そばかす
2,
「も・・・もしもし。」
晴彦が、どもった様子で電話に出る。
俺たちのインディーズCDが発売してから、一週間が経過した。
今日は、またあの地下室に集まって、ある一本の電話を、メンバー全員で待っていた。
その電話とは。
「はい・・・え!?マジっすか!・・・はい、・・・・はい!ありがとうございます!・・・はい、じゃ、またあとで・・・。」
例のレコード会社からの、CDの売り上げについての電話だった。
晴彦が、安堵した様子で電話の終話ボタンを押す。
そして、一気に顔を輝かせて、俺たちに向き直った。
晴彦「CD、即日売り切れだってさ!!」
藍子「・・・ま・・・」
弘樹「まじ・・・」
浩介「おっしゃ。」
俺は一人ガッツポーズを取る。
まぁ予想はしていた。
売り出した範囲は俺たちがライブを行ってきている県内だったし、ファンもたくさんいたから、売り切れるだろうとは、予想していた。
ちょっと自信過剰かな?と思ってたけど。
弘樹と藍子は、まだ状況が掴めていない様子。
弘樹「え・・・で?」
晴彦「メジャーデビューの方も、検討してみるってさ♪ってか、会社の中ではもう半分以上決まってるらしいけど。」
藍子「な・・・なにが?」
晴彦「俺たちのメジャーデビュー。」
浩介「おー、じゃ、練習しなきゃなー。」
俺は軽い足取りで立ち上がり、愛器のもとへ向かう。
やったー、ベースで食っていけるかも。チャンスが巡ってきた。
三人の足、引っ張らないように、もっともっと、練習しなくては。
晴彦「あ、それで、みなさんに悲しいお知らせが。」
弘樹「え?」
晴彦「・・・レコード会社の人が、『とりあえず今の時点で全国に聴かせられるのはベースとボーカル。ギターとドラム練習しろ』だって。」
浩介「・・・は。」
弘樹「いやーん、ショック。」
藍子「違うよ、弘樹と晴彦も十分うまいのに、浩介がうますぎて二人が目立たないんだよ。」晴彦「『だから練習がんばってね☆』ってハートか星つきで言われたぞ。」
さー、練習練習、と三人は立ち上がる。
え、ちょっと待ってって。
このバンドで一番下手なの俺だろ、絶対。
* * *
「真那ー、俺、デビューしちゃったよ。」
線香から出た白く細い煙が、空へ空へと昇っていく。
背後にある黒い墓石のせいで、それはくっきりと目に入ってくる。
もう、見慣れた風景だ。
「天国、テレビあんのかな。」
「あるわけないでしょ。」
後ろから、前よりは落ち着いた、聞き慣れた声がした。
「じゃ、俺どんだけ有名になっても、真那にギター弾いてるところ見てもらえないか。」
自嘲しながら返事をすると、その人もまた、優しく笑った。
すごく久しぶりだ、その人の、優しい顔は。
「うーん・・・ま、あるんじゃない?あるんだったらきっと買ってくれるわ、向こうにいるお父さんが。」
「あ、一緒に住んでるかもな。」
「あの人は地獄にいるかもしれないけどね。」
その言葉に、二人は笑った。
* * *
「いやいやー、はい、そうなんですよ!実は!」
親父が、小さな受話器を手に、調子良さそうな声をあげている。
くそ、バンド始めたころは、あんなにも反対してたのに。
「あー、はい。じゃ、どうも。」
そして受話器を丁寧に置き、機嫌良さそうにいつもの席へと座る。
母さんは、そんな親父の様子を見て苦笑いをしていた。
「親父、そのうち変な番組のインタビューとかに鼻高々出てるんじゃねぇの?」
弟が、おもしろそうに隣で言う。
テレビの画面には、俺たちが出てる番組。
苦笑いしてる母さんだって、ちゃっかりビデオ録っちゃってたりするもんな、どーなんだ、俺の家族。
弟に至っては、俺がアップで映ってるところばっか、繰り返し繰り返し見てる。
・・・爆笑しながら。
「何度見てもおもしれー。兄貴、こんなかっこよくナルシストな顔、できんのな。」
「・・・お前だってこの間新聞出てたときかなりかっこつけてたじゃんか。」
「それはスポーツ選手としてのたしなみだって。」
テレビの画面には、自分で見ると赤面しそうなぐらいかっこつけた俺の顔。
かっこつけてたつもり、ないのに。
「まぁ兄貴の貯金通帳見るの、楽しみだな。」
* * *
「父ちゃん!ほら、みはって!」
「おぉ、藍子めんこいやないの!」
父ちゃんと母ちゃんが、あたしが出とるテレビ見はって、ぎゃーぎゃーわあわあと騒いどる。
ったくもう、えぇ近所迷惑や、うちの親。
「わぁー!浩介君かっこえぇがな!父ちゃん、将来の息子やで!」
「やめんかいな!うっさいわ二人とも!」
「藍子怒ってもしゃあないやん。あほくさい。」
「あほくさいのはどっちや!いちびんといてぇや!」
あぁ、もうどうしようもないわ、この二人。
大好きな、二人やけどね。
* * *
「あー、出てる。」
彼女の美貴が、うれしそうに画面をのぞき込む。
「すごいねー、藍子ちゃん、相変わらず歌上手。」
「当たり前だろ、俺らの藍子だからな。」
「調子乗んなよー。」
美貴が、俺の胸を軽くこづく。
そしてベースの伴奏だけで歌っているフレーズになると、仲良さそうに寄り添い、浩介の肩に手を置いて気持ちよさそうに歌っている藍子と、ステージの上やカメラの前だとこの上なくかっこいいオーラを放つ、ベースを弾いている浩介の様子が映し出された。
その画面を見て、美貴は言う。
「結婚するんだろうね、この二人。」
「まぁな。今だにすげー仲良いし。」
「え〜?私ら以上?」
「いやそれは負ける気しねぇな。」
「やっぱりー。」
にっこりと、白い歯を見せて笑った。
「ていうか、心配だったんだから、はるが、バンド組んだばっかのころ。」
「何が?」
「藍子ちゃんにはるとられたらどうしようとか思ってた。」
「ばーか。」
二人で笑っているときが、一番楽しい。
ドラム叩いてるときよりも、ライブやってるときよりも。
ていうか、わかってねぇんじゃねえの、こいつ。
美貴のためだったら、たとえドラム捨てたっていいと思ってるってこと。
「美貴、結婚するか。」
「ほんと?やったー。藍子ちゃんより先だ。」
「あの鈍感ベースに先は越されはしねぇ。」
・・・まぁ実際、捨てて!と言われたら、今は捨てられねぇが。
両方手に入れる、なんたって俺様だから。
* * *
「えー、でも杏仁豆腐は絶対セブン。」
「肉まんはミニップだって。」
後ろで、聞き慣れた言い争いが聞こえる。
「おい、お前ら大丈夫かよ、隣にはタモリさんだぞタモリさん。」
そいつも余裕な顔つきで振り返り笑いかける。
「大丈夫だってー。弘樹と私でトークちゃんと練習したもんねー。」
「ねー。」
俺はふっと笑い、まぁこいつらならいつもどおりいいトークを繰り広げてくれるだろう、とか思ったりしていた。
「浩ちゃーん?テンションはどうですか?」
「・・・上々。」
そばかす 完
NOVELtop