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「あ、つき合ってます。」


そう、リョウがあっけらかんと言った。
始業式が終わった後、私とリョウは予想どおり呼び出しされ、職員室のど真ん中と言っていいところにいる。
みんなで並んで教室に帰ろうとしたときに、学年主任の先生に、『宮森ー、長田ー、ちょっと来い。』と。(長田はリョウの名字。)
学年みんなの前で。最悪。まぁみんなにばれているので今更騒いだところでどうしようもない。現実を見ろ、アイ。
クラスの列から抜けるときに、周りから妙な言葉を浴びせられたりしたが、リョウがその声援とも言えるべきものに応えていたのでよしとする。


「おっす、アイー。」
「・・・おっす。」
「予想通りだな☆」
「全くだね・・・。」

先生に引率されて職員室に行く途中、リョウはのんきにそんなことを話していた。ふざけて『手ぇつないでみたりしてイチャイチャしてみる?』とか言ってたしな・・・全く危機感のないヤツである。





「・・・でだな、中学生としての立場を考えた上で・・・・」


学年中の先生に囲まれ、長々と説教をされた。これまた意味のわからない説教で、聞いていてあくびをこらえるので精一杯である。

そして、話の中盤に聞かれたのが、つき合っているか否か、という質問で、リョウははっきりと答えた。ここまで即答ではっきりと答えるヤツも珍しいだろう、この学校のことだから。


「・・・中学生には必要ないんじゃないの?」


私の担任が、リョウの言葉を聞いて、言いにくそうに言った。きたきた、噂の、「別れの催促」。さすがにここまで露骨に言われると、いい気分はしない。
私が黙っていると、これまたあっけらかんと、リョウが答える。


「何がですか?」


普通はこんな質問しないよなー・・・。まぁリョウの場合先生たちを困らせたいから言ってるんだろうけど。やつだって頭はきれる。天然ちょっと入ってるけどアホではない。何かと策略はあるはずだ。だって、さっき職員室に向かう途中、『アイは黙って聞いてるだけでいいから。』と、リョウは自信満々に言った。
本当に大丈夫なのだろうか、とちょっと思ったが、ここはリョウに任せておいた方がいいと思ったので、黙っている。


「何って・・・。そりゃ、ねぇ?」


だからそれがなんだよって聞いてんだよ。


「まぁ・・・あれだ、長田。お前らは中学生だしな?そういうのは・・・。」


そういうのがなんだって聞いてんだよ。


「そういうの、って、何ですか?俺、わかんなんすけど。すんません、鈍くて。」


自信満々なリョウの言葉を聞いて、私は吹き出しそうになる。リョウの本性を知っていると、知らない人たちを見てるとおもしろくてたまらない。
いやいやいやいや、リョウ、あんたはとんでもなく鋭いですよ?


「・・・恋愛をするなとは言わん。男女交際はまだ早いんじゃないか、と言ってるんだ。」


学年主任が、そう威厳を持って言った。おー、ついにきた。ちょっとほめてやるよ、学年主任。あんたは偉い。さすがに先生たちも幸せそうにつきあいをしている生徒にはっきりと言うのは辛いところがあるのだろう。こういう仕事は流れ的に学年主任がやらねばいけなくなる。


「あー・・・つまり別れろって言ってんですか?」


リョウ、あんたのそういう勇気に惚れ直す。


「まぁ・・・なんというか、その・・・。」


あー、先生困ってます。ものすんごく困ってます。さぁどうでる?先生たち。


「別れませんよ?俺ら。」


防御に回った先生たちを相変わらず攻めていくリョウ。そうだ、その調子だ、リョウ。


「・・なっ!なんだその態度は!!」


あー、学年主任怒っちゃった。まぁ、ここはフォローしとくか、そろそろ。
教員を丸め込むのは昔から得意だ、とんでもなく。私はこれでここまで上り詰めてきた。
もともと口げんかは強い。最近は押さえてきているが。観察が特技な故、人の弱みを見つけるのも得意なわけである。教員はきれい事しか言えない。つまり、自分に非があれば、私たちにどうこう言う権利などなくなるわけだ。私はただの一生徒。きれい事じゃなくたって、なんでも言える。
しかも、私はこの学年主任の秘密を一つ、にぎっている。私は不敵な笑みを浮かべながら、小声で、言った。


「・・・先生、この前の日曜日、どこにいました?」
「・・・え?」
「この前の日曜日の夜、何してました?」


マスターとキヌヨさんから聞いた情報。学年主任不倫疑惑。
この間の日曜日の夜・・・グーテン・アーベントに学年主任が、若い女と二人で腕を組んで来店した。キヌヨさんはたまたまこの学年主任の教え子で、学年主任のことを知っていたからこそ、得た情報だ。キヌヨさんの方は、顔を微妙に隠していたので、気付かれなかったのだそうだ。会話を聞き耳立てて聞いていて 、会話から普通に読みとれば、不倫。マスターによると、あの学年主任とその連れの女は前々からの常連で、二週間に一度は来店する。たまたま私もキヌヨさんもいないときに来店していたので、今まで事実を隠されていたわけだ。学年主任をやっているぐらいだから、年もそれなりの中年すぎで、結婚ももちろんしていて、子供はいない。不倫でしか、ないのだろうか?
学年主任の顔は、みるみる青くなっていく。


「み、宮森・・・お前、あんな時間になにしていたんだ!」
「え?別に、家にいましたけど。」
「この前の日曜だったら・・・俺と電話してましたよ、アイは。」


リョウが、すかさずフォローをいれる。
そう、私はそのときリョウと電話していた。リョウはこの学年主任不倫疑惑の話を知らないが、感の鋭いヤツだ、もう薄々気付いているのであろう。
しかしこの学年主任も頭が悪い。まぁ人間誰でも非があれば焦るものなのだが、さっきのは半分カマかけしたつもりだったのだ。キヌヨさんから写メールをもらって、八割方確信していたが、まさかあの真面目な学年主任が・・・と、思っていたのだ。
でも、これで確信に変わった。ざまーみろってんだ。前々から嫌いだったしな、この学年主任。授業ヘタだし、言ってること矛盾してるし。


「先生?どうされたんですか?」


物わかりが良くて人気のある若い男の前川先生が、学年主任の焦る様子を見て、心配そうに声を掛ける。


「・・・先生、失礼ですが、私たちに何か言える立場なんですか?」


これまた学年主任に聞こえるだけの小声で言うと、学年主任は顔を赤くして、興奮し始めた。大きな怒声をあげる。


「な、なんなんだお前達は!」


お前がなんだっつーの。


「宮森アイと、」
「長田リョウでーす。」


なめくさったリョウと私の態度に、学年主任はますます怒りのバロメーターを上げる。
あ、ちょっとヤバイかも。


「まぁまぁ先生、落ち着いてください。」


前川先生が、学年主任をなだめるように言った。
ナイスタイミング。前川先生も含めた他の先生は、何のことがさっぱりわからない様子で、いきなり怒り始めた学年主任に怪訝そうな目を向けている。
そして、前川先生は他の先生たちをもなだめるように、


「まぁ、この子たちは僕に任せてください。こんな大勢で攻めてしまったら、彼らも言いたいことも言えないでしょう。僕がちゃんと指導しておきますから、他の先生方はご自分のクラスに向かわれた方がいいのでは?もうHR始まる時間ですよ?」


そう、さわやかに言った。私たちを、ここから連れだそうとしてくれてるみたいだ。前川先生は、クラスを持っていない。私たちを連れ出す理由としては、十分納得のいく理由だ。そうだな、そうですね、と、他の先生方が口々に言い、私たちの周りから去っていった。
学年主任だけは納得のいかないような顔をして、そのまま自分の席に座っていた。・・・自業自得だろ。


「行こう、二人とも。」


前川先生は、笑顔でそう言い、私たちを職員室から解放した。




* * *



生徒指導室やら空いている教室に連れて行かれるかと思ったら、前川先生は、私たちを屋上へ連れて行った。
校内の自動販売機でジュースを3本飼うと、一本ずつ私たちに渡して、屋上のベンチに座り込むと、まぁ座れよ、と言って私たちは前川先生と一緒のベンチに座った。
先生に買ってもらった缶ジュースを開けようとすると、リョウはそれに気付いて、あのときと同じように私の缶ジュースを開けてくれた。覚えててくれたんだ、私が缶ジュースを開けられないこと。
その様子を見ていた前川先生は、ははっ、となつかしむように笑った。


前川「お前ら仲良いなー。」
リョウ「あたりまえじゃないっすか。」
前川「あぁ、そうだな、つきあってんだもんな。」


前川先生と、その隣に座ったリョウは、さわやかに会話をしている。


アイ「先生は、見たんですか?テレビ。」
前川「あぁ、見たよ。あぁいう番組好きでさー。びっくりしたよ、お前ら出てきて。おっ、あいつらやるじゃん!とか思っちゃった。だめだよなー、教師なのに。」
リョウ「先生らしいじゃん。」
前川「お前それ失礼にあたるぞー。」


3人で笑うと、自然とこわばっていた自分の心が柔らかくなっていくのを感じた。
先生を丸め込むのは得意って言ったって、呼び出しになれていない私は、顔や態度に出さないものの、呼び出しされている間ずっとドキドキハラハラしていた。これで成績さがったらどうしよう、とか考えていた。


前川「恐かっただろー、あんな先生たちに囲まれて。おそらくリョウもアイも呼び出し、初めてだろ?」
アイ「うん。」
リョウ「俺も。でもアイは俺がいたから大丈夫だもんなー?」
アイ「はいはい・・・。」
前川「見せつけんなよ、おい。でなー、俺も一応教師だし、お前らに説教言わなきゃいけない立場なんだ。」


前川先生は言いにくそうに、私たちに向き直った。


前川「あのな、俺は実言うと、この学校の男女交際禁止っていうのはおかしいと思うんだ。でもな、あんな番組にでちゃうと、なんだかんだ言って困るのはお前達や周りの人たちだろ?そこは、反省しなきゃいけないぞ?」
リョウ「うん。」
前川「まぁあれも結構無理矢理だろ?俺の予想だけど、アイはああいうの出たがるようなヤツじゃないし。」
アイ「そうなんだよー。インタビューって聞いたからOKしたのに、いきなりチューしてくださいとか言うんだもん、困った。」
リョウ「あれは俺がノリでしちゃっただけだよ。」
前川「だろー?まぁ番組も高校生だと思った、って言ってたし、誰が悪いとは言い切れない。だから、お前らには一切非はないと思ってるよ、俺は。」


前川先生が人気があるのもわかる。
うちの学校の教師は生徒の意見を聞かずただ一方的に怒るケースが多いのだが、前川先生は違った。ちゃんと私たちの意見を聞いて、悩み相談にも乗ってくれるし。でもときにはちゃんとわかるようにしかってくれる。授業も若いなりに上手だしな。


前川「まぁ・・・こんなこと言っちゃいけないが、応援してるからさ、お前らのこと。他の先生たちに負けんなよ?」
リョウ「何言ってんの、先生。俺らが別れるわけないじゃん。」
前川「おっ?じゃいつか結婚するか?」
リョウ「もちろん。」
前川「おー、言うねぇ、リョウ。だってさ?アイ。お前はどうなわけ?」
アイ「・・・するよ、たぶん。」


そう言ってから、私は一人で照れた。
この調子じゃ別れることはないだろうけど、結婚なんて、まだまだ先の話じゃないか。実感沸かない。


前川「まぁ・・・実際俺みたいに別に男女交際ぐらい、いいだろって思ってる先生の方が多いはずだし。先生たちのことは俺がうまくフォローしとくからさ。お前らはのびのびと恋愛してろ。」
リョウ「ありがとう、先生。」
前川「どういたしまして。じゃ、俺は行くわ、もう。お前らはHR終わったあとゆっくり帰れよ、たぶんお前らが今教室に行くとパニック状態になるから。」


そう言って、前川先生は私たちを残して屋上から出ていった。


「第一次ハードル突破・・・か?」
「そうかも。」



ハードル、『先生』突破。





14 years old NO.15 へ続く





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