15、
「まぁ・・・噂も75日、って、よく言うものだね・・・。」
「全く。」
新学期が始まって二ヶ月半が経つ。11月に入って、制服も冬服になり、だんだんと寒さが強くなっていく。
ナナの言うとおり、噂も75日。
新学期が始まって間もないころは、リョウのファンやらに呼び出しされたり、あの学年主任にいやがらせされたりといろいろあったが、リョウやナナ、カズや前川先生の支えもあって、なんとか乗り越えてきた。
でも・・・。
「ミワ、まだ怒ってるのかな。」
「・・・そうだよ。まだ話してくれないもん。」
あれから、また問題が発生してしまった。
タクとケンが、私に告白してきたのだ。タクはリョウから聞いていたことなので、あまりびっくりしなかったが、ケンが告白してきたときは、びっくりした。もちろんフったが、その事実が、ミワとカナに知れてしまった。カナはなんともなかったように接してくれるが、ミワは私がケンに告白されてから、私と話してくれない。
しかも。
「宮森ー。あのさ、さっきの授業でさ。」
・・・という感じでタクは、一ヶ月前に私に告白してきて、私にはっきりとフられたというのに、私に猛烈にアピールしてくる。
「・・・うん?」
「あいつかなりおもしろかったよなーっ。学年主任!」
毎日クラスでこんな調子では、ミワが私を避けたくなる理由もわかる。
カナは私とタクのそんなやりとりを見て気まずそうにうつむいてしまうし、カナとミワは去年からの仲良しであって、ミワはタクのことが好きだったわけじゃない。
でもさすがに、今までどおり私とつきあっていくのは、カナやミワは辛いところがあるのかもしれない。
そしてケンはというと、今までどおりに接してくれる。カズいわく、だが、ただ今あきらめようとがんばっているらしい。謝る立場ではないが・・・ごめん、ケン。
「アイ!ちょっと職員室ついてきて〜。」
ナナが、いつものように私を呼ぶ。
タクに話しかけられてしまったときは、決まってナナが嘘をついて私をどこかへ連れだしてくれるか、カズがタクを呼び出してくれる。
「あ、うん!ごめんね、タク。じゃ、また今度。」
タクの言葉を待たずに、私はナナと一緒に走り出す。
あー、もう、やってられない、こんなの。タクが話しかけてくるとミワの視線が痛いし、カナの苦しむ顔をみるのも嫌だ。
友情って、こんなものだったのか。
ミワとカナとは、友達になれた気がしてた。自惚れてた。これからもずっと仲良くしていくんだろうなって、思いこんでた。
でも、所詮女の友情なんて、男で終わるものだったのか。私が悪いワケじゃない。誰が悪いワケじゃない。でも、こんなことは現実に起こってしまうのだ。
拍子ぬけだ。
「ナナ、いつもありがとう。」
「いいよいいよー。ったくもう、タク、なんで空気読めないのよ。」
「しょうがないよ、そういうのがアイツなんだって。」
「ミワたちも、ますますひどくなってる気がするしねー、反応。」
「うん・・・そうだね。」
私がしょぼくれてると、ナナは私の肩をぽん、と叩いて、その整った顔で、微笑んだ。
「だーいじょうぶっ!アイには私だってカズだって、リョウ君だってついてるじゃない。私は何があってもアイの見方だし。」
ナナにその言葉を掛けられて、きゅーっと、胸が心地よく痛むのを感じた。そうだ、私にはナナがいる。カズだって、リョウだって。
ミワとカナとこうなってしまったのは、所詮その程度のうすっぺらい友情だったということだ。そう割り切るしかない。
友達なんて、本当の友達が2,3人いればいい、そんなことを、マスターが言っていた気がする。
私は照れ笑いを隠しながらありがと、とだけ言うと、ナナはまた微笑んだ。
「どうする?昼休み終わるまで、屋上にでも行ってる?」
「う〜ん、それでもいいけど、寒くない?私は大丈夫だけど、ナナは寒がりじゃん。」
「あー、やだやだ、寒いの!」
「ほら、やっぱり〜。屋内にしようよ、音楽室とかそこらへん、空いてるでしょ。」
ナナはとんでもなく寒がりで、10月からもう制服にカーディガンを着用していた。
私なんか11月に入る直前まで間服だったというのに。実際まだまだ間服でもイケるが、リョウに風邪ひくからちょっとぐらい着ろ、って言われて今は間服の上にカーディガンを着用している。
ナナは今、冬服の上にカーディガンを着用していて、それでも寒い寒いというぐらいだから相当だ。
私の提案とナナの極度の寒がりを理由に音楽室に行くことになった私たちは、行き慣れてはいない音楽室へと向かった。
* * *
音楽室につくと、そこには誰もいなくて、私たち二人だけだった。
音楽室は防音してあるからか他の教室よりも暖かくて、楽器もさわり邦題なので、これからの昼休みは音楽室に居座ることになりそうだね、と二人で笑い合った。
ピアノを開くと、見慣れた鍵盤が目に映る。
私はこれでも小さいころからピアノをやっていたので、結構弾ける。
覚えているクラシックを弾くと、ナナは驚いた顔をして、相変わらず私に押され続けている鍵盤をのぞき込んだ。
「すごい、アイ、こんな上手だったんだ?」
そんなナナの言葉に、私は弾く手を止めずはにかんで返す。ワンフレーズ弾き終わると、私はふう、と息をついてから、ナナに向き直った。
「まぁ・・・昔からやってたから。でもそんな上手じゃないよ、もっとうまい人いるし。」
「えー、でもこんな上手なのにもったいない。合唱コンクールとかで、伴奏やればいいのに。」
「緊張しやすいんだ、私。だからああいう人前ではあがっちゃって何も弾けなくなっちゃう。」
そう言うと、ナナはそうなんだぁー、と残念そうに言った。
私は極度の上がり性で、人前でピアノを弾くなんてとても無理だ。失敗の連続で恥をかくだけだろう。
ナナのように仲の良い友達の前だったら何も緊張などすることなく平気に弾けるのだが。上がり性じゃなかったら、きっと合唱コンクールとかで大活躍できていたんだろうな。技術的な問題からすればそんなに下手ではないと思うし。
「いいなぁー。私、楽器とかなんもできない。」
「えぇ!?以外。ナナ、すっごいピアノ少女って感じだよ、外見的に。」
「よく言われるけどさぁ、実は外見からは想像できぬ音楽素人だから。」
「性格も男っぽくてサバサバしてるしね。」
二人で笑い合っていた。
私は、ナナさえいればいいと思った。サバサバしてて、小さいことなんて気にしない。でも人の心はちゃんとわかってて、義理だって人情だって、ちゃんとわかってる。人のことを、一番に考えてる。かわいくたって、気取らない。悪口なんて、言わない。でも、私の愚痴は、ただ頷いて、聞いてくれるんだよなぁ。・・・そんなナナが、大好きだった。ナナさえいれば、本当によかった。今、何よりも失いたくない物は、きっとナナだ。
「ナナ。」
「んー?」
「男一瞬、ダチ一生、だね。」
「なに言ってんの。」
「私が通ってる喫茶店のね、同じ常連のお姉さんが言ってた言葉なんだ。」
「へー・・・。まぁ、うちらは男もダチも一生、だけどね?」
「・・・まぁね。」
ナナはあれからカズと順調で、すっかりカズの甘えん坊さにも慣れたようだ。
キスもしたらしい。なんでも不意打ちだったとか。カズって、ヘタレっぽい雰囲気ただよわせているのに、雰囲気によらず結構やり手だ。まぁ・・・うちのよりは負けますがね。
「アイ、私さー。」
「うん?」
「アイと仲良くなれてよかったよー。」
「何言い出すのいきなり。」
「んー、別に思ったこと言っとこうかな、って。」
「あ、そう。」
「アイも私に負けじとサバサバしてるよー。」
「あ、そう?」
「うん。」
ナナはイスを持ってくると、私が座っているピアノのイスのこばにイスを置いて、さっと座った。
「あのさ、ミワのことは・・・私がなんとかする。」
ナナが、意を決したように、そう言った。
「え?なんで、ほっといてもかまわないのに。」
返した私の言葉は本心だった。
別にクラス全体が関わってきている問題ではないし、私が悪いことをしたわけではないのに加えてミワが一方的に私を避けているだけであるから、このままでもかまわなかった。
苦痛がないと言えば嘘になるが、それでも自分に非がないから平気だった。
「んー・・・でも、あんなに仲良かったのに、やっぱ嫌じゃない、こういうの。」
「そりゃそうだけど・・・ほり返したらますますややこしくならない?」
「そうかもしれないけど・・・最近、ミワがアイのこと避けてるの、クラスの女子は気づき始めてる。クラス全体が的に回るほどみんなガキではないと思うけどさ、ミワってあれで結構クラスのリーダー的存在だし。」
「私らも裏リーダーとか言われてるけどね?」
「まぁ、そう言えばそうだけどさ。ミワは何しだすかわからない。念のため、仲直りってか・・・あっちが一方的に避けてるだけだけどさ、まぁ私は争う気なんかないわよ、ってしておいた方がいいと思うよ。」
ナナは、少し疲れた顔で言った。
そう言えば、最近ナナに気を遣わせっぱなしだ。タクやケン、ミワやカナと極力関わらないように、関わっても問題が起きないように雰囲気を保ってくれる。ナナには感謝することだらけだ。
けど、ナナにしてみれば普通の生活の何倍も気を遣う性格なのだろうし・・・疲れているんだろうな。ごめん、ナナ。
「ありがとう、ナナ。いろいろと。」
「んー?なーに言ってんの。私もいろいろ世話んなってるし、友達としてあたりまえでしょ?」
「・・・ありがとう。」
大好きなナナのためにも、早くミワと話をつけよう。そう切実に思った。
ナナは自分が話をつけてくれると言っているが・・・ここまで頼るわけにはいかない。自分のことは、自分でやらなければいけないと思う主義だ。ここで関係のないナナがしゃりしゃり出てきたら、溝は深まるだろう。
・・・私がやらねば。
「ナナ、私、自分で話つける。」
「・・・大丈夫?」
「うん。・・・私を誰だと思ってんの?」
「・・・あの学年主任を黙らせて学年一かっこいい少年をとりこにさせてる私の親友、宮森アイ。」
「よぉくわかってんじゃん。」
二人で爆笑したあと、ミワのケータイに、『放課後屋上に来て』と、私のケータイからメールを送信した。
* * *
「おーっす、久しぶり。」
「・・・・。」
放課後、ミワは呼び出した通り、ちゃんと屋上へやってきた。
最初、カナと二人で来ようとしてたみたいだが、カナもそこらへんはちゃんとわかっていてくれた。こういうのは一人で行くものなのだと、ちゃんとミワを説得してくれたらしい。ナナが言っていた。
そういう私ももちろん一人で、放課後の屋上は誰もいなかった。
もう、みんな帰っているか部活にでているからだ。これからゆっくりと話す分には、ちょうどよかった。
最初は来ないかな、と思っていたが、ミワも自分に非があることはちゃんとわかっているらしい。でもそれに納得していないようだ。ここで逃げたら、自分に非があることを認めてしまうことになってしまうから。
「まぁ、座って?」
私がフレンドリーに自分が座っていたベンチの横を示すと、ミワはおとなしく、でも無言で私の隣に、でも距離を置いて座った。
ミワの座った位置と私との位置の差が、私たちの心の距離みたいだった。あまり大きくもないベンチだが、こうやってミワが距離をおいて座ると、ベンチが特別大きく感じた。
「最近どう?」
いきなり単刀直入に切り出すと、さすがにセンスにかけるなーと思ったので、世間話から切り出してみることにする。
でもミワは、少しの沈黙のあとに、別に、と無愛想に返した。まぁ、こう答えてしまうのも人間の性だろう。
会話が続かなくてしょうがないので、単刀直入に切り出すことにした。
「あのさー、ミワ。私、そんな鈍感じゃないから、ミワが私のこと避けてるのぐらい気付いてるんだ。どんな理由で、避けているかっても。」
私がサバサバと感情を込めずにさらっと言うと、ミワはそれまで遠くを見ていた瞳を少しだけ泳がせたように見えた。
「私は、ミワのこともカナのことも好きだし、同じクラスでこんな仲な人がいるなんて、いやなのね。だから、避けるのはやめてほしいなって、思う。まぁ・・・避けたくなる気持ち、わからなくもないけどさ。」
ミワはゆっくりした、でもさらりとした私の言葉に、ただただ黙っていた。
私は、もうこれ以上言う必要がないと思ったので、ミワが口を開くまで、遠くを見て待っていた。
沈黙が、苦しかった。リョウの沈黙とは、明らかに違う沈黙で。不謹慎だが、こんなときに、リョウに会いたいと思ってしまった。こんな苦しくて狭い世界から早く抜け出して、リョウに抱きしめてもらいたいと、思ってしまった。
長く感じる沈黙を、ミワは、やっとのこさ出てきたような弱々しい声で、でも表年場は強がっているような声で、破った。
「・・・あんた見てるとむかついたのよ。」
あー、やっぱりそうですか、そんな風にさらりと思いたかったけど、私だって人間だ。人に嫌われたくないし、むかつくなんて言われたら、心が震度7ぐらいで揺れ動く。
でもとりあえず返事はしておこう、と、告白のときに思ったことをこのときまた思って、うん、とだけ言った。
「なんで、私じゃなくてアイなんだろう、って、すっごいむかついた。」
「うん。」
「私、かわいくなろうとすっごい努力してた。スキンケアだって、ダイエットだって、髪の手入れだって、気を抜かしたこと無かった。きれいでいて、誰にでも好かれるような人になろうって、努力してた。」
「うん。知ってる。」
「・・・でも、私は周りにブリッコって言われて、想ってる男の子にもふりむいてもらえなくて。全部、あんたに持ってかれた。」
「うん。」
「キレイのために、なんにも努力してなさそうなあんたが、モテて。私の方が、明らかに顔だって、スタイルだっていいのに。あんたには、学年一かっこいい彼氏がいて。タクの気持ちも、ケンの気持ちも、持っていった。」
「うん。」
「アイのどこがいいんだろう、って、すごく疑問だった。そんなこと考えてたら、自然とアイを避けてた。」
「うん。」
ミワは、そうやって、ゆっくりゆっくりと、淡々と話すと、また黙り込んだ。
ここまでのミワの話を聞いて・・・コイツ、つくづく性格悪いな、と思ってしまった私がいる。
言い返したいことがいっぱいあった。でも、その全てを言ってしまうのは、私の美学にすぐわないので、言わないことにする。
「・・・なんで『うん』しか言わないのよ。」
「え?」
「怒って、怒りまくって、私のこと、最低って言いながら、びんたでもしてくれた方が、楽だったのに。」
そう、今にも消え入りそうな声で言ったミワの顔を見ると、彼女の目からは、なんと、大粒の涙があふれ出していた。
ミワが泣いたのを、初めて見た。強がりばっかりしていて、弱音を見せない彼女の、初めて見た弱さだった。
彼女の涙は、キレイに見えた。
「私、気付いてたわよ。アイが、モテる理由ぐらい。私の性格が、アイと比にならないぐらい、悪いって事。アイの笑顔が、誰よりもかわいくて、きれいで、大人っぽくて、魅力的なこと。気付いてたわよ。・・・アイに対する気持ちが、ひがみだってことぐらい、気付いてたわよ。」
「・・・。」
「この際、とんでもなく性格悪い女になってやろうって、思ってたのに・・・。大人アイ相手じゃ、通用しないみたいね、こんなの。私も、アイみたいに大人になりたいな・・・。」
ミワは、私が好きなミワの、幼い少女のような繊細な優しい顔を見せて、自分の涙をぬぐった。
あぁ、そうだった。
私が好きだったはずの・・・ミワの、繊細な部分。ミワのときどき覗かせる繊細な心が、私はとても好きだった。ガサツな部分が目立つ私にとっては、憧れだった。そんな、ミワを、少しだけ、忘れていた。
ミワが、これだけ素直になって言ってくれたんだ。私も、言うべきなんじゃないか。
「ミワ、私ね、そんな大人じゃないよ。大人っぽいって言われるけど・・・ただ、冷めてるだけ。本当は、ちっとも大人なんかじゃない。一人じゃ生きていけないし、友達も、好きな人も、いなきゃ、生きていけない。大人になっていろんなことさらっと流していかないと、いろんなことがありすぎて、耐えていられない。大人になることが、嫌な事をかっこよく流す、逃げるための手段なんだよ。」
自分でここまで言って、改めて自分の小ささを知った。私なんて、周りの人たちがいないと、生きていけないただのガキ。ナナやカズの優しさも、リョウの包容力も、マスターやキヌヨさんの大人っぽさもないと、生きていけない、私など構成されてない、ただのガキ。
「私は、ミワみたいに積極的で、繊細で、かわいい子が憧れだった。どうやったらあんな風にかわいくふるまえるんだろう、って、すごく疑問だった。」
「・・・。」
「ミワには、ミワの良さがある。もちろん、私にも私の良さがあると思う。ナナだって、カナだって、みんなそうだよ。それぞれの良さを伸ばしていくのが、大切なことなんだと思う。自分の良さを見つけて、そこをもっと伸ばしていけば、きっと・・・キレイになれるんだよ。」
これは、キヌヨさんを見て思ったことだった。キヌヨさんは、自分の良さをしっかりと理解してて、自分の悪いところもちゃんと理解していて、それらをちゃんと利用しているんだ。ちゃんと、使いこなせているんだ。だから、あんなにも、美しく見える。あんなにも、優しくて、美しくて、大人な女性なのだ。
「あの3人が私のことを好きになったのは・・・ただの偶然だよ、あの3人の趣味が私だっただけ。こんなこと、もう一生ないと思うけどさ。ミワやカナが、ケンやタクのこと好きだった気持ち、よくわかる。でも、新しい恋に、向かっていってほしい。・・・その、かわいいミワの顔と、繊細な心で。ミワ、良いところ、たっくさんあるんだからさ。」
これだけ言うと、ミワは、また大粒の涙を流しながら、私に、ごめんね、ごめんね、と、何度も繰り返して、そのあと、ありがとうと何度も言った。
こちらこそ、ありがとう。ミワ。ミワとこんなことになったおかげで・・・私何か、大切なことに気づけた気がする。
ハードル、『友達』、突破。
14 years old NO.16 へ続く
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