そばかす
3,
思ったより早く、俺たちのドラマーが見つかって三週間がたつ。
晴彦が加わってから、専ら俺らの練習場は晴彦の家になった。
なんでも、晴彦の親父さんも若い頃にドラムをやっていたのだが、腱鞘炎を起こしてからプロの道はあきらめたらしい。
そんなエピソードがある田沼家は、家族全員晴彦がドラムをやっていることに大賛成していて、この前の練習のときなんか、親父さんに「お前らに俺の叶えられなかった夢を託す。俺の代わりに夢を叶えてくれ。」とかなんとか言われてしまった。
・・・こりゃ、妙なヤツ拾っちまったかな。
でも、親父さんは晴彦の音楽活動に大賛成しているだけあって、地下に広ーい防音室完備。
晴彦がドラムを始めた頃、作ってくれたらしい。
親父さん、一企業の社長なんだってさ・・・。
そんなこんなで、バンド活動をする際に一番困る問題点、「練習場の確保」に俺らは困ることがなかった。
そして、晴彦のドラムの腕はと言うと。
うまい。
かなりうまい。
俺も弘樹も、初めてアイツの演奏を聴いたときには、俗に言う、「開いた口が塞がらない」状態だった。
手数も多いし、リズム感覚も、音のキレもいい。
ドラム歴3年とは、とても思えなかった。
でも、まだまだ晴彦は発展途上中。
この先楽しみなヤツである。
三人で併せたときも、晴彦はとても合わせやすくて、三人ともの相性の良さに感動した。
俺は、バンドを組んでから、ますますベースの魅力に惹かれていった。
晴彦が加わってから、三人で併せられる曲も増えてきた。
さすがにまだXは難しくてできないけど、ザ・ブルーハーツや、ジュディーアンドマリー、オレンジレンジなんかもやる。
ジュディーアンドマリーの『そばかす』を併せ終わった後、ふと、晴彦が口にした言葉。
晴彦「・・・早く、ボーカル見つけたいな〜。」
確かにそうだ。
最初、三人で、3ピースバンドでやっていこうかと話し合ったこともあった。
誰かが、楽器も弾きながらボーカルやろうか、という感じで。
でも、晴彦がドラムをやりながら歌うのはツライところがある。
ドラムはずっと腕動かしっぱなしで、演奏するだけで息が荒くなる曲だって、世の中にはたくさん存在するし、俺らが目指すのはロックバンド。
ロックな曲は手数が多いし、晴彦はコピー曲にもアレンジを加えて、特別難しくしたりしてるから、晴彦がボーカルをやるという説は話し合いによって消された。
残ってるのは、弘樹と、俺。
これも話し合いで決められた結果。
二人とも無理ってことに。
理由は、ただ単純に、メインボーカルをやるほど、さほど歌がうまいわけではなかったから。
いや、晴彦いわく、弘樹も俺も音程は合ってるらしいんだけど、声質があまりメインボーカル向きではないらしい。
コーラスが精一杯だな・・・・。
ということで。
ちゃんとしたボーカルを探すことに。
しかも、晴彦のこんな一言を理由に、
晴彦「俺、女ボーカルがいい。」
女の子のボーカルを、捜すことに決定。
ちなみに、俺はオカマでさえなければどちらでもよかったが、弘樹も女ボーカルがよかったらしい。
女ボーカルを捜す。
それは、俺らにとって、困難なことだった。
俺は、全くと言っていいほど、女子とはしゃべらない。
そして弘樹は高校入学したときに遠くから引っ越ししたので、中学時代の友達に頼ることはできない。
頼れるのは女子に友達の多い晴彦だけなのだが、晴彦いわく、「今のクラスにバンド組みたいと思うヤツはいない。」に加えて「俺の信用してる女友達にバンド組みたいと思ってる女子はいないだろうし、さほど歌がうまいヤツもいない。」の発言。
いろんな理由が複雑に絡み合って、なかなか見つけられないでいた。
さらに一週間後。
俺たちの夏休みが始まった。
進学クラスでもない俺らは、毎日のように練習したり遊んでたりする。
七月の終わり、いつものように晴彦の家でボーカルなしの楽器練習だけしたあと、俺と弘樹は、いつも立ち寄る楽器屋に来ていた。
夜だからか、店内に割と大人の人が多かった。
あー、新しいエフェクター、ほしいな・・・。
そんなこと思いながら。
ぶらぶらと、いつものルートを追って見ていく。
楽譜のコーナーに行って、いつものようにバンドスコアの楽譜を手にとって、耳コピがいまいちできなかった曲のコピー楽譜を見て、一生懸命暗記。
片足に体重を預けて、傾き気味に立って、楽譜を直視。
いつもやってるセコイ技。
すんません、店員さん、学生ってそんなほいほい楽譜買えるほど金ないんス。
そうやって、俺ががんばって暗記していると、隣に人の気配。
となりをちらっと見ると、楽譜をぱらぱらとめくって見ている、制服姿の、女の子。
あ・・・これ、俺の学校の制服・・・。
相手に気付かれないように、そっと、胸元のバッチをみてみると、2年生カラー。
俺と、同級生だ。
こんな子、いたっけか?
俺、人の顔覚えるの苦手だし、うちの学年、9クラスもあるしな。
覚えてないのは、よしとする。
彼女がページをめくる際に、ちらりと見える表紙。
あ・・・X JAPANのバンドスコア。
ふ〜ん・・・うちの学年に、Xに興味のある女子なんて、いたんだな。
そして彼女は一通りペラペラっと楽譜を見終わると、次は弦コーナーへ向かう。
しゃがみ込んで、いろんな弦を見ている。
あ!あの子、ベースの弦見てる!?
やるのか、ベース。
女でベース・・・めずらしいな。
どうしよう、なんか、話しかけてみたい。
音楽の話で、盛り上がれそうな女子を見つけたの、初めてだ。
でも、いきなり話しかけたらなんだコイツチャラ男かよとか思われそう。
あ、でも、晴彦が。
「少しでも良さそうだなって思った女子は話しかけろ。どこでダイヤの原石に会うかわかんねぇだろ?」
って言ってた。
・・・X好きそう。ベースやるらしい。しかも同じ学校でタメ。
いいんじゃないか?
これで歌うまけりゃ、言うことなし。
それに・・・すっごいかわいいんですけど。
ヤバイ、かわいい。
超ツボ。
初めてだぞこんな風に思うの。
この際もうバンドとか関係なくてもいい。
話しかけろ、浩介。
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