そばかす






4,




決心を胸に、なおもしゃがみこんでいる彼女のもとへ、向かう。
そして、彼女の隣に、しゃがみこむ。


浩介「・・・ベース、やるんすか?」


第一声がコレ。
あー、どーなんだ、コレ。


「あ、はい。」


おー、意外と普通な返事。
軽ノリでいけ、俺。


浩介「いいっすよねー、ベース。弦高いけど。」
「・・・やるんですか?あなたも。」
浩介「うん。」
「私最近始めたばっかなんですけど、今日弾いてたらなかなかチューニング合わなくて。」
浩介「あー、弦、替えどきだったんでしょ?」
「そうかなーって思うて、弦買いに来たんですけど・・・どれがいいかわかんなくて。高いんですね、結構。」


・・・?
かすかにだけど、なんだか言葉遣いが関西弁なまりかも。


浩介「でも、ギターは安い分、頻繁に替えなきゃいけないし。相応してるかも。」
「そーなんですか〜。」
浩介「俺、いつも使ってるのこれなんだけど。」


そう言って、かごの中にたくさん入っている中の一つをとる。
いろんなものを試してきたけど、これが今までで一番よかった。
そこまで高くないし。


「あ、じゃこれにしよかな?」
浩介「でも、手、ちっちゃいから・・・細いライトスケールがいいと思う。はい、これ。おすすめ。」
「ありがとう。」
浩介「プレベ?ジャズ?どっち使ってる?」
「ジャズ。」
浩介「じゃ、同じだね。それでいいと思うよ。」
「詳しいですね!何年ぐらいやってはるんですか?」
浩介「5年。」
「すごい!」


そう言って、彼女は俺に笑顔を向けた。
あ・・・やべー・・・・かわいい。
そんなことを思って、彼女の笑顔に見とれてると。


「なにナンパしてんだよ!」


そんな台詞が聞こえた後、背中に鈍い痛みが走った。


浩介「い゙だっ!」


痛みに反応して、振り向くと。


浩介「弘樹・・・・。」


さっきまで別々に店内を回っていたが、狭い店内、さすがにお互い何やってるかは簡単に見つけられる。


弘樹「あ、どーも♪一応このバカのダチです。」


弘樹は、笑顔で彼女に笑いかけた。
・・・こんの野郎、人に蹴り入れといて、いい顔しやがって・・・。


「あ、どーも。」
浩介「ナンパなんかしてねーよ。」
弘樹「いや、この状況は誰がどう見たってナンパだぞ。」


そう言いながら、弘樹は彼女の向こうにしゃがんだ。
彼女は今、俺らに挟まれて座っていることになる。


弘樹「・・・N高なんだ?俺らもそこの2年だよ。」
「え?そーなんですか?私もN高2年です。すんません、気付かなくて。この間、転校してきたんです、私。」


あー、どーりで知らない顔なワケだ、うん。(言い訳)
だから関西なまり?


弘樹「へぇ〜。だから関西弁っぽいんだね。あ、俺、二組の外山弘樹です。」
浩介「ごめん、自己紹介遅れた、同じく二組の長田浩介っていいます。」


弘樹の自己紹介に触発され、俺も慌てて自己紹介をする。
いいな、弘樹こんな軽く女子としゃべれて。
全然緊張してなさそう。


「あ、えぇっと、九組の平山藍子っていいます。というか、私京都弁残っとります?」
弘樹「超残ってるよ。」
「そうなんや・・・。直してるつもりなんだけど・・・。」


藍子・・・かわいい名前だ、似合ってる。
京都弁、ってことは、京都出身・・・。
別に言葉、直す必要ないと思うけどな。


弘樹「てか、タメだし、敬語やめよ?」
藍子「あぁぁっ、すんません、じゃなくてすまん!」


天然なのかな?反応がおもしろい・・・。
てか、今ごろ弘樹の軽さっていうか女子と普通にしゃべれることを知った。


弘樹「ベースやんの?」
藍子「うん。まだまだヘタだけど。」
弘樹「へぇ。俺はギターやるんだ、浩介がベースで、あともう一人ドラムとバンド組んでるんだけど。」
藍子「・・・・バンド!?」


平山さんの顔が、輝いた。
きらきらとした目。
輝くほどの笑顔。
・・・あのときと、同じ。
晴彦を誘ったときに感じた、俺らと同じ匂い。
それを、平山さんに感じてしまった。


藍子「バンド組んではるの!?」
浩介「うん、最近組んだんだけどね。」
藍子「へぇ・・・・。」
弘樹「もしかして、興味あったりする?」
藍子「・・・・うん。」


その言葉に、俺と弘樹は顔を見合わせた。
・・・これで、歌がうまかったら・・・。
そんな希望が、二人の中にあった。


弘樹「あのさ、俺ら、今ボーカル捜してんだけど・・・。」
藍子「そうなの?」
弘樹「藍子ちゃん、歌得意?」
藍子「自分で言うのもなんだけど・・・ヘタないと思う。昔からピアノやってたから、音程は合うんやない?」


弘樹は目で、どうする?と聞いてきた。
前にも言ったが、バンドを組む際、性格や、音楽性、ボーカルの場合には声質や才能も問われる。


浩介「ボーカルとして、入ってみたいって思う?」
藍子「歌うのはめっちゃ好き。でも・・・好きだけじゃ、だめでしょ?それに、バンド組むからには、目指す音楽、同じじゃないといけないしさ。」


平山さんは、俺たちが思ってたこと、ちゃんとわかってたみたいだ。
見かけより、中身はずいぶん大人なよう。


浩介「・・・さっき見ちゃったんだけど、Xの楽譜見てたよね?俺らも、リスペストはパンクとかロックなんだ。」
藍子「本間に!?私もめっちゃ好きなんやけど、X。」
浩介「うん。だから、音楽性は合うと思う。」
藍子「そっか〜。・・・どうしよ。」
浩介「平山さんがいいんだったら、一回俺らの演奏で、試しに歌ってみたら?」
藍子「テスト・・・かぁ・・・。」


そして、平山さんは考え込むように黙った。
そりゃ、今すぐ決めろっていうのもなんだよな、ボーカルって責任が重いし。
ポケットから、ケータイを取り出して、自分のケータイ番号とアドレスを表示させる。


浩介「これ、俺の連絡先だから・・・ちょっと考えて、気が向いたら連絡いれて。いつでも、いいから。」
藍子「・・・ありがとう。すまん、ちょっと考えさせて。」
浩介「うん、大丈夫。夏休み、まだまだあるし。ゆっくり、考えて。」


平山さんは俺のケータイをちらちらと見ながら、自分のケータイに、俺の連絡先を入れていく。
弘樹は、黙って、俺たちの様子をうかがっていた。



* * *



藍子「あ、ごめん、私そろそろ帰らないと。」


連絡先を入力し終わると、平山さんは腕時計をちらりと一瞥して、そう言った。
ケータイのデジタル時計を見ると、もう、8:30。
女の子にしてみれば、そろそろ帰らなければいけない時間なのだろう。
弘樹と話し合って、俺たちも帰ることになった。

三人で、出入り口に向かう。


浩介「歩き?」
藍子「うん。」
浩介「送ってこうか?」
藍子「えぇっ!えぇよ、悪いし。うちすぐ近くだし、大丈夫。」
浩介「でも、危ないって。俺自転車だし、後ろ乗っけてくよ?」
藍子「大丈夫、大丈夫!」


本気で心配だった。
平山さん、華奢で力なさそうだし、もし、痴漢とかに会ったら・・・。
というかこんなかわいい子をこんな暗い中一人で帰らせるわけにはいかない。
しかも引き留めちゃってこんな遅くなったの、俺らのせいだし。


浩介「ダメ、なんかあったら困るし、送ってく。」
藍子「本当に大丈夫だよ?」
浩介「でも、暗いと恐いし、この辺痴漢出るって有名じゃん。送ってくよ。」
藍子「・・・じゃぁ、お願いしちゃおっかな。」


平山さんは、ちょっと照れ気味に言った。
男に送っていってもらったこと、ないのかな?
そう言う俺も、女の子送っていったことないけど。



* * *



弘樹「じゃ、藍子ちゃんよろしく。」
浩介「おう。じゃ、またメールするから。晴彦には、俺から言っとく。」


じゃあな、と手を振ると、弘樹は自転車をこぎ出して、そそくさと帰っていった。
・・・なんかアイツ、様子がおかしかった。
もしかして、平山さんを俺らのバンドに入れることに、あんまり賛成してない?
まさか・・・でも、弘樹も結構誘うとき乗り気だったしな。
あとでちゃんと聞いてみよう。


藍子「じゃ、よろしくお願いします。」
浩介「うん。」


荷台に平山さんを乗せて、自転車をこぎ出す。
背中に背負っているベース越しに、ぎこちなく、腰をつかむ手が、特別細く感じた。
後ろから聞こえてくる平山さんの案内で、自転車を走らせていく。

平山さんの言っていたとおり、楽器店から平山さんの家までは近くて、自転車だとすぐについた。
しかも俺の自宅と同じ方向だったから、本当についで、という感じ。
平山さんは、荷台からおりて、ペコッと小さく一礼した。
そして、神妙な面もちで、口を開いた。


藍子「あのさ、長田君?」
浩介「ん?」
藍子「私、本気で考えるから。」
浩介「・・・うん。」
藍子「じゃ、ありがとう、送ってくれて。じゃ、バイバイ。」


そう言って、玄関先に向かおうとする。
彼女の小さな背中を見てると、何か、俺の中ではじけたような気がした。


浩介「平山さん!」


気付いたら、彼女の名を呼んでいて。
引き留めていた。
俺の声に、平山さんは素直に振り向いた。


藍子「?」
浩介「あのさ、俺、うまく言えないけど・・・。平山さんと、バンド組みたいってすごく思う。」
藍子「・・・・。」
浩介「同じ・・・匂いがするから。」
藍子「同じ匂い?」
浩介「あ、えーっと、なんていうか、こういう男臭いとかじゃなくて。」
藍子「ふふっ、わかってるよ、そのぐらい。」
浩介「俺らのドラム見つけたときも、そういうものを感じて。平山さんにも・・・そういうの、感じるんだ。」
藍子「・・・・。」


なんて表現すればいいんだろう。
歌声を聴いた訳でもない。
彼女が奏でる音を聴いたわけでもない。
でも、なんだか猛烈に、彼女と関わりたい、そう、思ってしまっている自分がいた。


浩介「弘樹、あいつ顔に感情出やすいけど・・・悪いヤツじゃないし、ドラムも、音にこだわりがいろいろあってうるさいけど、悪いヤツじゃない。だから・・・。」


俺がうつむき加減に、一生懸命、言葉を並べる。
すると、ふと、自分のふとももに置いてあった手に、ぬくもりを感じる。
顔を上げると、3メートルほど離れていたはずの平山さんの顔が、目の前にあって、俺の手の上に、平山さんの手が重ねて置いてあった。


藍子「うん、わかってる。もう、言わなくてもわかるよ、大丈夫。」


純粋すぎる目に縛られる。
俺を見つめる目は、あまりにも、透き通っていて。
改めて、じっと見つめた彼女の顔は、整いすぎていた。


浩介「・・・。」
藍子「長田君と話してみて、ちゃんとわかったよ、長田君がすっごい優しいこと。外山君、ちょっと雰囲気が恐かったけど・・・でも、長田君が選んだ人だもん、きっと、いい人だってこと、わかったよ。もちろん、会ったことないけど、ドラムさんも、いい人なんでしょ?わかるよ、長田君、ぶきっちょでも、すごく優しいから。」
浩介「・・・・。」
藍子「・・・軽い男のフリして、実はものすごく硬派だってこととか。」
浩介「えぇ!?」
藍子「バレバレだよ、初めて話しかけられたとき、少しだけだけど、声震えてたし、目、合わせないし。」
浩介「やっぱ、わかるんだ、そーいうの。」
藍子「わかるよ〜。外山君は、やりなれてた感じしたけどね。」
浩介「・・・・ありがとう。」
藍子「ううん・・・・じゃ、絶対連絡入れる。またね。」
浩介「・・・また、今度。」


彼女が家に入るのを見届けてから、自転車を走らせる。
正体のわからない気持ちが、俺の中を駆けめぐる。


このときは、まだ気付いていなかったんだ。
この気持ちが、『恋』だっただなんて―――――。







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