そばかす






3,



晴彦「おしっ!!初ライブだぞ、野郎ども!思いっきり暴れてこよう!」
弘樹「って、俺たち、パンクバンドじゃないんですけど・・・。」
晴彦「んなもん関係ない、とりあえず、悔いの残らない初ライブに!」
藍子「私、容赦なくあばれるからよろしくねーっ。」
浩介「まぁ、このライブで一躍有名になれますように。」


主催バンドが有名なため、結構音楽ファンも来ているライブ。
名をとどろかせるには、もってこいの場所だった。
失敗は、許されない。
大丈夫だ。
みんないる。
仲間がいる。
そう、自分に言い聞かせて、緊張で破裂しそうな心臓を押さえ込みながら、まだ真っ暗なステージへと上がった。


ステージも、客席も暗い。
足下も見えないくらいに、暗い。
だが、それはこのあとの光をより輝かせるためなのだろう。


みな、準備を進める。

周りを見渡す。

晴彦も、弘樹も、藍子も、俺に向かって、うん、と力強く頷いた。
俺も、それにうん、と返す。


一発目は、そばかす。
ちょっとアレンジを加えて、俺のベースが入った後、藍子のアカペラボーカルから始まる。

晴彦が、かつん、とステッキを鳴らす始まりの合図。


その合図のあとに、ぶん、と重く重低音。
客席が、一気に沸く。


    思い出は いつも キレイだけど    

そこへ、藍子の透き通った歌声。
そのワンフレーズが終わると、ドラムが入り、ギター、ベースが加わる。
一瞬のうちにステージにスポットライトが当たる。
Clumsyの『そばかす』が始まる。


    大キライだった そばかすをちょっと ひとなでしてタメ息を一つ
       ヘヴィー級の恋はみごとに 角砂糖と一緒に溶けた・・・・    


ベースをはじく。

楽しい。
めっちゃ、気持ちいい!



* * *



藍子「どうも!Clumsyです!」


そばかすが終わって、そのあと続いて2曲演奏したあと。
藍子が、そう俺たちを自己紹介した。


藍子「今日は私たち、結成して四ヶ月目なのに初ライブです!どうですか?みなさん楽しんでくれてますかー?」


楽しそうな藍子の声。
それに相応して、客席から歓声が上がる。


藍子「それではメンバー紹介をしたいと思います!まずはリーダー、バンドのムードメーカードラムの晴彦!」


藍子が言い放った途端、晴彦のドラムのソロが始まる。
晴彦だけに、スポットライトが当たる。
うわー・・・うめぇ・・・。
かっこいい。
本番に強いタイプだ、きっと。
あの地下室とは、比べものにならないくらいうまくなってる。


藍子「次はツッコミ担当ギターの弘樹!」


晴彦のドラムが弱くなったと思うと、弘樹のギターソロが始まる。
よく聴く、有名なフレーズ。
俺も補助的にベースを入れる。
コイツも、うまい。


あー、やべ、最後だとプレッシャー。
なーんて思いながらも、もう、緊張なんてふっとんでた。


藍子「そしてClumsyの土台!冷静沈着、ベースの浩介!」


俺にスポットライトが当たる。
弘樹のギターが止まり、リズム取りのみの晴彦のドラムが始まる。
俺の、ベースソロ。
ピンクパンサーのテーマを選んだ。
客席を見る。
真ん中にいる、母さんに、良に、藍ちゃんの顔がのぞけた。
ふん、良の奴、開いた口が塞がらない状態だぞ、あの野郎。
兄貴だってやるときにはやるんだよ。
そして、客席を目だけで見渡すと。



・・・・!!


親父・・・!!



ライブハウスの、隅っこの方。
腕を組んで、こちらを見据えていた。


ありがとう、親父・・・来てくれたんだ。


心の重荷が一つとれて、俺はベースのプレイにもっと気合いが入った。

俺のソロが終わる。
と同時に、晴彦が、


晴彦「そしてClumsyの紅一点ボーカル、藍子!!」


そう叫ぶ。
それを合図に、俺たち楽器隊はこれでもかと楽器をかき鳴らす。
藍子のシャウトが聞こえ、そのあと藍子が高く跳ねる。

藍子の着地の瞬間に、ぶん、と演奏が止まった。



* * *



「おつかれーっ!!」


ライブハウスの楽屋で、缶ジュースをカツン、と鳴らす。


ライブ終了後。
主催のパンクバンドがやったあと、Clumsyのアンコールが流れて・・・アンコール、三曲やってしまった。
主催バンドは、アンコールかかんなかったのが、ちょっと気まずかった。
でも、楽しかったからよしとする。
思った以上のライブの成功ぶりに、みんなは満足そうにジュースを一気飲み。


藍子「あーっ、楽しかった!ヤバイ、はまる、ライブ!」
晴彦「いやー、楽しかったな。」
浩介「うん、思った以上に。」
弘樹「成功してよかったよかった。」


そう、狭い楽屋で騒いでると。

コンコン、とドアをノックする音。
藍子が、はーい?と言いながら、ドアへ駆け寄り開ける。
と。


「兄貴っ!!!」


・・・・・。
あー・・・でたでた、やけにデカい、でも中学生。

浩介「おう、良。」


良と、その彼女藍ちゃんと、母さん。
楽屋パスを渡してあったから、ここまで来れたのだ。
母さんと目が合うと、どんな意味なのか、右手の親指を立てて、グットポーズを見せる。藍ちゃんは、ぺこり、と俺に向かって会釈した。

席を立って、ドア付近にいる家族に近寄る。
すると藍子は、あらん?と言って俺と家族とを交互にキョロキョロと見比べる。


浩介「あ、俺の家族。」
藍子「あぁ、なるほど。どうもー♪ライブ見に来てくれてたんですね!」


藍子は、愛想よくあいさつをする。


藍子「浩介のお母さんに・・・・、弟君に妹さん?弟君、浩介と似てるー!」
浩介「いや・・・、この子は弟の彼女さん。弟の良に、良の彼女の藍ちゃん。」


おーっ、兄と違って不器用じゃないんか、かわいー、と後ろから晴彦と弘樹のふざけた声が聞こえてきた。
あんの野郎ども・・・。


藍子「藍?じゃ私と名前似てるねーっ!私、藍子って言うんだよ!」


・・・重々承知です。


藍「あ、自己紹介で気付きました。」
良「兄貴、かっこよかったじゃん。」
浩介「少なくともお前よりはな。」
良「・・・言い返せねぇのがむかつく。」


笑って話していると。


藍子「あ!!」


藍子が、ドアの向こうに何か気づき、途端に笑顔になった。


浩介「どした?」
藍子「おかぁ・・・におとぉ!来てくれはったんや!」


京都弁に戻る。
あぁ、やっぱ家族の前じゃ京都弁は出てきちゃうんだ。
藍子の両親らしき人たちに、走り寄っていく藍子。
うれしそうに、何か話している。

と、その向こうに、見覚えのある団体を見つけた。


浩介「!・・・・晴彦、親父さんたちが来たよ。」


もう顔見知りの、晴彦の家族達。
なんたって晴彦の家の地下室を練習場にしているため、顔はよく合わせていた。
結構大家族で、元気な祖父母、明るいご両親、弟君にお姉さん。
みんな、いい人達。
晴彦がどうしてこうも人柄が良すぎるのかは、この家族に出会うとわかる。
みんな、そろいもそろっていい人たちである。
しかし家族揃ってライブ・・・よっぽどの音楽好きだ。
いつも思うけど、おじいさんにおばあさん、元気だなぁ・・・ロックライブを見に来るなんて。


晴彦「おっ、来たか、万年ドラムバカ親父が!」


とか言いながらも、うれしそうに席を立って楽屋の外に出ていく。
親父さんにバシバシ背中を叩かれながら、照れくさそうに笑っていた。

その情景を見ていたら、そばにいた俺の母さんが、とんとん、と俺の肩を叩く。


母「よかったわよ、ライブ。思ったよりうまくてびっくりしたわよー。母さん興奮しちゃった。」
浩介「・・・ありがとう。」
母「あ、あと。お父さん、来てたのわかった?」
浩介「うん、後ろの方にいたよね。」
母「楽屋寄っていけば、って言ったんだけど、いいって聞かなくて・・・でも、がんばってるんだな、って言ってたわよ。認めてくれたみたい。」


母さんのその言葉を聞いて、俺は笑みをこぼさずにいられなかった。
親父が、認めてくれた・・・。
音楽活動をやる上での重荷が、ひとつ、なくなった。



* * *



そのとき、俺は、自分のことばっかで。
何も、気付いてやれなかった。


いや、気付いたんだ。
俺たちの、家族が、帰った後に。
でも、それじゃ、遅すぎた。


うらやましそうに、家族となれ合う、俺たちの様子を見ていた、弘樹に。
気付いて、やれなかったんだ。


    弘樹の家族が、誰一人、来ていなかったことに。



* * *



藍子「・・・そう言えば。」


帰りの、自転車の荷台で。
藍子が、ふと、つぶやいた。
11月の寒い風の中、コートを持ってきてなかった藍子は、俺のコートを着て、寒いと言って俺にしがみついていた。


浩介「ん?」
藍子「・・・弘樹、家族、来てなかったよね?」
浩介「    !!」


そう言えば・・・・。
弘樹の家族らしき人たちは、来なかった。
ライブをやると決まったときに、メンバーで、全員家族は呼ぼう、ということになって。
弘樹は確か、家族分、三枚チケットをもらっていった。


藍子「何か、事情があったのかな?」
浩介「・・・気付いてやれなかったな。」
藍子「うん・・・。なんか、自分たちのことばっかだったね。私ら。」


冷たい空気が、頬をかすめる。
藍子の声色から、明らかに弘樹を心配していることは伺えた。
心配させたくない、そう思った。


浩介「もしかしたら来てたのに、楽屋パス渡し忘れたとか、楽屋来れること教えてなかったのかも、弘樹。」
藍子「あ、そうかもね!メンバーに家族見られるの恥ずかしいとか、そういうの弘樹ありそうだし。」


    そう言って、軽く流してしまった。


藍子と一緒にいて、浮かれてたのかもしれない。


本当に、本当に。


軽く、軽く。




そんな風に、流せるものでは、到底なかったのに。








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