そばかす






2,



藍子「あ、浩介ー。これどうかな?」
浩介「え?どれ?」


ライブ当日。

昨日の約束通り、俺と藍子はリハーサルの前に買い物をしていた。
といっても、完全に藍子の買い物に俺がつき合ってることになるが。
でも藍子とは趣味が合うし、好きな服の種類なんかも同じだったから買い物は楽しかった。
二人で街へ来たのは初めてだな。
何でも今日のステージ衣装でいまいちいいものを持ってなかったため、派手めな服がほしいんだそうだ。


藍子「どう?」
浩介「んー・・・ボトムスこのままジーンズだよな?だったらもうちょっとだぼめの方がいいじゃない?」
藍子「あ、そうかなー?」


今日、親父来てくれるかな・・・。
母さんと良(+藍ちゃん)は来てくれるみたいだけど。
でも、ライブ来てくれたらもう俺の音楽活動のこと、認めてくれたってことになる。
親父としては、俺の音楽活動、認めてないし、来にくいのかも。
でも来てほしい。
ちゃんと、良い仲間を見つけて、良い友情はぐくんで、良い恋愛して、良い音楽を作っていってる。
その全てが盛り込まれてる、Clumsyのライブを見に来てほしい。


藍子「浩介ー??」
浩介「へっ!?」
藍子「もう、これで呼ぶの4回目だよー。どうしたの?なんかあった?」
浩介「いや、ごめん。ちょっとぼーっとしてた。」


しまった。
せっかくの藍子との初デート(勝手)なのに、ぼけーっとしてたとは。
デート(だから勝手)に集中だ!



* * *



結局藍子は、俺が店内で見つけてきただぼめの、暖色系トップスが気に入ったらしく、それをうれしそうにレジへ持っていった。


藍子「あーっ、満足、満足。浩介のおかげで思ったよりはやく見つかったよー。ありがとー。」


店から出ると、藍子はうれしそうに そう言った。
あー、やべ、かわいい・・・・。


浩介「どういたしまして。」
藍子「これからどうする?まだ、待ち合わせまでちょっと時間あるけど・・・。」


ポケットからケータイを取り出してディスプレイを見ると、他のメンバーとの待ち合わせ時間まであと30分あまり。
街のライブハウスはこのすぐ近くだから・・・まだちょっと余裕がある。


浩介「どっかで、一休みする?疲れただろ、んなヒールで歩き回って。」


今日の藍子は、少しヒールのついたサンダルみたいの・・・ミュールって言うんだっけ?あれ?ミァール?←そんなのありません。(※実際藍子がはいてるのはパンプス)とにかくそれっぽいのをはいていた。
ハイヒールってほどハイヒールじゃないけど、やっぱちょっとでもヒールあると歩きづらいんだろうな、そう思って、今日は特別藍子に合わせてゆっくり歩いていたつもりだ。
ただでさえ、俺は背が高くて歩くの速い、って言われるから。

いつも藍子と一緒にいるときは自転車で、藍子は俺の後ろに乗ってるからそんなこと気にしなくていいけど、今日は街の駅の駐輪場に自転車を置いてきて、二人とも歩き。
俺のペースで歩いていたら、背の低い(俺から見れば)藍子は小走りすることになってしまうだろう。


藍子「あ、浩介にはバレバレか。」
浩介「・・・やっぱり。スタバでも行く?」
藍子「うんっ。」



* * *



浩介「うぃっす・・・。」


ローテンション気味にあいさつらしきものをしながら、リハーサル用スタジオに入る。
そこにはもう、晴彦と弘樹がいて、スタジオのセッティングをしてくれていた。


藍子「あ、晴彦に弘樹、もう来てたんだね。早いじゃん。」
晴彦「おー、俺は20分前にはいたぞ。」
弘樹「(・・・今さっき来たくせに)嘘をつくな嘘を。」
晴彦「あ、ばれた?」


相変わらずアホな奴らである。


弘樹「二人とも、珍しく着いたの最後だったじゃん?いつも俺より先に着いてるのに。」
浩介「あぁ、それは・・・。」


くそ、ここで、バカ正直に二人で買い物してきた、なんて言ったらひやかされるぞ、絶対。
そんなことを思った俺は、なんとかして買い物してきたことをかくそうとしたら・・・


藍子「見て見てっ!じゃーんっ!」


今さっき買ってきたばかりの、そう、俺が選んでやったあのトップスを、藍子はうれしそうに掲げた。


晴彦「おっ、ステージ用の?いいじゃん、かわいいー。」
弘樹「藍子に似合いそう。買ってきたんだ?」


え。
もしかして。
これは。


藍子「でしょー?これ、こうs」
浩介「だぁーーーーーーーっ!!!!」


止めなければ、と思った俺は、自分でも知らないうちに藍子の声を遮るように叫んでいた。
普段の俺からは到底想像できぬ、その行動に、他の三人は文字通り目を点にして、こちらに振り返った。


晴彦「??・・・ど、どうしたんだよ、浩介?」
浩介「あ、えっと、藍子!」
藍子「は、はい!?」
浩介「か、買い出し行こう、そこのコンビニまで!」
藍子「う、うん?いいけど・・・。え、ちょっ、浩介!?」


無理矢理藍子の細い腕を引っ張っていき、スタジオから出ていった。



* * *



藍子「あはははっ!!なんだ、そういうこと?」


俺の背中にしがみついて、藍子は笑い出す。


あのあとスタジオを出てから、本当にその通りコンビニへ買い出しに行った俺たち。
もう、飲み物や軽食の買い出しをすませて、スタジオへ帰路についているところだった。

俺が藍子のこと好きだから、ということは伏せながらも、二人で街へ出かけた、というとあの二人があとでひやかしてきそうだから、今日街へ行ったことは秘密にしておいて、と説明した。
すると、藍子はその、箸が転がってもおもしろがるような性格上、笑いが止まらないようで。


浩介「ごめん、なんか照れくさかった。」
藍子「いいよいいよ、じゃ、秘密にしとくね。それにしても、あの浩介の叫びは最高だったなぁ。」
浩介「そのこと忘れてください。」
藍子「ふふっ、一生覚えてそうだけど?まぁ、秘密にしといた方が、私としても都合がいいかもねー。」
浩介「!?」


藍子のその、いたずらな台詞を聞いて、俺運転、客藍子の自転車はバランスを崩してぐらぐらと揺れた。


藍子「ぎゃーっ!!」


藍子の叫び声と同時に、揺れが止まる自転車。
自転車ごと倒れる前に、俺が地面に足をつけたのだ。
かごの中の、コンビニの袋も崩れた。
静止した自転車。
と俺と、俺にしがみついている藍子。


藍子「だ、大丈夫・・・?」
浩介「ご、ごめん。」
藍子「珍しいね、浩介がバランス崩すなんて。どうしたの?」
浩介「い、いや・・・なんでもないよ。」


そう言って、俺はまた、自転車をこぎ出す。


なんでもないだなんて、嘘だった。


"まぁ、秘密にしといた方が、私としても都合がいいかもねー。″


俺が、藍子の言葉通り、珍しくバランスを崩した理由は、その言葉にあった。

どういう理由で、秘密にしておいた方がいいんだ・・・・?

まさか、俺以外にメンバーに好きな人がいて・・・その人に、俺と二人だけで出かけたことを、知られるとまずいから・・・?
そう言えば、最近晴彦と妙に仲が良いような気がする。
晴彦と話してるとき、藍子、やけに笑顔の度数が上がるような気もする。
晴彦も、藍子には特別に扱ってるように感じるし。

晴彦と、藍子が、両想い・・・?

いやだ。
そんなの、いやだ。

半ば無意識に自転車をこぎながら、本気でそう思った。

俺の恋は、早くも、何も発展しないまま、崩れていくのか。



* * *



開演時間の、5:30、5分前。
めいいっぱい、リハーサルをやらせてもらった俺たちは、舞台の裏手で、破裂しそうにバクバクと脈打っている心臓とともに、客席を眺めていた。
このライブハウスはこの街でも大きい方で、ライブハウスにしては結構客が入るみたいだった。
でもやっぱりライブハウスはライブハウス、ステージからでも、客席にいる客の顔は全員見えた。

ちなみに、俺たちと対バンするグループはというと。
Clumsyを含めて、今日ここで対バンライブを行うのは三組。
一つ目は、この街で知ってる奴は知ってる、2年前結成された大学生のバンド。
このライブの主催だ。
晴彦の知り合い、って言ってたけど、実際どんな関係なのかは知らない。
でも多少は有名だけあって実力はある。
男だけの5ピースバンドで、ドラム、ベース、ギター、ボーカル二人の、独特なスタイルの、パンクバンド。
もうそれこそゴリゴリの音しかやらない。

そしてもう一つは、結成して一ヶ月目の、男女混合の俺たちと同じ高校生バンド。
これまた主催バンドの知り合いらしい。
リハで聞かせてもらったけど、う〜ん、まぁ結成一ヶ月とだけあって、実力はまだまだ。
でもこちらのバンドも独特で、ボーカル、ドラムが女、ベース、ギターが男。
ベースはそこそこうまかったけど、他のパートはまだまだ、って感じだったな。
ボーカル、結構うまかったけど。


俺たちと、もう一つのバンドが30分ずつで、主催バンドが少しだけ多い40分。
合わせて1時間40分の、あまり長くはないライブだ。
順番は、例の高校生バンド、Clumsy、主催バンド、という形で、俺たちは6:00からだった。

ステージのそでから客席を覗く。
晴彦が呼んだ、同じクラスの友達の顔が、たくさんあった。
あいつ、人集めるの得意そうだしな。
そして。
俺が招いた、家族。
客席の、ちょうど中央らへんにいた。
母さんと、良と、その彼女の藍ちゃん。
あ、ちなみに藍ちゃんの分のチケットは、弘樹が余っていたようで譲ってくれ、開演前にライブハウス前で待ち合わせして良に渡した。
藍ちゃんは相変わらず、かわいかったし愛想よかったし、本当いい子だったなぁ。


そしてとうとう開演、5:30。
あまりキレのよくないドラムが、鳴り始める。
つくづく、晴彦のドラムのうまさが身にしみる。

晴彦、という名前を自分の中に見つけて、思い出した、仲間の存在。
そういえば、どこにいるんだろう?

周りを見渡すと、俺の仲間も、興味深そうにそでから客席を見つめていた。
弘樹は、自分のあごを手で支えながら、じっとステージを見つめている。
そして、晴彦と藍子は・・・・。

二人、仲良く、笑い合いながら、ステージを楽しそうに見ていた。


胸が、ずきんと痛むのを感じた。







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