そばかす



4,



「な、な、長田君っ!」


後ろからそう話しかけられて、俺は歩いていた足を止めた。

季節は流れて12月に入り、寒さもつのるころ。

学校の、長い廊下で。
昼休み、屋上にでも行こうかと、晴彦に誘われて行くところだった。
きっと弘樹や藍子も来るのだろう。
そんなことを予想していたが、俺は先生に頼まれた仕事があったため、同じクラスだが二人とは別々に屋上に向かう。

誰もいない廊下。
めずらしいな。

そんなときに、話しかけられた。

振り返ると、面識のない女子。
・・・えーっと、何組だっけか、この人。


浩介「・・・はい?」
「え、えと、その・・・この前のライブ、見ましたっ!」
浩介「あ、どーも。」
「そ、それで・・・えっと・・・なんて言うか・・・。」
浩介「??」


もじもじしている名前不詳の彼女。
ずっと、えっと・・・その・・・を繰り返している。


「私と、おともd・・・」
「浩ちゃーーーーんっ!!」
浩介「!?」


聞き慣れた声がして、何かと思えば、どかっと背中から衝撃がしてから・・・なんか後ろから抱きつかれてるぞ、俺。
腕が俺の腹にきつく巻かれている。
てか、あの声と、この見慣れた手・・・。
それだけでも俺に抱きついている正体はわかったけど、念のため首だけ回してそれを見る。


浩介「藍子・・・。」


やっぱり、藍子だった。
最近コイツやけに抱きつくな、本当。

・・・いや、うれしいですけど!?それが何か!?


藍子「ジュース飲みたーい☆な!」


なおも俺に抱きつき続け、そう上目遣い&甘え声で言う。
や、やめてくれ・・・そんなんで甘えられたら俺の理性が・・・!


浩介「お金ないの?」
藍子「楽譜買ったらなくなっちゃった。」


ったくもうこの子は・・・。
お金は計画的に使いましょう。
困った子です。


「・・・。」


視線を前に戻すと、さっき話しかけてきた名前不詳の彼女が、口をぽかんと開けて見ていた。
さっきからなんだこの人。
何言いたいんだ俺に。
実は彼女すっごい音楽ファンで、同じ学校の俺たちのライブを噂で聞きつけ見に来たものの、俺だけレベル低くて何か言いたくなったとか?
ベース下手すぎるからもっと練習してください! とかかな。
だから言いにくかったのかも。
でもそういうのは言ってくれた方がためになるからうれしいんだけど。


藍子「あ、何か話してた?ごめんね、じゃまして。」


藍子が彼女に気付き、俺からさっと離れた。


浩介「あ、すんません続き聞かせてください。」
「・・・いいです、もう。次のライブ、楽しみにしてますね。」


そう彼女は笑顔で言って、走り去って行った。


藍子「うちのファンかな?」
浩介「ベース下手すぎるとか言われるかと思った。」


本気でそう思ってたのでそう素直に言うと、藍子は、


藍子「ぶっ。あっははは!!」


吹き出した。

・・・・。
あの、俺、何もおかしいこと言ってないですよね?


浩介「え、顔に何かついてる?」
藍子「ううん、別に♪・・・これなら心配なさそうだわ。」
浩介「え、何の話?」
藍子「こっちの話ー。浩介が不器用でそういうのには鈍感でよかった。」


すんません、誰かわかりやすく翻訳してください。


藍子「屋上行くんでしょー?」
浩介「うん。藍子も?あ、ジュース買ってく?」
藍子「あ、いい。なんかいらなくなったから。」
浩介「え?いいの?」


うん、とうれしそうに頷くと、これまたうれしそうに作戦成功とかなんとかつぶやいたのが聞こえた。



* * *



藍子とともに屋上へ行き、重いドアを開ける。

と、そこには。


晴彦「おー、きたきた、お二人さん。」


もう晴彦と弘樹はそこにいた。


藍子「お〜っす。・・・てか、さむっ!!」


藍子が身を縮こませた。
そりゃ寒いだろ、12月ですよ?
屋上には誰もいない。
そりゃ来ないだろ、12月ですよ?


浩介「風邪ひくよ、中にしよう。」
藍子「そうしてー!寒い〜!!」


お姫様がそう言うなら、とみんなで屋内に戻る。
ここでいっか、と晴彦が言い、弘樹がおそらく誰も来ないであろう階段の踊り場らしきとこに座り込む。
それに触発され俺たちも次々に床に座り込んだ。
藍子は、俺のすぐ隣に座る。

みんなが落ち着くと、リーダーである晴彦が口を開いた。


晴彦「えーっと、ここへ呼んだのは言うまでもない、バンドのことだけど。」


なんだろう、またライブかな?
あの初ライブのあと、次々と対バンの話が入ってくるようになって、結構ライブを行ってきた。
俺も含めて、みんなライブにはまってしまったようだ。


弘樹「またライブ?」
晴彦「いや、ちょっと見てほしいものが。」


そう言って、晴彦が自分のケータイを取り出す。
ピコピコとなにやら操作したあと、俺らに向けて画面を掲げた。


晴彦「見ろよ、このサイト。」


そう言って、うれしそうに笑う。
三人が、同時に画面を覗く。


「!!」


その画面には。


『Clumsy ファンサイト』


とデカイ文字。


藍子「こ、これ!う、うちらの・・・」
弘樹「・・・ファンサイト!?」


藍子と弘樹が、びっくりしてるけど、うれしそうに笑った。


晴彦「その通り♪」


まじでぇーーーー!?!? と、藍子と弘樹がハモり叫んだ。
すごくうれしそうだ。

俺たちのファンサイトか。
なんかすごいな、でも実感わかない。
ライブを行ってきて、地元の音楽ファンの間や学校では結構有名になった気がしていた。
ライブ後の出待ちも増えたし。
さっきの名前不詳の女の子みたいに、学校で話しかけてくる人多くなったし。
藍子と街を歩いてても、(あの初ライブの日をきっかけに、二人でよく出かけるようになった。)話しかけられることは珍しくない。
弘樹と晴彦も同様みたいだけど。

まぁうれしいに変わりはない。


浩介「え、誰が作ったんだよ?これ。」
晴彦「俺の彼女とその友達♪」
浩介「・・・。」


俺の彼女とその友達・・・?
あぁ、まぁ身内じゃないとそういうことできないよな、うん。
許可とか必要だもんな、うん。


・・・俺の彼女!?


浩介「はぁ!?」
晴彦「っ!?な、なんだよ?」
浩介「は、晴彦、お前、彼女いたの?」
晴彦「う、うん・・・、え、知らなかった?」
浩介「初耳だよ!」


ちょっと待て。
え。
あの初ライブのときから、一ヶ月弱月日が流れたけど、俺は、てっきり、藍子と晴彦は両想いだと思いこんでた。
晴彦に彼女がいるってことは、藍子、今すごい傷ついてるんじゃ・・・。

そう思って、隣にいる藍子を見る。


藍子「え、浩介知らなかったの?ライブ来てるじゃん、いつも。」


・・・へ?


弘樹「超美人だよなー、晴彦の彼女さん。」
藍子「うんうん。中学の時からつき合ってるんでしょー?見かけに寄らず一途だよね、晴彦って。」
晴彦「俺は見かけも中身も一途だよ!」
弘樹「えー、遊び人って感じよねー、藍子ちゃん!」
藍子「わかるわぁー、弘子ちゃん!」


・・・すんません、誰か翻訳して。


つまり。
晴彦には中学からのつきあいの超美人な彼女がいて。
それを藍子と弘樹は知っていて。
藍子はそれについて全くもって傷ついていない。

イコール。

藍子の好きな人は、晴彦じゃない・・・?

しかし、あの初ライブのときの『まぁ、秘密にしといた方が、私としても都合がいいかもねー。』という発言からして、きっと藍子の好きな人はメンバー内にいる。
って事は・・・。


弘樹「時代遅れだよ、浩介。」


弘樹。
なのか。


あー、まぁ弘樹かっこいいしな、普通に。
ギターうまいしノリいいしツッコミうまいし優しいし。
しょうがない、そりゃ一緒にバンドやってりゃ惚れるわ。


晴彦「まぁ、そんなこんなでファンクラブもできたんで、オフィシャルサイト作ってみました。ハイ、これ、アドレス。」
藍子「え!?作ったの?」
晴彦「マイブラザーの友達がパソオタクでな、そいつが作ってくれた。そっちはパソコン専用だからケータイで見れないけど、家でパソコンで見て。」
藍子「わーっ。すごーいねー。なんか。」



こんなにも。

弘樹や晴彦と一緒に、うれしそうに、無邪気に笑う君を。


さらってしまいたいと思ったのは、どうしてなんだろう。






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