6,
浩介「ただいま。」
平山さんを迎えに行き、また、ここ田沼家の地下室に帰ってきた。
平山さんは、やけに緊張していて、俺の腰を掴む手に込められる力が、この間よりも強かった。
藍子「・・・おじゃまします。うわー・・・すごい、地下室なんて。」
俺の影から、ひょこっと、顔を出す平山さん。
その姿をみて、晴彦の顔が輝いた。
晴彦「あー、どうも。ドラムの田沼晴彦です。よろしく。」
そう言って、平山さんに手を差し出す。
くそっ・・・こいつも軽ノリできちゃうのかよ。
藍子「あっ、こんにちは!平山藍子です、よろしくお願いします。」
緊張した様子で、晴彦の握手に応える。
弘樹は、相変わらずちゃらっぽいさわやかな顔をして、どうもー、とだけ言った。
晴彦「うちの学校の転校生なんだって?どこからきたの?」
藍子「京都です。」
晴彦「あー、どうりでちょっとなまってる。」
弘樹「でもこの前よりはなまってないよ。」
藍子「だって練習したもん!」
三人が、笑い合う。
よかった、うまくなじめそうだ。
あー、どうしよう、無性に緊張してきた・・・。
晴彦「おっし、早速始めよう。藍子ちゃん、何歌える?これ、俺らが弾けるのなんだけど。」
そう言って、俺が迎えに行っている間に書き留めておいたらしい、俺らのレパートリーの一覧表。
それを見て、平山さんは、迷った様子もなく、ジュディーアンドマリーの『そばかす』を選んだ。
晴彦「へぇ・・・。出るの?声。」
藍子「うん、一応。」
ジュディマリを歌えるなんて・・・結構イケるんじゃないか?
俺ら三人は楽器の準備を始める。
俺がいない間に弘樹がベースのチューニングを済ましておいてくれて、すぐに演奏を始められた。
平山さんをみると、イスに座って、歌詞カードを一生懸命見つめている。
晴彦「藍子ちゃん、準備できたよ、俺ら。」
藍子「うん、こっちもたぶんOK。歌詞間違えたらゴメン。」
弘樹「ははっ、いいよ、ララ〜で歌っちゃえ。」
藍子「本当にそうしちゃうかも。」
そう言って、平山さんはにこっと笑った。
それを見ていた弘樹の笑顔が、少しだけ引きつったのが、目に入った。
・・・やっぱりなんかおかしくないか?
平山さんがマイクを握る。
そして、くるっと一回転した。
浩介「前みて歌わないの?」
藍子「うん、普通はそうだけど・・・。みんなの弾いてる姿、見たいから。」
晴彦「おお、いいじゃん、俺らも藍子ちゃんの歌ってる様子みれるし。」
演奏が始まる。
前奏を弾き始めて、平山さんの笑顔は驚きと混ざったような笑顔になった。
きっと、弘樹と晴彦のうまさにびっくりしているのだ。
負けてらんねぇな、俺も。
* * *
ライブを行っているような感覚に陥った。
ここは、俺ら四人意外は誰もいない、地下室なのに。
やったこともない、ライブを、想像してしまった。
感じてしまった。
客は0のはずなのに、彼女の歌声が組み込まれたことにより、観客の歓声が、聞こえてきた気がした。
彼女の歌は、音程、リズム感、声質ともに最高だった。
『そばかす』を、ここまで完璧に近く歌い上げる人が、YUKI以外にいたとは。
でも、YUKIの声に似ているわけではない。
これは、まぎれもなく、彼女の声だった。
しかも、原曲通りに歌っているわけでもなく、彼女なりに、アレンジを入れている。
高くも、低くも、透き通り、響き渡る声。
言い表しようがない。
最高だ、彼女の歌のもとでベースを弾いてて、気持ちいい。
ベースから目を離し、彼女を見ると、それはそれは楽しそうに、歌っている彼女。
目が合うと、にこっと、笑う。
珍しく、弘樹もノッていて。
晴彦も、笑顔でドラムを叩いている。
再発見した、このバンドを。
今までに、見たことも、聴いたこともない演奏をしていた、全員。
最高の、笑顔をして。
浩介「最高だよ!!すごい歌うまいじゃん!」
晴彦「マジ、本当にこんなうまいとは思ってなかった!」
弘樹「・・・すっげー、うまいじゃん!」
演奏が終わったら、みんな一斉に平山さんのもとに駆け寄った。
全員、顔がキラキラしている。
平山さんも、気持ちよさそうに水を飲んでいた。
藍子「本間?ありがとう・・・。でも、バンドでみんなで音楽をつくるってことが、こんなに楽しいとは思ってなかった!歌ってて、すっごい、すっごい、気持ちよかったよ!」晴彦「俺も、藍子の歌で叩いてて、気持ちよかった!」
・・・あれ?
今、晴彦、平山さんのこと「藍子」って呼び捨てにしたよな・・・・。
ってことは・・・。
藍子「・・・私、本気でやりたいかも・・・。お願いです!私をこのバンドに入れてください!」
そう言って、平山さんは深々と頭を下げた。
俺が、何言ってるんだよ、と言おうとした瞬間。
弘樹「何言ってんだよ!こっちこそ頭下げて入ってくださいって感じだよ!な!?」
弘樹が、生き生きとした顔で言った。
晴彦「おっしゃ、やっとそろったぜ、俺らのバンド!」
弘樹「これから、よろしくな!藍子!」
浩介「よろしく、藍子。」
藍子「・・・・よろしくっ!!!浩介、弘樹、晴彦!」
こうして、四人目のメンバー、ボーカル藍子を迎えて、俺らのバンドのメンバー構成はできあがった。
俺たちはまた、あの時と同じように、堅く、堅く、握手を交わした。
next NOVELtop