ。
そんなのおかしいよ、って、そのあと自分の良心が俺をくい止めるんだ。
その声で歌われている、歌詞にも嫉妬してしまうぐらいだから。
「あたしー!!」
目をつむったままでいると、藍子は突然、叫びだした。
何事かと目を開くと、藍子は俺に背を向け、海に向かって叫んだみたいだった。
「夢、食べたい!」
再度またそう叫ぶと、ゆっくりと、俺が座っている場所に向かって歩いてきた。
俺の1メートル手前で止まると、俺に向かって手を伸ばし、差し出した。
それが俺に立って、と言っているように思ったので、その手を掴んだ。
すると予想通り藍子は俺の手を強く握り、腕伸ばして引っ張った。
少しだけ藍子に頼って立ち上がると、藍子はそのまま俺の手を握ったまま、俺を真っ直ぐに見上げた。
「私、歌うこと、好き。Clumsyのみんなも、好き。」
「・・・うん。」
「一回ね、あきらめたんだ、中学三年生の、進路を決めるときに。自分の夢。・・・歌手に、なることだったんだけど。」
視線は相変わらず真っ直ぐに俺の目を見ていた。
その視線は強すぎて、そらしたくなったけど、そらしてはいけないというか、藍子の強い目の力は、そらさせてはくれないような気がした。
そのまま、続ける。
「でも、Clumsyのみんなは、凍った夢に、お湯をかけてくれた。また、夢を、見させてくれた。・・・だんだん欲張りになって、夢で終わらせたくなくなってきた。」
「うん。」
「今、叶おうとしてるって思うと、すごく、わくわくする。でもね、私一人じゃ、夢は、叶えられない。みんながいなきゃ、だめなの。」
だから、と続けて藍子は少し黙った。
無意識のうちに、繋いだままの藍子の手を、強く握り返していた。
「・・・わたし、歌いたい。歌わせて。夢を、叶えさせて。・・・CDデビューの話が来たとき、本当はうれしくてうれしくて、たまらなくて、でも、不安だったんだ。なんとなく、感じたんだ、チャンスはこの、一回きりなんだ、ってこと。」
「うん。」
「欲深くて、すごく醜いかもしれない。でも、夢、叶えたい。だから、協力、して、浩介・・・。私、浩介のベースじゃないと歌えない。晴彦のドラムと弘樹のギターでしか、歌いたくなんかない。だから・・・私の夢に、協力してほしんだ。」
やっと俺の目から視線を外すと、藍子は自信なさげに、うつむいた。
「わがまま、かな?」
ちょっと笑ってても震えた声で問いかける。
うまく、俺の考えを言えるだろうか、と一瞬思ったが、そんなの関係ない、思ったこと言えばいいのだ、と藍子の手を握っていて思った。
「わがままじゃない。夢叶えようとすることは、欲深いことでも、醜いことでもない。かっこいいことだと・・・思う。夢さえ見ないで、夢から逃げてる奴なんかより、よっぽどいい。」
「・・・そうかな?」
「そうだよ。それに、俺だって同じ。藍子の歌も、晴彦のドラムも、弘樹のギターだって、俺の夢には必要なんだって。きっと、晴彦だって弘樹だって同じ。・・・バンドって、そういうものだろ?夢の塊じゃん。」
自分で言って、思い返す。
あのとき、俺が学校にベースを持っていかなかったら、きっと弘樹と俺は組んでいなかった。
晴彦が話しかけてこなかったら、きっと晴彦とは組んでいなかった。
藍子があのときあの場所でXの楽譜を見ていなかったら、きっと俺は話しかけなかった。
なによりも、藍子じゃなかったら、話しかけていなかった。
最後に、思う。
俺らが、Clumsyを産んだのは、運命なんじゃないかって。
何もなかったこの俺に、Clumsyは大切で必要で、愛しいものを与えてくれた。
本当に、本当に、こいつらと出会えて、よかったと、心の底から思うんだ。
「私・・・一生、歌ってたい。」
「俺も一生ベース弾いてたい。」
藍子は笑って、晴彦と弘樹にもちゃんと言わなきゃ、と言うと、俺に抱きついてきた。
首に腕を巻き付けて、苦しいぐらいに抱きしめられる。
「ねぇ浩ちゃん。夢、叶えよう。絶対ね!」
「おう。」
藍子の体を抱きしめ返すと、藍子の香水のにおいがした。
甘くて、みずっぽい、艶のある香り。
なぁ藍子。
照れくさくて言えないけど、俺の夢、もう一つあるんだ。
――――――死ぬまで、この香りを、そばに置いておくこと。
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