5,




耳を疑った、私がいる。

あのあと、リョウは、ものすごく、ものすごく照れてて、見てるこっちまで恥ずかしくなってくるほど、赤面してた。
耳まで赤い。
しゃがんだまま、顔を大きな手で覆って、低く、あー、と、唸っている。
そんなことから、思わせぶり劇場ではないことがうかがえる。

当の私は、頭の中が混乱してて、リョウの言葉の意味を理解するので精一杯。
もちろん、リョウの言葉に返答するほどの余裕はなかった。
ただただリョウに買ってもらったジュースの缶を握りしめて、目をぱちくりさせて、固まってた。
銅像になった気分だった。
だけど、銅像から人間に戻った後の思考回路は、驚くほど働いてて、再起動十秒後には、もう発する言葉を決めていた。

銅像期と併せて、三分くらい、たっただろうか。


「うん。」


三分間の結果、返答はこれだ。
ちゃんと聞いてて、と言われたのだから、とりあえず返事はしとこう、そう思ったのだ、あの十秒間で。
思考回路は働いていたはずなのに、全く単純にも程がある。

リョウは、顔を覆っていた手を離し、また、驚いた顔で、私のことを見つめる。
それで、急に、声をあげて笑い出した。


「な、何!?」


当然のように、私は不思議に思う。
だって、うん、と答えただけなのに、なんで笑われなきゃいけないのか。
私の顔に何かついているのか。


「『うん』だけかよ!」


リョウは笑いながら、そう言った。
そう言えば、リョウがこんなに笑ってるの見るの、初めてだ。

そしてリョウは、笑うのをやめて、だが笑顔で言った。


「あー、やっぱりおもしろい。」
「何が?」
「アイが。」
「はぁ?」
「一年の時から、変な発言すること多かったじゃん。」
「私、そんな変なこと言ってる?」
「うん。よく言ってるよ。」
「えー・・・。でも、さっきの『うん』はおかしくないよ。ちゃんと聞いてて、ってリョウが言ったから、ちゃんと返事したんだよ。」
「あ、そっか。」


今度は、私の方が笑う。二人で笑い合う、こんなに幸せなことは、他にどんなことがあるのだろう。


「さっきの水着、来週のための?」


リョウは、急に話題変換した。水着の話題を出せるとは、男子中学生にしては、照れがない。


「来週?あぁ、タクから聞いたの?」


リョウが言ってるのは、おそらく来週予定している海に遊びいくことだろう。
タクも遊びに行くメンバーに入っていて、リョウはタクとよく一緒にいるから、タクから話を聞いたんだと思う。


「うん。」
「そう。水着持ってないから、今日買いに来たの。」
「やっぱり。・・・俺も行くって聞いてないよね?」
「えっ?四人目の男子メンバーって、リョウになったの?」
「うん。誘われた。大人数で遊ぶの好きじゃないし、最初は行く気なかったけど、話聞いてて、女子の中にアイがいたから、行くことにしたんだ。」
「・・・そうなんだ。」


そんなこと易々と言われても。照れるのは私だけなんだから。


「でさ、男子側は、みんな、女子とペアになって遊ぼうとしてるんだ。八人なんて大人数で動くのも大変だし、俺らが行く海水浴場、遊園地と併設されてるだろ?だから。」
「・・・うん。理由はだいたい予想できる。ケンの考えそうなことだね。」
「そうそう、あいつが言い出しっぺでさ。せっかく女子と行くんだから、って。」
「それでタクとカズも乗っちゃったんだ?」
「うん。でも、女子側にも了解とったって言ってたぞ?」
「えっ、私聞いてない。たぶんミワが勝手に、いい、っていっちゃったんだと思う。」
「まぁそんな感じだろうな。」
「一日中そのペアで行動することになるんだ?」
「うん。それで、男子で、誰と組みたいかって話しあったときに、俺はアイがいい、って、正直に言ったんだ。」
「・・・うん。それで?」
「でも、全員で取り合いになってさ、アイのこと。」


微笑を浮かべてリョウはそう言った。
私の取り合い・・・はっきり言ってうれしいけど、私のどこにそんな魅力があるんだ。

でも、平然を装って言う。


「なんで私なの?他の三人の子達の方がかわいくない?」
「俺は、一番アイがかわいいと思う。」
「えっ。」


ハッキリと自分の意見を言うリョウ。
それ以上私を照れさせないでください、お願いします。
リョウはまた笑って、言う。


「そうやってすぐ顔赤くなるところとか。」
「・・・赤くなってないよ。」
「赤くなってる。」
「・・・リョウもさっき顔赤くなってたよ。」
「そりゃ、告白するときぐらい、誰でも赤くなるよ。」
「あ、そうだね。」


だいたい、告白した後に、こんなに近距離で、こんな話題で平然と話せているリョウがおかしいのだ。
普通、マンガとかドラマで見る限り、告白の後ってものは、走り去るとか、抱きしめるとか、照れて何もしゃべれないとか、そういう感じじゃなかったのか。
でも、話していても、リョウは話しにくい感じがしない。
告白する前の雰囲気と、ぜんぜん変わらなかった。
リョウはいたずらな笑みと、手にブイサインを浮かべ、言う。


「で、俺はジャンケンでアイを勝ち取った。」
「おめでとう。」
「だから、来週よろしく。」
「うん。」


リョウは、おっしゃ、と言って立ち上がると、ふう、と息をついて、地面に置いていた自分の空き缶を、少し離れたところにあるゴミ箱に投げ入れ、私の手からも空き缶をとって、ゴミ箱に投げ入れた。
そして、紳士っぽく、私に手をさしのべるのである。
私は素直に、その大きな手の上に自分の手を乗せると、ぎゅっと握って、リョウの手を借り、座っていたブロックから立ち上がった。
ありがと、とつぶやくと、リョウは、どういたしまして、と、笑顔で言った。

気付くと、西の空に夕日があった。




自転車をとばす。
空はもう薄暗くなっていて、時計は七時をまわりそうだ。
門限は七時と決めていたが、この際どうでもよい。
マスターのところへ行かなきゃ、そう思った。
家とは正反対の方向を目指す。
グーテン・モルゲンは、確か六時までだったはずだが、片付けやら、明日の準備やらで、まだマスターは店にいるはずだ。
急げば間に合う。
明日まで待てない、今日あったことを、今日のうちに報告したかった。


通い慣れた道を行く。
グーテン・モルゲンについた頃には、もう七時すぎだった。
マスター、まだいるだろうか。
そんなことを考えて、自転車を店のわきに止め、店の中をのぞき込むと、薄暗く明かりがついている。
そこにマスターの姿もあった。
よかった、そう思ってほっとした矢先だった。
何かが違う、そう感じたのだ。
周囲を見渡すと、明らかに違うものが一つあった。

看板だ。
あの見慣れた、怪しげなゴシック調の看板ではなくなっている。
そこにあったのは、ゴシック調の雰囲気はすっかり取りさらわれ、すっきりとしたデザインの看板が置かれていた。
看板には、『グーテン・アーベント』とローマ字で表記されていた。
でも、確かにここは、グーテン・モルゲンのはず。
なんでこんな看板が置かれているのだろう。

不思議に思ったが、中にいた人物は、確かにあのマスターだったので、あの金色のノブを回して、ドアを押す。
店名が変わってることなど、気にもしないほど、私はとにかくこの話をマスターにしたかったのだ。

チリンと、昼間と同じ音が出迎える。


「こんばんは。」


そう言って店内に入る。
するとマスターは、こちらを向いて、びっくりしたように目を見開いた。
マスターの表情に、くすりと笑うと、私はいつものようにカウンター席へ向かう。

そしてマスターは、


「アイさんがこの時間帯に来るとは、めずらしいですな。」


笑顔で言った。私も笑顔で、でしょ?とだけ言うと、いつもの席に座る。


「マスター、コーヒー!」
「はい、と言いたいところですが、もう夜ですので。」


そう言って、ウインクをすると、なにやら手を動かし始める。

周りを見ると、証明がちょっと変わっただけで、それ以外は、昼間と変わったところはみられない。

コトリ、と、私の手元にカップが置かれる。


「今回は、ホットココアで。眠れなくなると、困りますぞ。」
「ありがと、マスター。」


やっぱり気が利くマスター。
いつもは昼間だからいいが、もう七時すぎだったので、コーヒーはさすがに目が覚めてしまう。
そう思ったマスターは、ココアを勧めてくれたのだ。


「食事はもうとったのですか?」
「ううん、まだ。」
「何か食べていきますか?昼間にはないメニューもありますぞ。」


そう言って、マスターはメニューを勧める。
メニューを見ると、昼間は全般がスイーツなのに対して、パスタなどイタリアン系の軽食がたくさんあった。
私は、お腹も空いていたので、パスタとサラダを頼んだ。


「ねぇ、マスター、この店、夜はグーテン・モルゲンじゃないの?」
「はい。夜の六時半からはグーテン・アーベントといいましてな。グーテン・モルゲンは、ドイツ語でおはよう、という意味で・・・」
「わかった!グーテン・アーベントは、こんばんは、だ?」
「その通りです。昼間は喫茶店ですが、夜は一応バーです。」
「えっ、ということは、私ここに、いちゃいけないじゃん。」
「まぁ、そいうことになりますな。でも、気にしなくても大丈夫ですぞ。」
「もうすぐ、夜のお客さん来ちゃうんじゃない?」
「みなさん、いい人達ですから、大丈夫ですよ。もしかしたら、なにかごちそうしてくれるかもしれませんよ?」
「やった!なら、いいや。」


私は上機嫌で、ココアをすする。
マスターは私が頼んだメニューを調理している。
今、マスターは忙しそうだから、まだ、話はしないほうがいいと思ったので、料理ができあがってから、ゆっくり話をすることにした。


「なんだか機嫌がいいですな。」


マスターは笑って言う。
てきぱきと手を動かしているけど、話し方はいつもと変わらず、ゆったりとしている。
やっぱり、顔にでてたみたいだ。


「わかる?」
「はい、とてもうれしそうな顔をしていますよ。この時間にここへ来たのも、同じ理由ですか?」
「うん。やっぱり、マスターにはばれちゃうかぁ。マスターに一番に聞いてほしくて。明日まで、待てなかった。」
「ほう、そんなにうれしいことがありましたか。」
「うん!すっごく、すっごく、うれしかった。」
「で?どんなことが?」


心なしかマスターの顔も、生き生きしてきた。
そういえば、前に、人の話を聞くのが好きって言ってたな。


「今話しても大丈夫?」
「いつでもどうぞ。」
「あのね・・・」


そう、話し始めようとした瞬間。


「こんばんはー!!マスター、久しぶり!」


黄色い声が、私たちを遮った。
声のもとを見る。
入り口に、スーツ姿の若い女性がいた。
OLだろうか、顔は疲れてるけど、なんだかうれしそう。仕事帰りだろうか。


「こんばんは、キヌヨさん。最近顔だしていませんでしたね。」
「そうなのっ。残業続きでさ、全くむかつくわよ、あンのバーコードハゲ!」


そう言って、その若い女性は、こちらに近づく。
マスターが先ほど呼んでいたことから、キヌヨって名前らしく、会話から、私と同じく、この店の常連のようだ。

そしてキヌヨさんは、マスターから私に視線を移すと、ぱっと顔を輝かせて、


「あら、めっずらしいお客さんがいるじゃないの。」


と言い、私の隣の席に座った。
私の顔をのぞき込んで、ニカッとはにかむと、マスターに、あたしの小さいころに似てない?と聞いた。
そしてマスターは、私も前からそう思っていたんですよ、と笑って言った。


「あたし、キヌヨっていうの。この店の近所に住んでてね、昔からマスターとは顔見知り。よろしくね。」


そう私に感じよく自己紹介すると、マスターに、なにやらお酒の名前だろうか、カタカナの単語を早口で言った。


「あなたは?」
「・・・アイっていいます。」
「アイ!かわいい名前ね。敬語つかわなくていいわよ。ここでは年齢関係なしなの、昔から。」
「うん、わかった。」
「飲み込み早いじゃない、気に入ったぞ!アイ!」


そう言って、私の肩をぽん、と軽くたたいた。
なんだか、軽いノリの人だ。話しやすそうで、すごく人なつっこい。
見た目は美人だった。驚くほど美人、というわけではないが、目鼻立ちが整っていて、きれい。優しげな顔だ。
そのなかに、なんだか子供っぽさもかすかに感じられる。無邪気というか。
でも、雰囲気は完全に大人の女性であった。

「キヌヨさん、今日、アイさんが、いいことあったんですって。今、それを私に話してくれるところだったんですよ。」

マスターが、キヌヨさんの手元にお酒の入ったグラスを置きながら、そう言った。


「あ、そうなの?なになに、あたしにも聞かせて?」


マスターが置いたグラスを早速口に運んで、キヌヨさんは言う。
あぁ、この人本当に人なつっこいわ、なれなれしいというか、なんというか。
でも、なんとなくキヌヨさんに話してもいい感じがした。

人見知りの私が、どうしてそんなことを思うのだろう。不思議だ。

そして、ちょうど、私の料理ができあがり、カウンターテーブルに置かれる。
ほかほかのパスタと、新鮮な野菜のサラダ。


「うん、もちろん。マスターも、ちょうど手、空いたでしょ。」


パスタに手をかけ、サラダを、キヌヨさんに、どうぞ、と勧める。
キヌヨさんは素直に、ありがとー、と、黄色く言って、笑顔でサラダを食べ始めた。


「で?で?何あったの?」


キヌヨさんは身を乗り出して聞く。この人も、人の話を聞くのが好きなんだな、きっと。


「あのね、実は・・・・」


一通り話し終わった。
店には、あのあとぞくぞくと客が入ってきて、店はほとんど満員になっていた。
昼間は、あまり客のいない寂れた喫茶店だと感じていたが、どうやら夜が本業の店らしい。

そして、キヌヨさんは疑問だらけのようで、質問ばかりとばしてくる。
だから、もうめんどくさいので、マスターにだけ話した、リョウとのいきさつをすべて話してしまった。
マスターにこの話をするのに、出会ってから二ヶ月ほど時間を要したのに、キヌヨさんには、まだ出会って一時間ほどしかたっていないのに、すべて話してしまった。
不思議な人だった。


「へぇー、若いのにあんた波瀾万丈ね〜。」


カルアミルク(マスターがそう言うと教えてくれた)を片手に、ほろ酔い気味にキヌヨさんは言った。


「うん、だけど、今日のはびっくりした。まさか、って感じじゃない?」


もうすっかりキヌヨさんに心を開いてしまっていたので、口調も気軽に話せる友達との会話のようになっていた。


「本当ですな。今まで、順々に話を聞いていると、驚きも尚更ですぞ。」


私たちの空いた皿を洗いながら、マスターは顔を輝かせて言った。


「え〜、そうなの?なんだぁ〜、もうちょっと早く、アイと出会っていたかったな。」
「まぁ、話聞けたからいいじゃないですか。アイさんは、普段はこんなしゃべる人じゃないんですよ。」
「そうなの?アイ?」
「うん。初対面の人にこんな話すとは思ってなかった。」
「なんだー、あたし、アイに認めてもらっちゃったんだね。」
「そういうことだね。」


私たちは笑いあう。


「でもさ、アイ、返事したの?」
「え?返事?」
「告白された、ってことは、つき合って、って、言われたんでしょ?」
「あ・・・・」


キヌヨさんに指摘されて、今頃気付いた、重大なことだった。
そう言えば、私、リョウに、『つき合って』とは言われてない。
ただ、リョウの気持ちを聞いただけだ。
私はそっとつぶやく。


「・・・言われてない。」
「え?」
「私、好きとは言われたけど、つき合って、とまでは言われてない!」
「はぁ〜!?」
「そうだよ!なんで私気付かなかったの。好きだって言われただけだよ。これだけじゃ、好き、って言われて、だから何?って感じじゃない!」
「あたしは、てっきりもうおつきあい契約しちゃって、ラブラブな日々が待ってるのかと思ったわよ。」
「えー・・・ちょっと、待って。」


頭の中を、整理する。
明らかに、おかしいぞ。
なんで、好きだと言われて、つきあってとは言われなかったのだろう。
だいたい、気付かなかった私も私だ。
リョウは、私とつき合う気はないのだろうか。
それとも、『好き』っていうのは、友達としての、好きという意味か?
でも、本人の口から、『告白するときぐらい・・・』をいう言葉を聞いた。
あれは間違いなく、異性に対する告白を意味していたはず。
でも、交際の申し込みはされなかった。どういうことだ?


「意味わかんない。」
「ていうか、気付かなかったアイの方があたしは意味わかんないわよ。」
「だよね、それは、私も考えてた。普通告白されて気付くよね。」
「うん、気付く、気付く。こりゃ、相当天然ボケだな。」
「天然ボケじゃないよ。」
「天然ボケな人ほど、自分は天然ボケじゃない、って、言うものなのよ。」
「うー・・・。」
「はははっ。」


キヌヨさんはそう笑い、お酒を口に運ぶと、さらにこう付け加えた。


「もしかしたら、そのリョウって子は、つき合う気ないのかしらね。」
「私も考えた、それ。」
「でしょ?ただ単に好きって伝えたくて、仲直りだけ、したかったのかも。リョウ、アイに気持ち聞き返さなかったんでしょ?」
「うん。」
「じゃ、たぶん、仲直りしたかったのよ、アイと同じように。前のように、普通にメールして、普通に接する男女になりたかったのよ。アイにフラれて、また、ぎくしゃくするのが怖かった。だから、交際願いは出さなかったわけね。」
「・・・そういうことかな。でも、私の気持ちは、リョウは知ってたはず。」
「実は、知らなかったのかも。アイのことさけてた時期は、自分がアイのこと好きになって、自分の気持ちに気付かず、なんとなくさけてたのかも。男子中学生にはありがちなパターンよ。もし、アイの気持ちに気付いていて、アイをさけたのなら、それはただの照れで、交際願いを出せなかったのは、もう、アイの気持ちが変わってしまっているかもしれないと思ったのかも。」
「なるほど。じゃぁ、マナとのメールの件は?」
「リョウは、なかなか心を開かないんでしょ?マナって子にも、もちろん心を開いて無くて、まさかそこにアイがいるとは思ってなかったわけだから、学校のときのように、自然にそういう返答の仕方になっちゃったのよ。マナって子に、自分の気持ちを言うなんて気は、さらさらなかったはずだから。」
「・・・。」


キヌヨさんの考え方からすると、すべて納得がいく。
理論的だし、鋭い指摘だ。でも・・・。
すると、何かを察したように、キヌヨさんは微笑を浮かべて言う。


「信じられない?」
「え?」
「リョウって子のこと。」
「う・・・ん。だって、今までの私とリョウの関係を考えると、信じられない。」
「嘘で、そういうことする子なの?」
「・・・わからない。」
「わかんないの?好きだったんだから、多少それぐらいの性格は知ってるでしょ?」
「私、リョウとそんな話しなかったし、仲良くもなかった。だから、リョウの基本的性格は噂や友達を通じて知ってても、私自身がリョウのこと直接知ってるわけじゃないんだ。知ってると言ったら、学校での、とげとげしい、クールなリョウ。今日のリョウは、私の知らないリョウだった。今日、両方のリョウを知ることができたけど、私には、どちらが本当のリョウかもわからない。」
「そいういうことね・・・。」


キヌヨさんは、お酒をちょびちょびと飲みながら、考え込むように頬杖をつく。
そして、それまで黙って聞いていたマスターも、皿洗いが終わったらしく、私を諭すように、語りかけてきた。


「アイさん、今日、リョウくんと話してみて、どう思ったんですか?」
「え?」
「理論的に言ったって、本当のリョウくんのことがわかるのは誰もいないんですから、アイさんが、どう思ったかが、大切なんじゃあないかと、私は思いますよ。」
「マスター・・・。」
「それに、今までのアイさんを見てきたからこそ、言えることなんですが・・・。リョウくんのこと、好きなんでしょう?」
「・・・うん。やっぱり、好き。今日しゃべって、改めて思った。」
「なら、信じてあげたらどうですか。アイさんが、好きになった人ですから、私は、悪い人ではないと思いますがね。」
「そうよ、マスターの言うとおりだわ。好きなら、何が何でも、手に入れちゃいなさい、アイ!」


キヌヨさんも、励ますように言う。

そうだ、私の好きになった人。
ちょっとぐらい、信じてあげても、いいんじゃないか。目は、狂ってないとは思う。


「ありがと、マスター、キヌヨさん。私、来週がんばってみる。」
「がんばって。アイ、かわいいんだから自信もちな。ビキニ姿で攻め落とせ!」
「そうですよ、アイさん、もっと自分に自信を持っていいと思いますよ。でも、自然体でがんばってくださいな。」
「うん、ありがとう。じゃ、そろそろ帰る。もう、遅いし。」


時計はすでに、八時半を回ろうとしている。
会計しようとすると、キヌヨさんが、告白祝い、と言って、私の分をごちそうしてくれた。



なんだか、いろんなことがあった一日だった。
リョウに告白されて、グーテン・モルゲンのもう一つの顔を知り、キヌヨさんと出会った。
特に、キヌヨさんと出会ったのは、大きい。
また、会って話をしたい、そう思った。
初対面なのに、話しやすくて、親しみやすい。
年齢は離れているが、不思議と気があった。

夏休み、まだまだ何か、不思議なことが起こりそうな気がした。







14 years old NO.6 へ続く






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