9.
「あっ、いたいた!」
前方から声がかかる。前を見ると、カズと、ナナが、こちらへ歩み寄ってくるところだ。
今、ゲームセンターの入り口のそばのベンチに、私とリョウは並んで座っている。
時間は、合流時間の、二時十分前。
そこへ、ナナたちが集合時間よりちょっと早く、ここへやってきたのだ。
私たちペアは、ちょっと前から、このベンチに座っていて、当たり前のように、合流一番乗り。
ナナの姿を見ると、目がほんの少し腫れているように見えた。
私はリョウに、カズのことよろしく、と言って、ナナのもとへ駆け寄った。
ナナの肩に手をやり、立ち止まらせる。
するとナナは、私に抱きつき、肩に顔を埋めた。
カズは、参った顔をして、私の顔を見る。
そこへ、リョウがやってきて、カズをベンチまで連れて行き、とりあえず座らせていた。
私は、よしよし、とナナの頭を撫でると、こんなメインストリートのど真ん中で泣かれては、周りの視線が痛いので、とりあえず、すぐそばにあったトイレの中へ、ナナを連れていった。
「ナナ・・・?」
「うっ、うっ・・・・アイ〜!」
ナナが顔を上げる。
うわっ、ナナの顔、ひど・・・。って、そんな場合じゃない、私。
私は、ナナの肩を支え持ったまま、優しく語りかける。
「話は全部知ってる。彼氏と鉢合わせ、しちゃったんでしょ?」
「うん・・・・。」
「そっか・・・。どんなんだったか、話せる?」
そう聞くと、ナナは、泣きながら、一生懸命に話し始める。
「あのね、本当、最悪だった。離れたとこでね、あいつ、どこの誰だかわかんないけど、他の女と、手つないでて・・・。すっごい楽しそうだったの。私、びっくりして、立ちつくしちゃって。昨日のドタキャンも、こういうことだったんだって、思ったりしてて。そしたら、カズが、全部感づいたみたいで、私の腕を、掴んでどこか逃げようとしてくれたんだ。・・・あとから、カズに聞いた話なんだけど、全部、アイ達がカズに頼んでくれたんだってね、ありがとう。」
「ううん。気にしないで。全部、リョウが考えてくれたから。お礼を言うならリョウだよ。」
「そっか。じゃ、あとで、リョウ君にお礼言わないとね。それで、そこまではいいの。でも、あいつ、私に気付いたみたいで・・・いきなり、私の名前呼んで、私たちのところへ、駆け寄ってきたのよ、少し離れたところに女を置いて、一人で。まさか、自分の浮気現場見られてたなんて、思ってなかったんでしょ。あいつこそ、完全に浮気現場作っておいて、にやつきながら、『そういうことだったのかよ』だよ?本当、信じられない。そこまでバカなやつだとは、思ってなかった。」
「・・・ひどい。」
「そこで、私が、いろんな意味でショック受けてて、黙ったまま、立ちつくしてたの、変わらず。そしたらさ・・・・。」
そこで、ナナが、泣きながらも、恥ずかしそうに、でも、うれしそうな顔をした。
「カズが、私の手を握って『俺のなんで』って、言ってくれたの。それで、私正気に戻って、あいつに対して、怒りしか出てこなくてね。こうなったらあいつのプライドずったずたにしてやる、ってそこで決心したの!カズの手を握り返して、腕とかからませちゃったりして、カズにぴったり体くっつけて、『ナンパとか、無理なんで』って、言ったの!朱の他人っぽくね。あいつ、もう、ぽかんとして、びっくりしちゃってて。きっと、いつもの私だったら、必死に言い訳するんだろうなー、とか思ってたのよ。ざまーみろって感じだったわよ、本当。」
「へー・・・。ナナも、結構機転が利くね・・・。」
「まかせとけ、って感じ。で、カズもうまく合わせてくれて、そっちはそっちでお幸せにー、とか言って、ラブラブなカップル演じてくれて。そのまま、あいつの前からは立ち去れたの。でも、そのあとはやっぱり辛くて・・・落ち込んでたら、カズが、一生懸命励ましてくれたんだ。でも、それで逆に、すごい悲しくなっちゃって、泣き出しちゃったときも・・・・。」
ナナが、会話の途中で、照れたように、下を向く。あ、あれだ、これ。あのときの、カズのメール、
『Hold on!!!!』
のことだ。
「優しく、抱き寄せてくれて・・・。」
ナナは、自分の顔を自分の両手ではさんで、頬が紅潮したのを、隠す。
あぁ、ダメだ、これは、絶対。ナナ、カズに惚れかけてる。
「普段、頼りないキャラだけど、なんか、すごくかっこよく見えてきちゃって・・・。カズのこと、気になっちゃってるかも、しれない。」
あっちゃー、ビンゴ。
あの、元彼へのあんなにも一途な気持ちはどこいったんですか、ナナ。
ま、困ることなど、一つもない、はずなのですが。
「あぁー・・・確かに、そんなことされると、キュンときちゃうよね。よかったよ、そんな落ち込んでないみたいで。もう、すっごい心配してたんだから。」
「私、過去の恋にすがりたくないし。前進あるのみ。うふっ。」
「ナナ・・・ちょっと、ミワはいってた、今。」
とりあえず、こっちの事件は解決。
このあと、カズとナナの関係がどうなるかが、楽しみだ。
カズの方は、どう思っているのだろう。
リョウが、今頃カズの武勇伝を聞いている頃だろうから、あとで、リョウに聞こう。
ナナは、トイレの水道で、顔をばしゃばしゃ洗い、おっしゃ、と言って、すっかり元気を取り戻していた。
もう、完全大丈夫だ、と言っていたので、リョウたちのもとへ、帰ろうとした。
でも、そこで。
「アイ〜・・・。」
「ん?何?まだなんかある?」
「私のことは、もうなんもないけど。アイの方は、リョウ君と、どうなわけ?なんか進展あった?」
「えっ。」
聞かれて、私は頬を赤く染める。
あのときの、キスを思い出したのだから。
あのキスのあと、リョウは我に返って、やたらと照れていた。
当の私は、そんな照れていたわけではなかった。
何が起こったか、あまりにも理解するのに困難で、照れる以前の問題であったため。
漠然としか、理解していなかった。
「あ、今、キスしたんだな。」って、そのぐらいに。
重要なことだと、脳が整理しきっていなかった。
今となっては、あのキスのことを思い出すと、恥ずかしくて、恥ずかしくて。
でも、うれしくて。不思議な気持ちになっていく。
キス以前の言動を思い返してみると、かなり恥ずかしい台詞を言っている、二人とも。
あんなの、バカップルだ、普通に。
そして、入り口のそばベンチに座って、みんなを待っていたとき、みんなに、『おつきあい成立』を、公表するかどうか、二人で話しあった。
リョウは、あのテレビ番組を利用したいらしく、それまで内緒にしておこう、と、いたずらに言っていた。
だから、今日あった今までのめまぐるしいまでのリョウとの進展について、ナナに教えることはできない。
「・・・特に何も。」
「えーっ、怪しい!その間が!」
「・・・怪しくないです。」
「ま、いいや、そのうちアイから話してくれるまで、待ってる。」
「・・・ありがとう。」
「!?ってことは、やっぱり、何かあったんだ?」
「もう!待ってるって言ったばっかじゃーん!」
ナナは、こういうところで、物わかりがいい。
サバサバしていて、他人が言いたがらないことは、無理に追求しないし、相手の出を待つタイプ。
ミワなんかは、何が何でも聞き出すタイプで、カナは、時と場に応じて、どっちのタイプも使い分けるタイプ。
リョウ達がいる、ベンチのところへ戻ると、そこにはもう、カナとタクのペアが、到着していた。
カナは、私たちの存在に気付くと、こちらに向かって駆けてきた。
「ナナ!大丈夫?カズからだいたいの話は聞いたよ。」
「ありがとう、カナ。大丈夫、もう元気でたよ。」
「カズのおかげで?」
私が、いたずらにそう問いかけると、ナナは照れて、注意する意味で、アイっ!と、私の名を呼ぶ。
私の言葉と、そのナナの反応に、カナは感づいたらしく、にやりと笑って、ナナをひじでつつく。
「ははーん、ナナ、カズに、ホの字だな?」
「カナ、『ホの字』はあまりにも古い。」
「アイ、それは言えてる。」
私がツッコむと、ナナも、それにのる。
私たち三人は、笑って、男子たちのもとへ駆け寄った。
すると、リョウが、私の横へすっと来て、頭を下げ私の耳元で、周りのみんなには聞こえないよう、そっとささやく。
「カズからの話、聞きたいだろ?」
その言葉に、私はうれしそうに、でも、周りに気付かれないよう、そっと頷く。
「あとで、ゆっくり話してあげる。」
「ありがと。」
小声で、そう返すと、リョウはまた、男子たちの輪に戻った。
そこで、タクが気付いたように言う。
「ケンとミワ、遅いな。」
確かに、そうだ。
ケータイのデジタル時計を見ると、もう、二時五分すぎ。
集合時間並び集合時間を決めたのは、あの人達なのに、いい加減である。
それからさらに三分後、彼らはここに現れた。
「みんな、ごめんごめん!アトラクションがおわらなくてさ。」
ケンが、私たちにペコペコと謝る。
ミワも、ごめんねぇ〜と、甘い声で、男子たちに向かって、言っていた。
おいおい、私たち女子にはお詫びなしかよ。
それはほっておいて、ケンが、てきぱきと話し始める。
「で、合流した理由なんだけど。そろそろ、ペア変更し・・・。」
「ねね、せっかくみんな合流したんだし、カラオケとか行って、みんなで騒ごうよ。」
ミワの言葉を、私が遮る。
ミワの、リョウと仲良くなっちゃおう作戦を阻止しようと、私が考え抜いた対抗作戦。
いろいろ考えたのだが、私的には、このままのペアで、また別行動をとるのがベスト。
しかし、このままのペアのまま、また別行動なんて、合流の意味がなくなってしまう。
ペア変更してしまったら、絶対ミワはリョウを誘う。
ペア変更に乗り切ってしまっては、ダメだ。
だから、手段は一つ。これよりあとの時間は、全員一緒に過ごし、みんなで騒いで、終わらせるしかない。
カラオケに行こう、だなんて、普段、私からでる言葉の種類ではなかったが、この際しかたがない。
なにがなんでも、ミワの、リョウと仲良くなっちゃおう作戦は阻止せねば。
私のそんな台詞に、ナナやカナはノリよく応じてくれた。
どうやらナナとカナも、ペア変更はいやらしい。
「あ、私も、それがいい。カラオケ、久しぶりだしなー。」
「うんうん、そうだね、せっかくみんなで来たんだし?騒ごうよ、みんなで。」
ミワが、じりじりとこちらへ視線を向ける。
あー、怒っちゃうかな、ミワ。・・・この際どうでもいいわ、そんなこと。
リョウも、続いて。少し、ぶっきらぼうに。
「・・・俺も。」
とげとげリョウになってしまっているけど、私をフォローしてくれているのはわかった。
「って、ことで、カラオケに向かって出陣ー。」
タクも、賛成して、そう、陣を取る。ミワは、悔しそうに、うつむいた。
阻止成功!!
カラオケへ向かって、全員でぞろぞろと歩き出す。
園内に敷設されているカラオケ店は、全員フリーパスを持っていれば、歌い放題。
何時間でも、中でくつろいでいられる。
八人もいるのだから、全員で歌っていれば、二時間程度でここから出ることはない。
もし、うまくいけば、帰る時間まで、ここにいられる。我ながら、いい作戦だったと思う。
カラオケ店に着くと、広めの部屋を借りた。
部屋の形にそって、楕円を半分に切ったような、すべてつながったソファがつけられていて、女子は女子で、男子は男子でまとまって座る。
私の右隣には、ミワがいて、左隣には、誰もいない。私のバックが置いてある。
向かい側に、男子たちが座っている。
「じゃ、一人、一曲は一人で完全熱唱で。」
タクが、おもしろがって、そう言っていた。
ちなみに、私の歌唱力のレベルはと言うと。
自分で言うのもなんだが、人並み以上ではあると思う。
他のみんなの歌唱力は、知らない。
でも、タクやナナはなんとなくうまそうな雰囲気。
あー、楽しみだ、みんなの歌を聴くのが。
「じゃー、一曲目、みんなで歌えるのね。俺とタクで歌っちゃうけど。」
そういって、カズが、最近人気の、ミクスチャーバンドのノリのいい、アップテンポなヒット曲を入れる。
カズとタクは、マイクを持って、歌い出す。
あ、やっぱりタクはうまい。ラップの部分も、かなり。カズも、音痴なわけではない。うまい、うまい。
歌い終わった後、ミワがすかさず。
「わぁー、二人ともうまいねぇ!」
絶対忘れない、ほめること。
いつか、ミワが言ってた、『男なんて、ほめておけばころっといく』。
でも、その光景に見慣れていたので、特別びっくりはしない。
そして、次の曲のイントロが流れ始める。
人気の女性歌手の、ヒット曲。
この曲も、誰もが歌える有名な曲だ。
ナナとカナが、マイクを持って、歌い出す。
ナナ、予想通り、うまい!カナもなかなか。
「うまい・・・。」
そう、隣でミワが悲しそうにつぶやいた。
まだ、曲の途中である。私は、どの曲を歌おうかと、総覧で曲を探している。
「どうしたの?ミワ。」
「うん・・・私、歌下手なんだ。どうしよう。歌わなきゃ、ノリ悪いって思われるよね。まぁ、ノリで歌っちゃえば大丈夫かなって思ってたんだけどぉ・・・みんな、思ったよりうまくて。」
ミワが、めずらしく自信がなさそう。本当に、そんなに下手なのか。逆に、ちょっとだけ聞いてみたい。
「大丈夫だよ、みんなと一緒に歌お?」
「でも、一人で全部歌わなきゃいけないし。」
「大丈夫、大丈夫。そんなの、ごまかせるよ。自信持って、歌えばいいんだよ。」
「・・・ありがとう、アイ。」
ミワは、笑った。あー、もう。ミワ、笑顔とか、すっごくすっごくかわいいのに、どうして男好きなんだ。
こんなときに、ときどき覗かせる、繊細なミワが、ものすごく私は好き。
ナナと、カナが、歌い終わる。
そして、しばらくカズとタク、それにケンも加わって、盛り上がった感じの歌を歌って、みんなでぎゃーぎゃー騒いでた。
カズなんか、わざと、音が絶対はずれるような歌を選んで歌ってたりして、みんなの笑いを誘っていた。
ミワも、恥ずかしながら、ナナと一緒に歌ってた。
でも、ミワもそこまで下手だったわけじゃない。音程はそれなりにあってたし、恥ずかしながら歌っていた姿は、とてもかわいらしかった。
そろそろかなぁ、と、私は画面の予約リストに目をやる。
今、ナナが一人で歌っている曲の、次。私が入れた曲。
私もちょっと計算してたりして。
自分がうまいとわかっている人は、始めからがんがんにとばして、のど自慢をする人が多いのだが、私の場合、中盤にさしかかってから、バラードを歌う。
すると、妙にうまく聞こえたりするのだ、これが。それを狙って、今まで温存してきた。
ナナが歌い終わる。そして、次の曲誰〜?と、ナナがマイクを渡す相手を探す。
そして、私が、はーい、と、ナナに手を差しのばして、マイクを受け取ると、みんな、おおっ、と、歓声をあげる。
今まで一小節も歌わなかったので、やっときたか、というような声。
イントロが流れる。みんなが知っている、等身大の恋を描いた詩が多い、人気の女性シンガーソングライターの有名なバラード曲。
この歌手の曲は、レベルが高くて難しいと有名だが、私は高音も出てしまったりするので、歌うのは楽々。
歌い出し、成功。カナとナナが、うまーい!と、声を上げる。私はその声にわざとらしく苦笑いを向け、そのあとも、しっとりと歌い上げて、みんなを圧倒。なんか、今日は偶然のどの調子がいい。高い音がきれいに出たし、音程もばっちりなはず。
歌い終わった後、タクとカズは、興奮してて、
「宮森うますぎ!才能あるよ!」
とかなんとか言ってて。作戦成功なり。
そんな黒い気持ちを隠して、照れ笑いを作って、次誰ー?と、さっきのナナと同じように、マイクを手渡す相手を探す。
すると、次は、リョウだった。堅い顔と声色で。
「・・・俺。」
リョウに近づいて、マイクを手渡す。
手渡すときに、リョウは、さっきとはうってかわって、あの優しい笑顔を作って、私に話しかける。
「うまいじゃん、アイ。」
「まぁね〜・・・なんちゃって。」
「俺も、ちょっとじらしてたから、それなりに歌えるぜ?」
「なんだ、リョウも温存?」
「うん。たぶんアイと同じこと考えてた。でも、アイに先越された〜。」
「ふふっ。じゃ、がんばって。」
曲のイントロ。この曲・・・。
リョウ、かなりレベルの高い曲選んでる。この曲、難しくて音はずしたら相当恥ずかしい。
有名ロックバンドの、バラードロックなラブソング。あの自信の持ちようから、十八番って感じだな、リョウの。
リョウが、歌い始める。
「うっわ・・・・。」
みんなが、びっくりしてる。それも無理ない。だって。
うますぎる。
ヤバイ、本当にうまい。負けたかも。音程、すごく安定しているし、声の質もいい。とても、いい声してる。
みんな、唖然としていて、リョウをただただ見つめている。ミワなんか、目がハート。
そんな様子をよそに、リョウは、さらっと歌い上げた。
「あー・・・久しぶりだ、歌ったの。」
リョウは隣で、そうつぶやいた。
リョウは、歌い終わって、次の曲を歌うタクにマイクを渡した後、私の隣にやってきた。
始めは、私のバックが置いてあったところに、リョウが座っている。
今、タクがバラードを歌っていて、私がバラードを歌ってから、みんなの曲目も盛り上がり系から、しっとり系へ移りつつある。
「てか、リョウうまいね。」
さっきから、ミワやカナにうまいうまいとほめられていて、リョウは、堅い微笑でその黄色い声に応える。
男子たちからもほめられていて、タクだけは、リョウの腕前を知っていたようで、やっぱりうまい、と感心していた。
リョウはやっぱりここまでほめられると照れるらしく、私の隣へと逃げてきたのだ。
「いや、照れるからやめて?」
「ちょっと、負けたかも。」
「そんなことない。アイの方がうまかったと思う。俺、ちょっと音程はずれたし。」
「どこはずしたの、あんた。」
「二回目のサビ。」
「あ、わかった。歌詞でいうと、『たえまなく』の『ま』。」
「そう、大当たり。なんだ、アイわかってんじゃん。」
「ちゃんと聴いてたから。」
「・・・歌ってて、恥ずかしかったよ。まさかアイの前で歌うことになるとは思ってなかった。」
「私だって、リョウの前で歌うとは思ってなかったよ。」
「でも、どーせ歌うなら、いいとこ見せてやろって感じだろ?アイも。」
「もちろん。」
リョウは、私の言葉を聞いて、歯を見せて、笑い出す。
「ねぇ、アイ、なんでカラオケ行きたいって言ったの?合流したとき。ペア変更するかもって、アイのところにきたメールにも書いてあっただろ?」
「あぁ・・・それは・・・。」
ミワの、リョウと仲良くなっちゃおう作戦を阻止するため。
って、素直に言えるわけもなく。なんて答えようか、迷っていた。
「正直に言えない理由?」
リョウが、私の考える姿を見て何か感づいたらしく、ニヤリと笑って言う。
「いや、別に。」
「なんだー。俺、てっきりアイも俺と一緒に居たいのかと思ってた。」
リョウが、少しいたずらに、冗談まじりでそう言った。
あの、リョウさん、少し、あっているんですけど、それ。
まぁ、少しは素直になってもいいかな、と思って、冷静を装って言う。
「少しはその理由だけど。」
「え、マジ?」
「うん。」
「やった!」
リョウはうれしそうに笑う。
あー、もう、この笑顔、悩殺もの。私以外の女の子の前では、見せないらしいので、ちょっと安心していたりする。
「あ。」
リョウが、ばつ悪そうに言った。
私が、どうしたの、と聞くと、リョウは苦笑いを浮かべて、席を立った。
「ごめん、タクとケンの視線が痛いから、俺戻るわ。」
「えっ、何それ。」
「ほら。」
そう言ってリョウは、あごで男子たちを指す。私がそちらの方向を見ると。
「あー・・・、確かに戻った方がいいかも。」
「だろ?じゃ、また後で。」
男子たちが、こちらをじりじりと見つめていた。
タクなんかは、歌っていたので、チラ見をたくさんしていたが、ケンなんか、がーーーっとこちらを見てる。
確かにカラオケで二人で話し込むのは、まずかったかな。
リョウは男子が座っている側のソファへ戻る。
リョウが戻ったことだし、私も女子の会話に入ろうとする、と。
「アイ、作戦会議。」
ミワが、静かに言った。男子たちは無邪気に、タクの歌声に合わせて騒いでいる。
「え、ここで?」
「ううん、まず私とカナが抜けてトイレ行ってるから、そのあとナナとアイで追っかけてきて。トイレで作戦会議する。じゃ、私らもう行くから、あとで来てね。」
ミワが、いたずら気に言って、カナとともに席を立つ。そして、ケンにトイレ行ってくるねー、と愛想よく言って、部屋から出ていった。
作戦会議って、何の作戦の会議だろう。もともと、このメンバーで作戦など立てた記憶はない。
その後二分ぐらい経った後、ナナがひじでつついてきたので、ナナと私は席を立って、ケンに一声かけてから部屋を出た。
トイレに向かう途中、ナナも『作戦会議』という言葉に違和感を持っているらしく、作戦って何だろうね、と笑いかけてきた。
「ミワ、また何かたくらんでるのかな。」
「ミワ、歌ってるときの様子からしてあまり歌得意じゃなかったみたいだから、自分が得できるような作戦立てるつもりなんじゃない?」
「あ、それあり得る。実際、私に『あまり歌得意じゃない』って、言ってたし。」
ナナは、やはり私と考えることが同じで、意見が一致した。
私たちの部屋からトイレはちょっと歩いたところにあって、長い廊下を歩いていって着いた。中に入ると、ミワは待っていましたと言わんばかりに、顔を輝かせた。
「あんまり長くしちゃうと、男子たちに怪しまれるから、手短にするわよ。」
いや、今の時点でもうすでに怪しまれてると思いますよ。
「ぶっちゃけ、どうだった?さっきペアでまわってみて。」
ミワが、にやりと笑って聞く。それに、ナナが鋭くつく。
「ミワこそ、どうだったの?」
そこだ、私たちが一番聞きたいところ。
カナも、そうそう、と言って、やはりミワとケンのペアの様子はどうだったのかが気になるようだ。
私も、様子を聞いていないのはミワのペアだけだった。
「う〜ん、まぁ、いい感じなんだけど、刺激が足りないっていうか・・・。なんかケン、私に惚れてるわけじゃぁ、なさそう。別に好きな人いるって、感じだったなぁ。」
ミワの話を聞いて、私はどきっとした。
昼食のときの、リョウの言葉を思い出したからだ。『全員マジ。』という、リョウの言葉を。ミワの言葉を聞いて、あの言葉の信憑性が、上がってしまった。
「実は、タクもそんな感じだった・・・・。」
カナが、うつむき気味に言った。え、ちょっと待って。これじゃ、本当に全員・・・?
「カズは、そんな感じ、あまりしなかったよ。」
セーフ。
「アイは、どうだったの?」
ミワが、聞く。
「えーっと・・・リョウも、そんなことなかった。」
私は、正直に答える。
そっかぁ、とミワが肩を落とした。でも、ぱっと表情を変えて、ミワは思いついたように言う。
「っていうか、私、リョウ君と仲良くなりたい!」
きた。
作戦会議って言ってたから、たぶん、ミワはリョウと仲良くなっちゃおう作戦のことを言っているんだろうなぁとは少し思っていた。私は、更衣室での決意を思い出す。
渡すものか。
「あー、それは私も思う。リョウ君、意外といい笑顔するよね。それに、歌めちゃくちゃうまいし。」
カナが言う。いや、いい笑顔するのは、私とタクの前だけですから。
「まぁ、私も内心それは思ってるけど。実際どんな中身してんのか、気になるよね。」
ナナが、微笑を浮かべて言った。なんと美しい微笑だ。
そして、三人とも、私をちらりと一瞥して。
「アイ、リョウ君って実際どんな人なのぉ?」
ミワがそう言った後、三人が私に詰め寄る。戸惑う私。
「えーっと・・・まぁ優しいけど、みんなが期待してるほど・・・。」
「嘘つくなよ?」
私の言葉を遮って、ミワがそう黒く言った。
あ、あの、ミワさん。キャラ、壊れてますけど。嘘ついてることばれた。誰が、墓穴掘るようなことするもんですか。
みなさんお察しの通り、リョウはもう期待以上のことしてくれる男ですよ、本当。だけどそれを正直に言ったら、みんなリョウに興味持っちゃって、ミワがますますリョウと仲良くなっちゃおう作戦を実行に移したくなる。
阻止できるものは阻止しとけ、アイ!
「嘘ナンカツイテマセン。」
私が棒読みに言うと。
「嘘つくなよ?」
ナナさん、あなたまでどーしたんですか。
「・・・ツイテマs」
「アイ?」
カナさん、あなたタクのこと好きなんじゃないんですか。
「・・・ツイテm」
「「「はけっっっっ!!!」」」
三人が、声をそろえて叫ぶ。
・・・だめだ、これは逃げるしかない。今ここで私がしてきたリョウの性格分析を説明してしまうと、つきあっていることさえも言ってしまいそうだ、成り行きで。
逃げることを決意。
幸運にも私の真後ろにあるドアのノブに手を掛ける。
「・・・っごめん!!」
そう叫んでダッシュで逃亡。
ごめん、みんな。私はそこまでバカな女じゃない。足の速さには自信があるので、とうてい追いつかれることはないだろう。
それにみんな私よりも高いヒールのサンダルを履いていたので、絶対走りにくいだろうし。
「あっ、逃げた!!!」
後ろでミワの声がする。
そう言えば、サブバックをボックス部屋に置きっぱなしだ。取りに行かねばならない。そんなことしてたら、絶対捕まる。でも、バックは取りに行かなければ。一か八か、取りに行って間に合うだろうか。取りに行ったら、この逃亡作戦は失敗に終わるかもしれない。そしたら、間違いなくすべてはかなければいけないな。だれか救いの手を差し伸べてくれるスーパーヒーローはいないものだろうか。そんなのんきなことを猛ダッシュで考えていて。とりあえず私は、私たちのボックス部屋方向へ向かう。
すると。
「アイっ!!」
前方から、今となっては聞き慣れた、愛しい声がする。
それまでうつむいていた顔を上げ、前を見ると。リョウだった。なぜか、私と同じく猛ダッシュでこちらへ駆けてくる。
「リョウ!?どうしたの!?」
「逃げよう!」
「はぁ!?」
リョウの手には、私のサブバックがあって。もう片方の手で、私の手を握り、引っ張っていく。私も、リョウの手をしっかり握り返して。二人で出口に向かって、走り出す。
「おいっ!!リョウ!!逃げんなよ!!」
後ろから、タクの声が聞こえる。その声に、リョウは、すまーーーんっ!!と叫び返す。
あれ、もしかしてこれ。リョウも、私と同じ展開だったりする・・・?
あなたは私の手を引っ張って。何も言わずに走っていく。
そう、私に救いの手を差し伸べてくれたスーパーヒーローは、リョウ、あなただったんだ。
14 years old NO.10 へ続く
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