そばかす
1,
藍子「たいばん?何それ?」
藍子が、飲んでいたミルクティーのストローから口を外し、そう不思議そうに言う。
晴彦「対バン。他のバンドと一緒にライブをやること。」
藍子「へ〜。」
弘樹「そういや、もう結成して四ヶ月経つのに、ライブまだやったことないよな、俺ら。」晴彦「そうそう。もうそろそろやりたいころかなって思って。知り合いのバンド組んでる人達に対バンの話持ち出されてさ。」
浩介「そっか、対バンなら会場の料金も割り勘だし安く済むな。」
ライブか。
そういえば、弘樹の言うとおり、やったことないな、未だに。
やりたいとは内心思っていたけど。
バンドを結成して四ヶ月。
あの、結成時の暑かった季節をくぐり抜け、11月に入りかける今は、もう外は寒くなっていた。
藍子の歌声はますます魅力的にうまくなっているし、楽器隊の演奏も、もちろん上達して、バンド全体のレベルが上がってきている。
メンバーの性格もだいたい把握してこれた。
晴彦「やってみないか?2週間後の日曜日なんだけど。相手の方がライブハウスをもう予約しててくれててさ。時間は30分。」
藍子「やりたいやりたい、超やりたい!」
藍子が、身を乗り出して言う。
あー、超顔キラッキラしてるよ。
弘樹「・・・お姫様がそう言うんなら。」
浩介「・・・決定だな。」
藍子「やったぁ!!」
藍子が、うきうきな様子で鼻歌を歌い出す。
好きそうだもんな、ライブとか。
晴彦「じゃ相手にそう返事するよ。そう決まったら、早速曲決めなきゃな。」
初ライブ。
なんか緊張するけど、すっごい楽しそう・・・。
練習にも、気合いが入りそうだ。
晴彦「どうする?何か演りたい曲ある?」
藍子「そばかす!」
弘樹「あー、あれはやるべきだ!藍子の魅力がふんだんに盛り込まれてる。」
浩介「ふんだんに、って・・・。」
晴彦「じゃそばかすは決定ー。俺は天体観測やりてー。」
* * *
そんなこんなで、曲目は話し合いですんなりと決まり、(ほとんど藍子の希望だが)それからの2週間は、とにかく練習しまくってしまくって。
ライブの前日、PM10:00。
俺らが売る分のチケットも、晴彦の顔の広さを利用して全部売れた。
あとは、明日のライブを待つのみ。
弘樹「じゃぁなー。おじゃましました。」
浩介「明日、がんばろう。」
藍子「いいライブになるといいねっ。」
晴彦「おう!じゃ体調崩さないように気をつけろよ。」
晴彦の家の玄関で、晴彦の見送りのもと、俺たちは玄関の扉を開け、自分たちの家へと向かう。
自転車に乗る俺の背中には、ベース。と。
藍子「あー、楽しみっ!私、きっとめっちゃはじけるよ。」
藍子。
浩介「いつでもはじけてるじゃん。」
藍子と俺は家が同じ方向なので、俺は藍子の送り迎え役になっていた。
というか、晴彦が、「好きなら送り迎えぐらいしろ!」と言っていたのと、弘樹の「チャンスぐらい与えてやるから安心しろ♪」という言葉をきっかけに、半ば無理矢理の役目。
・・・とか思いつつも、そう言ってくれた二人に感謝している俺がいたり。
藍子「あれ以上にー。」
浩介「どんだけだよ・・・。」
バンド結成当初、女が苦手な俺も、自然と藍子とはなじめた。
サバサバしてて女特有のねちっこさがなかったし、明るく優しく、さっぱりとした性格は、俺のドツボだった。
でも緊張させないおだやかな雰囲気。
すっごい、本当にものすんごい、天然入ってるんだけど。
もう、お話になりませんよ?この子。
天然のレベルが半端じゃない。今まで出会ってきた女の子の中でも天然度は1位2位を争う。気が利いて人の気持ちによく気が付くんだけど、変なところで鈍い。例えば、恋愛面とか、そういうので。
出会ったときから、一目惚れみたいな感じだったけど、今は、もう完全に惚れた。
藍子とは気があって、服の趣味だったりとか、好きな歌手とかも全く同じだし。
この間、買い出しに二人で行ったんだけど、選んだお菓子と飲み物、同じだったしな・・・。
藍子「いつもいつもありがとうございまーす。」
いつも、そう言って、自転車の荷台から降りる藍子。
ありがとうという言葉は、絶対に言い忘れない。
どんなささいなことでも、お礼を言うべき事には、ちゃんと言う。
そんな藍子を見て、俺も、藍子に出会ってから、人にちゃんとお礼を言うようになった。
浩介「どういたしまして。じゃ、明日も集合時間の30分前に来るから。」
藍子「あ、私その前に買い物したい。リハが3時からだから・・・12時ぐらいに、来てほしいな。買い物、つき合ってくれない?」
あー、買い物か。なんの買い物だろう?
まーいいか、買い物ぐらい。
ちょっと待て。
・・・・・!??!?!?
買い物!?
え、買い物って、コンビニに買い出しに行くとかじゃなくて、街へ買い物に行くってこと!?
二人で!?
それってデートじゃん!?
藍子「??浩ちゃーん?もしかしてダメ?」
浩介「え、あ、いやいや、大丈夫、全然おっけー。」
藍子「よかったー。じゃ、明日ね!」
手を降り、小走りに自宅の玄関に向かう藍子の後ろ姿。
抱きしめたいと思った。
* * *
浩介「ただいま・・・。」
そう言いながらリビングに入ると、弟の良が、テレビを見ていた。
視線を外さずおかえり、とだけ言うと、母さんもキッチンから出てきて、笑顔でおかえり、と言った。
キッチンを覗くとダイニングテーブルには親父がいて、いつものようにテレビを見ながら晩酌をしていた。
俺の存在に気付くと、ふう、と息をついた。
父「・・・おかえり。」
浩介「ただいま。」
父「またバンドの練習か。」
浩介「そうだけど。」
父「・・・来年は受験だろう?大丈夫なのかそんなことしてて。」
俺の親父は、俺の音楽活動に賛成してくれていない。
親父は、ミュージシャンなんかの博打人生を目指すことなんか、認めてはくれない、頑固な人だった。
ちゃんとした大学に行って、ちゃんとした就職先について、ちゃんとした幸せな家庭を築く。
そんなありきたりな人生を、俺に求めていた。
俺はベースを置いて、親父にずかずかと近づく。
浩介「親父。」
父「?」
浩介「明日、俺のバンド、ライブやるんだ。」
父「・・・。」
浩介「これ、チケットだから。」
そう言って、親父の手元に三枚の紙切れを置く。
晴彦からあらかじめもらっておいた、三枚のチケット。
親父と、母さんと、弟の分。
家族は、俺のバンド活動に好感を持ってくれてない。
弟と母さんはそれなりに応援してくれているが、親父が反対しているとなると、やはり堂々と応援するのは気が引けるのだろう。
母さんは、「気にせずやりたいことをやりなさい。」と言ってくれているが。
浩介「明日の、夜の6時開演だから。この町の、ライブハウスで。来てよ。母さんと、良を連れて。」
父「・・・。」
親父は、黙ったまま、酒の入ったグラスを口に運んだ。
母さん「浩介?ご飯は?」
重たいオーラに気付いたのか、いつも気が利く母さんが、俺に声を掛ける。
浩介「ん・・・いい。食べてきたから。もしかして作っちゃった?」
母「大丈夫、まだよ。」
浩介「風呂入って寝るわ。・・・おやすみ。」
重い空気の中、俺は親父に背を向けた。
リビングを通って自分の部屋へ向かおうとすると。
良「あ、兄貴。」
浩介「あ?」
弟の良が、俺を引き留めた。
良「明日、ライブやるんだ?」
浩介「そうだけど。」
良「チケットほしいなー♪」
浩介「・・・もう親父に家族の分は預けてあるよ。」
良「ってことは三枚しかない?」
浩介「あぁ。そうだけど、なんだよ?」
良「彼女連れていきたい。」
浩介「・・・・。」
そう言えば、こいつ、中坊のくせに彼女いるんだった。
今年の夏休みからつきあっているらしくて、最近よくうちに来る。
アホ良のくせして、結構かわいいんだよなー、良の彼女。
なんか大人っぽいんだけど笑顔は明るくてかわいかった。
良もそれに相応して、背ぇ高いし(俺と同じくらいある!)顔も整っててかっこいいんだけどさ。
くそ・・・俺高校生なってから彼女できたことないのに。
まぁ、良は性格が母さん似で、俺は父さん似って言われてるから、性格の面からして違うのかもしれない。
浩介「メンバーに余ってないか聞いといてやるよ。」
良「マジー?さんきゅー。」
そう笑顔で俺に言うと、良は自分のケータイのボタンを押し、なにやら操作し始める。
例の彼女に連絡するのだろうか?
浩介「彼女の名前、なんて言ったっけ?」
良「??アイだけど?」
浩介「・・・漢字は?」
良「はぁ?藍色の藍。」
浩介「・・・・。」
すんません、俺の好きな人、弟の彼女の名前に+子 しただけなんですけど。
良「なんだよ?」
浩介「いや、お前の彼女かわいいよな、うん。」
良「だろー?あ、狙っても無駄だからな、俺のだし。」
浩介「はいはい。」
ちなみに母さんの名前は愛美です。
アイつながり・・・?
血は争えねぇな、と一人でうなづきながら、居間を出た。
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