14 years old
3,
「ハイ、あと十五人しゃべってますねぇー。」
校長がそう言った。
だいたい、なにを根拠にしてそういう証明しがたいことを言うのか。
それとも、そういうのはちゃんと数えてから、言ってるのか?
言葉には責任を持ちましょう、なんて教えてくれたのは、あなたたち大人ではなくて?
せまったるい体育館に整列し、三角座り、なんて、わざわざ疲れやすい座り方を指示して、それでなお、長くてつまらない話を聞かされる。
なんて縛られた世界なんだろう、ここは。
というか、あなたたち見ててわからない?
明らかに人口密度が高いでしょ。
元々日本は人口密度が高いのに、その狭い中の狭いところに押し込められる。
確かに、広いには広いよ、そりゃ、体育館だし。
だけどさ、そのせっかくの広さを台無しにしてしまうような、人数を入れるのはやめようよ。
それに、日本には四季というものがあるわけ。
こんな真夏日に、風通しの悪い体育館で、ぎゅうぎゅう詰めに押し込まれたりしたら、誰でも機嫌悪くなるわよ?
押し寿司の酢飯か、私たちは。
もうちょっと対策とってほしい。
考えればいろいろある、もう少し人と人との間隔に余裕を持って並ぶ、とか、夏期は体育館で朝礼や終業式をやらない、とか・・・もっといい考えは、体育館にクーラーをつけるとか。
そんなことを心の中でぶつぶつと考えながらも、私はおとなしく終業式の校長の話を聞いていた。
夏の制服は、長すぎて逆に昔の不良っぽいスカートと、白いブラウス一枚だけだったので、汗をかくと、汗がブラウスにしみて、ポツポツと無地のはずの布地に、水玉模様が現れる。
もう少し進化してしまうと完全に一部だけ色が、暗く違う。
それが恥ずかしくてたまらないのは、きっと汗っかきの私だけではないだろう。
ま、いいや、これが終われば夏休みが始まる。
・・・そう考えたいのは山々だけど、あいにく何の楽しみも備えていない私は、そう考えるのは少し難しかった。
きっとまた、友達に行きたくもない市民プールや映画なんかに誘われて、作り笑いをしながら、結局つき合うのだろう。
教室に戻ると、みんなは夏休みの話題で持ちきりだった。
私の席の周辺は普段、グループのみんなのたまり場になる。
まぁ、周りの席の男子が、容姿が良くて人気があるからだろう。
私は気怠げに頬杖をつきながら、いつもみんなの話を聞いている。
「私さぁー、また今年も家族でハワイ行かなくちゃならないんだよぉー。めんどくさいんだよね、毎年、毎年。」
へぇー、そりゃお気の毒に。
「私はお盆に、田舎のおばあちゃんちに行くんだぁー。おばあちゃん、優しいから大好き。今年、お小遣いいくらくれるかなぁ?今から楽しみっ!」
ということは、あなたがおばあちゃんのことを好きなのは、お金をくれるから?
「ねぇ、アイ、アイはどこか行くの?」
いきなり話しかけられて、私は少し焦った。
焦ったのは、みんなに話すほどの予定がないからだった。
「・・・別に。うちの親、めんどくさがりの上に忙しいから、最近はどこか出かけたりしないんだ。」
惨めな答え。
みんな、その答えを聞いて、えー、そうなの、と、わざとおおげさな反応を返す。
「え、でもさ、お盆とかは、どっか行くでしょ?」
一人の友達が、気をきかしたのかどうかは知らないが、思いついたように言った。
「あぁ、もちろん。墓参りに。」
私はもちろん冗談まじりで答えた。
こんなこと真顔で言ったら、みんなから私に向けられている視線は、軽蔑の目に、一瞬で変わる。
まぁもともと私はグループの中では冗談を言って、みんなを笑わせる係だ。
だからこんなことを真顔で言っても、みんなは笑ってくれる。
「もうっ、また始まったよ、アイの不思議発言っ!」
周りは笑いに包まれた。
本気で笑っているのか、作り笑いなのかは、私にはわからない。
だけど、笑ってくれることに、私は素直に喜びたい。と思いたい。
「ね、もちろんみんなでどっか行くよね?てか、行きたいよ!」
グループの中でも仕切り役の、そう、さっきおあばあちゃんの家に行く、と言ったカナが、そう提案した。
あー・・・ぶっちゃけ、めんどくさい、そんなこと言ったら、私の運命はどのような方向に行くのだろう。
運命は変えられる、という言葉を信じている人と、信じていない人がいるが、私は運命は変えられると思う派だ。
運命は、パズルのピースを、一つ一つ、自分ではめていくんだ。
ただし、例外もある。
「そうだ!やっぱ、海行こうよ!男子も誘ってさぁ!」
男たらしの、さっき、ハワイへ行く、と言ったミワが、そう発言した。
「いいねぇー!」
みんな同意。
その、ミワが発言した瞬間、みんなが同意した瞬間、私がはめるはずだった、私のパズルのピースを、みんなが力を合わせてはめてしまった。
なんということだろう、また、人にはめられた。
しかも二つものピースを。
一つは、私が海に行くか、ということを決めるピース、もう一つは、私が海に行きたくないといえるかどうかのピース。
だが、それらを自分ではめることはできずに、今、私の運命は、決まった。
夏休みには、海に行かなくてはならなくなった。
そう、これが、例外。
周りに、運命を決められてしまった。
なんともちゃっちい運命だけど。
「・・・・アイ?どうしたの?元気ないじゃん?」
「えっ!?いや、男子、誘うって言ってたじゃん?誰、誘うのかなぁ、って。」
とっさに聞かれたので、全くもって思ってなかった事を口にした。
「あぁ・・・どうしよっか?みんな、誰か、誘いたい人とか、いる?」
カナが、気をきかしているフリをした。
どうせこのメンバーで誘う男子なら、そこらへんのちゃらっぽい女たらしの男子だろう。
権力ピラミッドでいうと、結構、上の段にいつような奴ら。
サッカー部とか、バスケ部とか、そこらへんの。
「やっぱ、男子と女子の人数、あわせないといけないよね?うちらで四人いるから・・・男子もやっぱ四人?」
今度は、容姿がかわいくてモテる、ナナが言った。
私はいつもナナと行動している。
いや、だいたい休み時間にはこの四人で過ごすけど、移動教室とか、トイレ行くときとか、そういうときに。
「じゃぁさ、あの三人でいいじゃん!」
ミワが、私たちの後ろにいる男子三人のグループを指差した。
やっぱり、きたか。案の定、案の定。この三人組。
うちのクラスのトップスリー。
学年的にもトップだったような気がする。
トップっていうのは、モテ度が、トップって事。
え、でも。
「あれ?あと一人、たりなくない?」
私が聞く前に、ナナがそう聞いた。
私はナナにセリフをとられることが多い。
前向きに考えれば、それだけ私とナナは気が合う、ってことになるが、後ろ向きに考えれば、私はただのセリフをとられてばかりの引っ込み思案の女の子、ではないか。
「大丈夫、大丈夫。あの三人組に誰か一人誘ってもらえばいいだけの話でしょ。よし!そうと決まったら早速誘っちゃおうよ。」
カナが、てきぱきと、事を進める。
「でもさぁ、もし、もしだけど。あの三人が、すんごくショボいヤツ誘ったらどうすんの?」
ミワがそう聞いた。
まず、ないな。そんなこと。
ミワは、類は友を呼ぶ、と言う言葉を知らないのだろうか?
ショボいヤツはショボいなりに集まり寄り添い、トップはトップと寄り添う。
人間が集団生活をしていく上では、当たり前の、ごく自然な現象である。
実際に私たちもそうではないか。
人間は、自分と同じにおいのするものにしか寄らない。
経験ないだろうか?結構良いな、と思っていた男の子が、実はものすごくショボいグループに所属していて、幻滅した、とか。
えーっ・・・実は隠れショボ?みたいな感じにね。
つきあってる友達をみるだけで、人の基本的性格はわかるものでなのである。
私はそういう経験はないんだけど。
私は人を好きになるのに時間がかかるし、それに私は探偵並み、いや、それ以上の観察力があるから、人目見ただけでその人のだいたいの基本的な性格はわかる。
人は見た目によらない、という言葉があるが、私の辞書にはそんな言葉は存在しない。
さっきも言ったけれど、唯一自慢できる私の長所は、観察力があること。
昔からなんらかの観察をするのが好きだったから、このような人よりずば抜けて優れた能力になったのだろう。観察が。
努力の積み重ねは、この世で一番効果のある行動だと思う。
ちなみに私は、神頼みはしない主義だ。
「それはないっしょ?」
私が言った。思ったそのまんまのことを言った。
「そうかなぁ?ま、いいや、アイがそう言うなら大丈夫だよねっ。じゃ、誘うよ?」
ミワだけでなく全員が納得した。
どうやらグループの中で、私の発言は一番説得力があるらしい。
「ねぇねぇ、ケン!あのさ、夏休みに、一緒に海行かない?」
ミワが、三人組のリーダー格、ケンに言った。
この、さっきから話題に出てきている男子たちは、ケン、タク、カズ、の三人で構成されており、三人ともサッカー部で、もちろん運動神経は良し、頭もそこそこ良し、おまけに容姿も良し、と言った、三拍子そろった、いわゆるモテ男である。
だが、少々、女好きな面がある。
本人たちやある程度の女子(もしかしたら気付いているのは私だけかもしれない)は、そのような面に気が付いてはいないが。
このすべての特徴を、三人が三人とも併せ持っていて、正にこの人達が、類は友を呼ぶ、という日本語を説明するときの、絶好の見本になるだろう。
そして、私たちの誘いの返事だが、ミワはかわいいから、そこらへんの男なら二つ返事で、うんと言うだろう。
「おっ、いいじゃん。行こう、行こう。」
案の定、私の予想は当たった。
ていうか、こいつらは基本的に、女と遊ぶのが好きなはずだから、断るはずはない。
「でさ、うちら四人でしょ?人数合わせたいんだけど、男子一人誰でも良いから誘ってほしいんだけど・・・いいかな?」
ミワが、甘い声で言った。でた、得意の甘え。
私がミワと初対面の人に、ミワの事を紹介するとして、「一番の特技は何?」と聞かれたら、私は迷わず「甘え。」と答えるだろう。
「オッケー。じゃ、誰か誘っておくよ。」
今度は、タク。
タクはこの三人の中でも一番モテるヤツだ。
甘いフェイスに優しい性格で話しやすいからだと思う。きっとA型だ。
「じゃ、またメールするねぇ。」
カナが愛想よく言った。
私たちのグループはクラスの中では、権力ピラミッドで表すと、一番上段にいるグループである。
特にカナは、クラスでも仕切り役で、人望がある。
今学期は学級委員を務め、みんなからは、しっかりしてる、と評判だ。
仕切り役と言っても、あまり仕切りすぎず、本当に必要なときだけ、学級委員として首をつっこむ。
だから周りからは、真面目なイメージは着いていないと思われる。
少なくとも私は、カナは真面目ではないと思う。
容姿も憎めないかわいさ、とでも言っておこうか。
かわいすぎず、ブスではない。
まぁかわいさを、上、中、下で表すとしたら、中の上か上の下に位置する。
それに対し、ミワは、完全に、上の上に位置するかわいさだ。
その上、性格も本当に女の子女の子した性格で、ねちっこくて、どんなに細かい事でも気にする、引きずる、男子の前ではまるで性格が違う、といった、疑問に思うぐらい女の子度が高い。
私は、かわいい子ならぶりっこしても許される、という考えの持ち主だが、だいたいの女子が、ミワのことは、憎たらしいぶりっこ、と思ってるだろう、私に言わせれば、それはただのひがみ、だが。
仲良くなってみれば、ミワもそこまで性格が悪いわけではない。
気が利いて優しいし、女らしい繊細な性格は、私にはない発想を教えてくれる。
ナナは、さっきも言ったが、とにかくかわいい。
というか、きれい、の種類に入るだろうか。
ミワと同じで容姿に関しては上の上に位置するが、ミワとは正反対と言って良いほど、性格が違う。
サバサバしていて、細かい事は気にしない、引きずらない、さっぱりした性格だ。
理想が高いためか、そこらへんの男子とは必要以上に話さない。
本人いわく、「うちの学校の男子はレベルが低い」らしい。
高校生に彼氏がいるから、そう思うのかもしれないが。(実際ナナの彼氏はとんでもなくかっこいい。写真でしか見たこと無いけど。)
だが、女子とはとてもフレンドリーに接し、女子からの人気は高い。
気取らない性格が、その秘訣と言えるだろう。
・・・まぁ私たちも人のことを言えず、類は友を呼ぶ、という日本語を説明するには、もってこいのグループかもしれない。
このように、容姿の良い人たちが集まるグループは、自然に権力の面でも力を得ていく。
容姿が良いことは、この世で一番役立つ事柄だ。
実際あるだろう?かわいいから許せる、といったことが。
ナンパだって、かわいいから声をかける。
美人は一種の才能だ。うらやましい。
私にはなんの才能があるというのだろう。
美人という才能は生まれてすぐわかる、人々にとっては一番わかりやすい才能だが、それではない人はなんなのだろう。
この世には全く役に立たない才能もないとは言い切れない。
いつか誰かが言ってた、「神さまは平等」と。
つまり、美人という才能がもうわかってしまっているこの三人は、もう他の才能がない、ということだ。
じゃあ、私にはなんの才能があるのだろう、もしかしたら世界を股にかけるなにかがあるかもしれない、そんな根拠のないちゃっちい希望を抱いている私がいた。
14 years old NO.4 へ続く
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