6,
「ジャンケンポンッ!」
ついに今日がきた。
こういうのを、運命の日、と呼ぶのだろうか。
正体のわからない気持ちが、私の中を駆けめぐる。
いやな気もする。うれしい気もする。なんなんだろう。この気持ち。
電車の中にて。
隣にナナ、真正面にミワ、その隣にカナがいる。
男子達とは、目的地で集合になっていて、今ここにいるのは女子だけ。
今日は天候にも恵まれて、雲一つない晴天だ。
海水浴日和だなぁ、と思いつつ、日焼けするのがいやな私は日焼け止めをしっかり塗っている。
私の唯一自慢できる白肌が、今日一日で自慢できない要素に変わってしまわないように。
そして、私たちは、あることをめぐって、ジャンケンをしていた。
「あっ。」
「ハイ、カナの負けぇ〜。ちゃんと、白状しなさいよ!」
カナが負けた。パーとグー、三対一、で。
ミワは、イエーイ、と、いいながら、私が持ってきたポッキーを手にし、口に運ぶ。
このジャンケンをした理由は、先ほどミワが言った通り、あることを白状する人を決めるためである。
そのあることとは。
「てか、カナの好みとか、好きな人、私知らない。ちょっと、カナが負けてうれしいかも。」
「そうだよねー。ほらっ、早くいいなさいよ。今日のメンバーの中で誰が一番好み?」
ナナが笑顔で言った後、ミワがそう続けた。
白状するのは、今日の男子メンバーの中で、誰が一番好みか、だ。
これを言うと言わないでは、たとえそれが嘘だろうが本当だろうが、今日一日ひやかされるか、ひやかされないかが決まる。
女子中学生にとっては重要だ。
そう思うと、私は改めて、あの時パーを出してよかった、と思うのである。
「え〜・・っと、強いて言うなら、だよ?し・い・て!」
カナが、念押しする。
涼しい顔を装っているが、私にはバレバレだ、カナは、今日のメンバーの中に本命がいるな。
誰よ誰よとミワが言う。
「んーっと、まぁ、マシなのは、タク、かなぁ?」
へぇ〜、と感心してるのか、どうなのかは知らないが、みんなそう言うので、私もとりあえず、へぇーと言っておく。
やっぱり、タクだったか。
前々から薄々感づいていたし、タクはあのメンバーのなかでも、一番モテるから、そこまでびっくりはしない。
しょうがない、今日はカナを応援してやるかな、そう、心の中で静かに思った。
「てか、男子のもう一人って、誰に決まったの?」
そこでナナが、思い出したように、皆に質問する。
そう言えば、ミワは、私たちにはそのことを一言も言わなかった。
当日になってまで。
私も、残りの男子メンバーが、リョウだと言うことは、知らないことになっている。
だって、言うわけがない、この三人に、一週間前の出来事を。
ちなみに、ミワは、男子とペアになって行動することも私たちにうち明けていない。
「あぁ、そう言えば言ってなかったね、ゴメン、ゴメン。あと一人、リョウ君だって。」
ミワがいたずらな笑みを浮かべてそう言うと、私とミワ以外が、驚いた顔をした。
そりゃそうだろう、リョウは、学校では女とグループで遊ぶようなキャラじゃない。
実際、大人数で遊ぶのあんまり好きじゃないと言っていたし、今日これに参加したのは、私がメンバーの中にいるからであるのだから。
リョウいわく、ではあるけれども。
「リョウ君って、あのリョウ君でしょ?」
「そうそう、サッカー部の。学年一かっこいいって言われてる。」
「へぇ〜、あの人、こういうのに参加する人だったんだね。クールそうに見えて、結構、ノリいいんだ。」
「あー、この機会に仲良くなっちゃうかなっ。」
カナ、ミワ、ナナ、ミワと続く。
そろそろしゃべらないと怪しまれるだろうなぁと思ったので、意外だよねー、と私も付け加えた。
しかし、この三人ときたら、おしゃれに気合いが入っている。
今日、駅で待ち合わせしたときに、私は驚いて目を見張った。
カナは、キャミソールに透ける素材の半袖カーディガンを羽織り、ボトムはデニムのミニスカートで、お嬢様系だった。
ナナは、大人っぽすぎない短い丈のワンピースを、カナは、ミワと同じように、デニムのミニスカートにタンクトップを重ね着していたが、ミワとは違って、色合いがギャル系な感じがする。
みんなそろいもそろって、露出が多い。
これからビキニになるというのに、服でそんなに出してどうするのだ。
でも、みんな大人っぽいので、それはそれで似合っていた。
おそらく、中学生には見えないだろう。
珍しくナナが露出が多いのは、昨日、例のとんでもなくかっこいい彼氏と、デートの約束をしていたが、集合時間になってドタキャンされ、十分前に集合場所に到着していたナナは、相当頭にきているらしい。
もう、こうなったら浮気してやる、と、昨日のメールで言っていた。
当の私はと言うと、いつもよりはおしゃれしてきたつもりだ。
というか、私はいつもおしゃれに気を遣っている。
だから、今日の服装も、センス良くキメてきたつもりだが、どうも他の三人に比べると、露出が足りなかったかな、と思えてきてしまう。
おしゃれ度は、この中の誰にも負けない自信があるが。
今日は、七分丈の白のサブリナパンツに、段フリルの黒キャミソールにと黄色いタンクトップを重ね着してきた。
今日は、私的には十分露出が多いつもりなのだ。
二の腕出てるし。
でも三人には劣った。
四人でぺちゃくちゃとおしゃべりしているうちに、電車の窓の向こうに、海が広がった。
それに一番に気付いたのは私で、私がそれをみんなに知らせると、私たちは歓喜の声をあげた。
あと、もう少しで、目的地に着く。
そこには、待っているのだ、愛しい人が。
海が見えてから、二つ目の駅で、私たちは下車した。
そこから、歩いてすぐのところに、目的地の、遊園地でもあり海水浴場でもある、最近オープンした人気の行楽地に着く。
この行楽地は、海浜公園と併設されている園内はすべて水着で行動して良くて、だいたいのアトラクションにも、水着で乗れる。
大きな野外水流プールもあって、水系のアトラクションも多い、正に夏専用の行楽地であった。
ゲームセンターや、カラオケ、ボーリング場なども園内に設置されている。
夏休みだからか、人はたくさんいて、家族連れもカップルも、同姓だけのグループもたくさんいたし、私たちのような合同デートのようなものをしているグループも、たくさんいた。
でも、そこまですごく混んでいるわけではなかったので、よかった。
男子と合流場所の、チケット売り場。
そこには、もう男子は到着していた。
リョウの姿もある。なんだかオーラがとげとげしい。
そこにいたリョウは、学校のリョウだった。
ケンが、こっちに向かって手を振る。
そこへ、私たち四人は、小走りで駆けていく。
「ごめん、待った?」
「ううん、俺らも今さっき着いたから、大丈夫。」
「よかった〜。じゃ、みんなそろったし、早速中入ろうよ。」
「そだね。」
ミワとケンが会話を交わす。
二人はなんだかこの夏休みに入ってから、特別仲良くなったみたいだ。
今日の計画を立てたのは、ほとんど二人だから、連絡を取り合うことも多く、この行楽地のことを調べるために、という理由で、一度二人で、ネット喫茶にも行ったらしい。
実際、来る途中の電車の中で、ミワが、ケンといい感じなんだけどぉ〜、と、ニヤつきながら言っていた。
そして、みんなで中に入る。
私たちは前売りフリーパスを手に入れていたから、チケット売り場の長蛇の列に並ぶ事無く、すんなりと園内に入れた。
すると、リョウ意外の男子がちらちらと男子間でアイコンタクトを始める。
あぁ、例のペアになって遊ぶヤツか、と、私はすぐに感づく。
ペアになるタイミングが今しかないから、タイミングを逃さないように、うまく男子で計画していたのだ。
そして、男子は、自分の思い思いのペアのもとへ、何気なく移動した。
リョウは、無表情で、こちらへ向かってきた。
「おはよ。」
リョウが、さっきの無表情とは、うってかわって、優しい笑顔で言う。
その笑顔を見て、私は少しほっとした。
さっき合流したばかりのときは、リョウの表情が、かたくて、笑っていなかったし、学校で見るリョウだったからだ。
私は目を合わせて、小声で話す。
「おはよう。なんか、男子すごいね。」
「あぁ、計画通りに、って感じがするなぁ、確かに。みんなしっかり作戦立ててて、打ち合わせもばっちりしてたし。」
「アイコンタクトがすごい。」
私たちが笑顔で話していると、気付けば、みんなこちらを見ていた。物珍しそうに。
ミワなんか、口をぽかんとあけて、こちらを見ている。
「・・・・え?何、みんな。どうかしたの?」
私が、不思議そうに聞く。
そうすると、みんなが顔を見合わせて、それはこっちのセリフだよ、とカズが言った。
わけがわからず、リョウと私は不思議そうに顔を見合わせる。
タクだけはなんだか、リョウの気持ちを知っているようで、ニヤリと笑っていた。
そして、私の隣にいたナナが、私に耳打ちする。
「リョウ君、アイとしゃべった瞬間に笑顔になるんだもん、そりゃみんなびっくりするよ。」
そう言ってから、ナナも微笑を浮かべた。
ナナの隣には、カズがいた。
周りを見てみると、案の定ミワにはケン、願い通りにカナの隣にはタクがいた。
「じゃ、適当に遊んで、また合流しよっか。」
ミワが、棒読みでみんなにそう言う。
カナとナナはびっくりしてて、カナなんか赤くなって、はぁ!?と声を上げていたが、男子たちが、了解していたのに加えて、早速ミワとケンが走り出して行ってしまったので、女子側にもはや選択権はない。
残されたメンバーは、少しの間立ちつくしていたが、さすがナナ、もう状況判断したらしく、ナナの隣にいたカズに、よろしく、と言って笑顔だった。
その優雅な笑顔に照れているカズがいた。
そしてリョウも、いたずらに笑って、私に、行こっか、とだけ言い、二人で歩き出す。
そして、ナナとカズも、私たちとは別の方向に歩き出し、後でね、と私とカナに手を振った。
カナは、未だ状況を飲み込めないでいるようだっただけど、相手はタクだから大丈夫かな、と思って、あえて置いていくことにした。
「いいの?置いていって。」
歩きながら、リョウが心配そうに聞く。
やっぱり、カンの鋭いリョウは気付いたようだ、ナナとカナの二人が、ペアで遊ぶことになったのを知らないことを。
私は、ふふ、と笑って、大丈夫、と言った。
「まぁ、カナ相当パニクってたけど、タクのことだから、うまくやってくれるでしょ。あの二人、教室でも結構仲良いから。」
「やっぱり、アイだけじゃなくてみんな知らなかったんだ、ペアになること。」
「うん。電車の中でも、一言もその話出てこなかったよ。あと、リョウが来るってことも、カナとナナは、今さっきまで知らなかったし。」
「ははっ。ミワって子、結構薄情だな。」
「そうかもしれないね。」
そんなことを話しながら、どこへ向かうもなく二人で歩いていた。そして、リョウは、ふと、口を開く。
「かわいいじゃん、今日。」
「何が?」
「服。いい感じ。」
「あぁ、今日ちょっとがんばってきちゃった。でもあの三人には敵わないよ。」
「露出多すぎだよ、あの三人。」
リョウが、困ったように笑って言う。なんだか、私と考えることが同じだ。
「確かに、そうだね。私、さすがにあそこまでは、足を出す気になれないな。でも、ちょっと露出足りなかったかも、って、心配してたんだよ。」
「そんなことない。ちょうど良いよ、アイぐらいが。」
「そっか。じゃ、よかった。」
そして、笑いあう二人。
今までずっと会話をしてこなくて、一週間前にちょっと話しただけだというのに、こんなに会話がスムーズなのは、ちょっと不思議なくらいだ。
実は、会話が続かなかったらどうしよう、と、ちょっと心配だった。
「何処行きたい?」
私が聞くと、リョウは、うれしそうに、海!と元気に言った。
その無邪気さに、私は思わず笑みがこぼれる。
「じゃ、まず最初は、海浜公園に行こうか。」
「うん!俺、海久しぶり。」
「私も。じゃ、更衣室行って、まず着替えちゃおうか?」
「うん。」
そして、私たちは、更衣室へ向かう。
そこには、無料のロッカーも設置されていて、海浜公園とは連絡通路とつながっているので、ここから海へ向かう人も、たくさんいるようだ。
「じゃ、十分後にまたここで。」
「うん、またあとでな。」
そう言って、更衣室の入り口でリョウと別れる。
更衣室に入ると、あの独特な日焼け止めのにおいがした。
そして、たくさん陳列されている中の、真正面のロッカーを見ると、見覚えのある姿。ミワとナナだった。
私が二人に近づくと、二人も私に気がつき、こちらに向かって手を振った。
「あっれ〜?アイじゃん、なんだ、みんな、なんだかんだ言って最初の目的地は一緒ね。」
そう、ミワがぬけぬけと言う。
こいつ、結局私たちに、ペアのこと一言も言わなかったこと、わびる気ないな、絶対。
「もう、私びっくりしちゃったよ。なんも言わないんだもん、ミワ。」
ナナが、自分の体に日焼け止めを塗りながら、言う。
二人は、もう水着に着替え終わっていた。
私の予想通り、ナナは、お姉系の黒のビキニで、ミワは清楚系の白フリルビキニ。
ここまで予想が当たってると、自分をほめたっていいと思う。
「あはは〜。でも、いいしょ?せっかく男子と来たんだしさ。でも、さすがナナとアイだよね、飲み込み早いじゃない。」
ミワは、ミディアムの髪を二つに結いながら、言った。
そして、私は、ロッカーに荷物を入れながら。
「カナは、相当参ってたけど・・・大丈夫かな、あの二人。うまくやってるといいんだけど。」
「まだここに来てないって事は、ちょっと手間取ってるのかも。ぎこちなかったりして。」
「ふふっ。まぁ、カナの望み通り、ペアがタクでよかったじゃなぁい?」
「それが、逆効果にならなきゃいいんだけど。」
「大丈夫、大丈夫。心配なぁし。・・・あっ、てか、アイ、あんたに聞くことあんのよ!」
ミワが、思い出したように、声を張り上げる。
そして、ナナも、そうそう、と続ける。
私が、何、と不思議そうに聞くと、ミワとナナは顔を見合わせて、ニヤっと笑った。
「リョウ君と、どぉいう仲!?」
「なんで、リョウ君、アイの横行った瞬間にあんなにうれしそうな顔したの?私、リョウ君のあんな顔見たの、初めてなんだけど。」
「・・・どういう関係って、言われても。ただ、一年のとき同じクラスだったぐらい。そんなん、リョウに聞いてよ、私が知るわけないじゃない。」
「あやしいぞぉ、アイ!」
「そうそう、あやしい。」
「あやしくないって。だって、今日になるまで私リョウがくるってことも知らなかったし。」
ごめんなさい、私、専ら嘘つきました。
「それもそっか。まぁいいや、私、ケンが待ってるから行くね。」
「私も、カズが待ってると思うから。じゃ、また連絡するね。アイ。」
そう言って、二人は手荷物を持って、パタパタと走り出す。
二人とも、なんだか楽しそうだ。
ミワはもとから、ケンをペア希望していたし、ナナも、ノリのいいカズで、安心したのだろう。
というか、ナナは、彼氏がいるのに、本当にこれでいいのだろうか。
そして、私は、更衣室の中の個室に入り、水着に着替えた。
あのとき買った、水玉模様のビキニである。
あのときは、ビキニの上下だけ買ったが、あの日、リョウが来るとわかってから、さすがにビキニ一枚じゃ恥ずかしいなぁ、と、あとから黄緑色のパレオを買って付け足した。
これなら、足の露出が減って、ちょうどいい感じになると思ったからだ。
水着に着替えたら、さっさと個室から出て、自分の荷物を入れてあるロッカーのところへ戻る。
すると、聞き慣れた声が私にかかる。
「あっ、アイ!」
「・・・・カナ!大丈夫だった?」
カナであった。
どうやら、私が個室に入って着替えている間に、ここに到着したらしい。
偶然にも、ロッカーが近くだった。
カナは、ほっとした様子で、でも、泣きそうな顔で、水着姿の私に抱きつく。
「あー、もう、私、どうしようかと思った!ミワのヤツ、最初からこういうコンタンだったのね・・・。」
「心配してたよ、もう。タクは?どう?」
「気を遣って、いろいろ話しかけてきてくれる。あーでも私、緊張しちゃって・・・。うまく、会話が続かないの。」
そしてカナは、抱きついていた私の体を引き離し、周りをきょろきょろと見渡して、少し照れ気味に、小声で言う。
「あのね・・・、アイには言うけど、私、実は・・・」
「あぁ、知ってる。タクのこと、好きなんでしょ?」
「えっ!?」
「あ、やっぱりそうなんだ。」
「カマかけしたなっ。なんだ、アイにばればれか。・・・そういうことなんだけど。今日、チャンスだよね?」
「うん、明らかにチャンス。」
「あぁ〜、いきなり二人きりって、辛い。」
「でも、二人きりの方が、発展しやすいし。学校で、二人ともいい感じじゃない。いつものカナでいけば、きっと、今まで以上に近づける!」
「いつも通りで、大丈夫なの?」
「いつも通りじゃないと、逆に意識しちゃってうまくいかないよ。自然体、自然体!なんかあったら、トイレにでも駆け込んで、私にメールでも電話でもして。アドバイスぐらいならできるから。」
「・・・アイ〜!大好きよ、あんた!」
そう言って、再度私に抱きつく。
こういうところはウブでかわいいなぁ、と思う。
しっかりしてるけど、恋愛系な話になると、あまり自信はないように思える。
そんなダメなところがかわいい。
私はなだめるように、カナの背中をよしよし、とさすると、今度は私からカナを引き離す。
「じゃ、私、リョウが待ってるから。がんばって。」
「うん、ありがと。」
そう言って、カナは、がんばってみる、と笑顔で言った。
手を振って、カナと別れる。
自分のロッカーに戻って、手早く、必要なものを大きなバックからサブバックにまとめて更衣室を出ると、入り口の少し先に、リョウとタクがいた。
どうやら、二人も更衣室内で会って、一緒に出てきたらしい。
二人とももう水着で、準備万端、という感じだ。
リョウは私に気付くと、こっちに笑顔を向けて、小さく手を振った。
そして私は、リョウのもとへ小走りで向かう。
「おまたせ。」
「ううん、俺も今さっき終わった。」
二人で顔を見合わせて笑うと、リョウの隣にいたタクが、おいおいおいおい、と、割り込んできた。
「ちょっと、お二人さん、見せつけるの、やめろって。」
「見せつけてなんかないよ。」
リョウは、ちょっと照れ気味に、はにかみながら言う。その表情を見て、私もついつい笑みがこぼれる。
「じゃ、行こうか、アイ。」
リョウは、これ以上タクにひやかされるのがいやらしく、口早に言った。
私はうん、と頷く。すると、タクが、宮森、と、私を呼び止めた。
「ん?どうしたの?」
「えーっと、ちょっと、聞きたいことがあって・・・。」
そう言うと、タクはリョウに、ちょっと借りる、と言って、私を手招きした。
リョウからちょっと離れたところで、タクは、聞き取れないくらいの声で、私に耳打ちする。
「あのさ、変なこと聞くけど、カナって、好きな人いたりする?」
「はぁ?」
「あ、ごめんごめん。・・・やっぱり、いいや。」
「?そう?じゃ、私行くね。」
「うん、またな。」
リョウのところに戻ると、タクは、行こ、とだけ言って、私の横を歩いた。
さっきの、タクの言葉で、すべてわかった。
すっとぼけてみたけど、実は、あの一瞬で、思考回路が回りきっていたりしてた。
タク、カナを狙おうとしているのだろう。
好きな人がいるかどうかなんて、普通、その相手が気になっていないと聞いたりしない。
ばればれだっつの、タクってば。
せっかくペアになったのだから、これを機に、カナと仲良くなっちゃって、つきあってしまおう、とか、思ってるのかも。
タクも思春期の男の子、彼女の一人や二人ぐらい、ほしいんだろう。
実際彼女が二人もいたら困るが。
そう考えてみると、リョウが言っていた、男子間でペアを決めるときに、全員、つまりタクも含めて私を取り合いしたことなどから、タクからは、彼女にするならコイツ、という理由で、私が選ばれたことになる。
タクは、私が好きという理由で、私の取り合いに参加したのではないのだ。
そんなことを考えると、ちょっと複雑な気分だが、それでも、うれしくなってきてしまう。
学年一モテる少年が、あの、かわいくてモテる三人よりも、私を選んでくれたということになるのだから。
まぁ、それを置いておくとして。
これなら、カナから助けを求める連絡が入ることはない。
タクがカナのことを狙っているのなら、タクは、いろいろ気を遣ってくれるだろうし、優しくしてあげると思う。
そんなことを考えて、リョウと並んで、海水浴場につながっている連絡通路を歩く。
リョウは、私とタクが話していたことに対して、何も質問してこなかった。
「・・・なんも聞かないんだね、リョウ。」
「ん、だって、俺がこういうとき、なんか聞かれるといやだし。」
そう言って、私の歩幅にあわせて、遅めに歩いてくれるリョウ。
背が高いリョウは、私より歩幅が明らかに広いはずだったけれど、私が自分の速度で歩いていても、遅れをとることはなかった。
つまり、リョウが、私の歩幅に合わせてくれているのだ。
何にも聞かない優しさと、私にあわせて歩いてくれる優しさが、なんだかとてもうれしかった。
告白したあとだというのに、リョウは至って自然体で、あのときとあまり変わらなかった。
変わっていることと言えば、あの時より、楽しそうで、うれしそう。それは、表情に、生き生きと現れていた。
「リョウ。」
「ん?」
「海、もうすぐだね。」
「うん。あ、俺、すっごく騒ぐと思うから、つきあってね。」
「え〜。マジ?想像できない。」
「マジ。昔からそうなんだ、海に遊びに来ると、俺のねじが一、二本はずれる。てか、俺見てると、アイもテンション上がっちゃうと思う。」
「じゃ、テンション上がらせて?」
「まかせろ。」
そう言って、親指をぐっと立てる。
その仕草に、私は、ふふ、と声を出して笑う。
それを見ていたリョウも、同じように歯を見せて笑った。
「似合ってるじゃん、この前の水着。そのスカートみたいの、ついてたっけ?」
リョウが、私のパレオに視線を落として言った。
水着をほめられたのもうれしいけど、パレオに気付いてくれてることもうれしい。
「ありがとー。これはあとから買い足したの。さすがに足出過ぎかなって、思ったから。」
「あぁ、なるほど。いいじゃん。露出ほどほどで。」
「でしょ?ビキニなだけんてさすがに露出多いもんね。」
「うん、いい感じ。でも、露出したくてそういうのにしたんじゃないの?」
「違うの、それが、ミワがみんなでビキニ着ようって言い出したから、それで。」
「わざわざ買ったの!?」
「うん。でも、水着持ってなかったから、ビキニじゃなくてもどうせ買ってたからいいの。買った水着がビキニになっただけだよ。」
「そっか。ミワって、あの、白い水着の方の子?」
「うん。水着、見たの?」
「うん。俺が更衣室に着いたときに、ケンとカズが着替え終わってて、偶然入り口にいてさ、それで、ちょっと話してたんだ。」
「そこに、ちょうどミワとナナが来たんだね。」
「そういうこと。黒い方が、ナナって子?」
「そうだよ。」
「同じクラスになったことないから、わかんないなぁ。あと一人は、確かカナちゃん?」
「その通り。」
「その子だけは、学級委員やってたりするから、覚えてる。」
「結構目立つからね、カナは。」
そんな、くだらない話をしながら、二人で広い連絡通路を歩いていく。
そして、気付くと、もう連絡通路の出口まで来ていた。
この連絡通路は、地下道になっていて、この階段を上ると、すぐ海岸のはずだ。
二人でゆっくりと階段を上る。
だんだんと、海のオーラが伝わってくる。
潮の香り、子供の騒ぐ声、波の音。
いろんな音が、私たちの心を躍らせる。
階段を上りきると、外の強い日差しが、目を刺激する。
それと同時に、私たちの目の前に、楽しそうな、夏定番の風景が広がる。
「わぁ・・・すごい。」
思わず感嘆の声を漏らす。
リョウも、海だぁー、とうれしそうに、満面の笑みで言った。
なんだかワクワクしてきた。
海なんて久しぶりだし、何よりもこのロケーションが私をはずませる。
そして、何よりも、大好きな人が、隣にいる。
早く、遊びたい!海に入りたい!
「ね、ね、リョウ、早くいこ?売店で、パラソルとレジャーシート、貸してくれるみたい。」
「うん、まず場所とりだな。」
「あ〜、超楽しくなってきた!」
「なんだ、アイの方が先にテンションあがってんじゃん。俺もかなり上がってきたけど!」
二人で声をあげて笑い、私たちはパラソルを貸し出してくれる、売店の方向に向かう。
14 years old NO.7 へ続く
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