11,
店を出ると、時計の針はもう七時近くを指していて、日が沈みかけていた。
今観覧車に乗ったら、きっと夕日がきれいだね、ということになって、本日最後のアトラクション、観覧車に乗り込んだ。
観覧車の中で、私たちは向かい合って座る。ゆっくりゆっくり観覧車は回っていって、やがて、午前中に私たちが遊んだビーチが見えた。
海の水平線の向こうに、真夏の気の長い太陽が、沈もうとしている。夕日は、ピンクとオレンジが混ざったような色で、暗くなりかけている周りの空の藍色と混ざって、グラデーションがきれいだった。
「きれい・・・。」
私がそう言うと、リョウはそうだね、と言って微笑んだ。リョウの片頬は、夕日に照らされて赤く染まっていた。
「今日、いろんなことあったな・・・。」
窓の外を見つめながら、リョウはぼんやりと言った。
確かに、おかしいぐらいにいろんなことがあった。
ミワたちの自分勝手なペア行動から始まり、カナの好きな人がタクってことがわかって、海浜公園では若い夫婦に出会って、ナナの彼氏の浮気発覚、特別番組のインタビューに答えて、リョウと正式におつきあい成立して。カラオケでの駆け落ちもどきの逃亡、たくさんアトラクションに乗って、おそろいのストラップを買って・・・・本当に、いろんなことがあった。信じ切れないものもいくつかある。
「そだね・・・。たぶん、一生覚えてそう。」
「俺、一生忘れない自信あるぜ?」
ふふっと笑うと、うれしさがこみ上げてきて。そのあとに、さみしさがこみ上げてくる。
なんだか時間が経つのが早かったような気がする。もう、今日が終わってしまうのか・・・。
「ねね、アイ、あのストラップ貸して。」
「え?あぁ、うん・・・・・はい。」
サブバックの中から、あの包みを取り出す。リョウに手渡すと、リョウはポケットから自分のケータイを取り出してから、包みを丁寧に開けて、自分のストラップを中から出した。
「おー、思ったよりいい感じ。」
そう言って、リョウは自分のストラップを掲げて、私に見せる。
そこには、しっかりと『RYO』、その裏には『LOVE』と筆記体で掘られていた。私がリョウのストラップを手にとって見ていると、リョウは包みから私のストラップも取り出して、それをまじまじと見つめていた。
「俺、今つけちゃお。」
うれしそうに、リョウは自分のストラップを、飾りの少ないシンプルなケータイにつけ始める。
その姿を見て、私も自分のケータイにストラップをつけた。
「・・・黒にしてよかった、私。」
「俺も。」
二人ケータイを掲げて、おそろいのストラップを見つめる。
そうしているうちに、なんだかとってもうれしくて、顔がにやけそうになった。
「あ、合流のときのカズの話だけどさ。」
にやけるのを我慢していたら、リョウが唐突に言った。
そう言えば、リョウからナナの彼氏とのいざこざの話をカズSIDEで聞く予定だったのだ。
リョウは気を利かして、そのことを覚えてくれていた。
「うん?」
「カズ、抱きしめたらしいってのはナナちゃんから聞いたろ?」
「うん。ナナ、すんごい照れててデレデレしてた。」
「カズもだよ。で、カズとしてはそのときかなり緊張もんだったらしいんだけど、泣いてる女の子は抱きしめるって定義がカズの中にあるらしくてさ。」
「変な定義・・・。」
「それで、自分も気付かないうちに自然と抱き寄せてたらしいよ。」
「カズに男の本能が目覚めたのかな。」
「きっとそれだ。・・・ナナちゃん、もうすっかり彼氏さんのことふっきれてたみたいだけど。」
「うん、まぁだいたいは。でも、強がってるだけかもしれない。大人っぽいけど、あれで結構弱いとこあるから。」
「そっか〜。なんだ、もうカズに惚れたのかと思った。」
「・・・それもあるかもしれないけど。」
「まじ!?」
「うん・・・まぁ、恋の痛手くらってるときは、人間誰でも頼っちゃった人に気がいくでしょ。その程度じゃないかな。ランク上がったくらいだね、クラスメイトからいい感じの男友達、に。」
「なんだ〜。カズ、結構ナナちゃんヒットみたいだった。」
「おっ。じゃ、カズとナナがくっつくことを祈るかな。」
「あの二人、キャラ的にバランスとれてていいと思うな、俺は。」
「うん、ナナは姉さんキャラで、カズは弟キャラな感じで・・・。」
「あれでも一応、弟一人と妹二人の兄貴なのにな・・・。」
「うん、それ信じられない。なんか大家族の末っ子、って感じだもん。」
「でも案外根性も度胸もあるぜ?度胸なかったら抱きしめたりできないだろ。」
「ヘタレではなさそう。」
「そうだなー。・・・・俺もヘタレじゃないよ?」
「・・・・重々承知です。」
「ははっ。」
あなたがヘタレだったら、世界中の人々みんな超ヘタレになってしまいます。
やばっ・・・・。なんか、あのときのキスのこと、思い出して。
照れる、すっごい、照れる。あれから、リョウの顔、直視できないんだよな、恥ずかしくて。リョウの顔を見ると、あの、顔が近づいてくる瞬間がフラッシュバックする。で、リョウの唇の感触を思い出して・・・ぎゃーっ!!こんなの変態だよ!!私おかしいっ!!
「ねぇ、アイ。」
「・・・・・。」
「アイ?」
「へっ!?はいっ!?」
「考え事してた?」
「いや、えっと、ちょっとぼーっとしてた。」
やばい、キスのことが頭から離れない。
「・・・アイ、俺さ。」
「うん?」
「本気だよ?」
「何が?」
「・・・・アイのこと、好きだから。」
「・・・・もぉーっ・・・。」
「えっ!?何?」
「・・・・照れるし。」
「照れさせてるんだもん。・・・アイは?俺のこと、本気で好き?」
どうしてこんなにも素直に気持ちを言えるんだろう、リョウは。恥ずかしくないのかな。
面と向かって、「好き」だなんて、到底私にはできない。恥ずかしすぎる。顔、赤くなって、どうしようもなくなる。
でも、素直になりたいんだよ、私だって。
大好きな人に、いっぱい好きって言って、自分から手をつないで、しがみついて、甘えたい。頼りたい。自分の弱いところも、だめなところも、嫌なところも、全部さらけだして、素直に甘えたい。
・・・・リョウと一緒にいれば、素直になれるかな?
「・・・あのね、リョウ。」
「ん?」
「私が、いつからリョウのこと好きだったか知ってる?」
「しらん!!」
「そんな自信満々で即答されても・・・。」
「はははっ。知らない。だって、俺、本当にアイは俺のこと好きなのかなーって心配しちゃってるぐらいだから。」
「アホ。」
「アホ!?」
・・・・大好きに決まってんじゃん。って、言ってもいいのかな?素直に言いたいよ。
「・・・一年の始めっから、好きだったんだから。」
「えぇぇぇぇぇ!?!?!?」
「もーっ、ばかやろう・・・。」
「バカ!?」
さっきからリョウの反応おもしろいんですけど。
「ずっと、ずっと、ずっと好きだったんだから。・・・・大好きに決まってんじゃん。」
言っても、いいよね。大好きな人の前だもん、素直になろうよ。
「アイ、隣行っていい?」
「・・・どーぞ。」
私が座ってた対置からちょこちょこっと横にずれると、リョウは、向かい側の席から移ってきた。
「あのさー、俺、チューしてから、ちょっと反省したのね。」
「・・・なんで?」
「手ぇ早すぎだろって。」
「・・・アホ。」
「だから、これからアイのことめっちゃ大切にしようって思ってたんだけど。」
「うん?」
「今、すっごいチューしたいです。」
アホエロ王子登場。(命名アイ)
「してもいい?」
「・・・・・許可制にしないでよー・・・。」
「え、じゃ勝手にしてもいいの?」
「そーゆうわけにもいかないけど。普通暗黙の了解でしょ、こういう場合。」
「暗黙・・・?」
「雰囲気とかで。」
「あぁ、じゃ、今してもいい雰囲気?」
「あんたが壊したわ。」
「えっ!!」
アホエロ王子凹んでます。
その姿がかわいらしくて、私はついつい笑みがこぼれる。
「なんで笑うのー?」
「だって、リョウかわいいんだもん。」
「アイの方がかわいいです。」
アホエロ王子復活。
「ねー、チューしてもいい?」
「・・・どーぞ。」
「あ、でも許可制にしたときどうやって事を進めればいいかわからん。」
「リョウは勢い型なんじゃない?」
「いや、どっちもこなせるようになってみる。」
「・・・がんばってください。」
「んー・・・・、あ、わかった!」
「なんですか対策は?」
「『目ぇつむって』って言う。」
「あー、よくありがちなパターンですね。」
「じゃ・・・・『目ぇつむって』?」
言われたとおり、きゅっと目を閉じる。
すると、リョウは私の頬にその大きな手をそえて、そっと、唇を重ねた。
あー・・・・ゲームセンターのときより長ぇな、くっついてる時間。ま、あの時はリョウも慣れてないっぽくて二秒ぐらいしかしなかったしな。一回目は一秒もしてなかった気がするし。
はっ!!!チューしてるときにこんなこと考えてんじゃねーよ私!!
唇が離れると、リョウは照れ笑いして、うつむいてた。
きっとする側は何倍も緊張するんだろうな、される側より。失敗したらかなり恥ずかしいしな。
そして、何気なく、窓の外を見る。
さっきまで、リョウが座っていて、向こう側がみえなかった、真正面の窓の向こう。私たちが乗ってる部屋の、隣の部屋が見えた。もう、観覧車も終わりかけだ。
あー、やっぱり人乗ってる。こんな時間帯でも、やっぱり立て続けに人は乗るんだろう。やけにいっぱい乗ってるな、家族連れかな?心なしかこちらを観てる気がする。なんか窓に張り付いてる人もいるし・・・・。
・・・・って、あれミワたちじゃんっっっっっ!!!!!!
「リョウ、向こう側に乗ってるの・・・・。」
「へ?」
そう言って、リョウもうつむいていた顔をあげ、私が指差した方向を見る。
「あ゙。」
「ミ・・・ワたちだよね?」
よく見ると、六人全員乗っている。
タクとケンが、窓に張り付いて、こちらをがーっと見ている。ミワとカナも、口元を押さえて、同じくこちらをガン見。この四人は、驚きと好奇心を隠しきれないような顔をしていた。
そして、ナナとカズは、本当ヤバイ、という顔をして、後ろの方からちらを見据えていた。
「・・・見られたよね、絶対。」
「・・・うん、見られたな、絶対。」
ナナとカズ、きっといろいろ阻止してくれたのだろう、あの様子だと。
気付かなかった、みんなが私たちのすぐ後ろの観覧車の小部屋に乗っていただなんて。そういえば、この観覧車には並ばずにすーっと入れたから、そのあとこそこそついてタイミングよく私たちの後ろに乗ったのか?それとも偶然?いずれにせよ、あそこからここの中は、今の位置だとベストで見える。一部始終、見られていたということか。
もう、観覧車から降りる時間だ。密室の、ラブラブだったけど波乱に満ちた15分間が、終わりを告げる。
「・・・アイ、猛ダッシュ用意。」
「・・・了解。」
リョウは、私の手をぎゅっと握って、私もしっかりと握り返す。
くっそー・・・不覚だ、ラブラブな時間をもっと満喫したかった。
観覧車のドアが開かれると同時に、私たち二人は走り出す。
これはどうやら、最後の最後まで、『いろんなことがあった』日になりそうだ。
14 years old NO.12 へ続く
next NOVELtop