6,
クリスマスイブ。
結局、藍子はライブ当日まで、歌詞を練習で歌わなかった。
リハで、歌ったのみ。
しかも、その歌詞は英語で、あまり聞き取れなかった。
まぁ、聞き取れたとしても、意味わかんないけど。
どんな、歌詞なんだろう・・・。
晴彦は、和訳のもとの歌詞を知ってるみたいだった。
それに。
俺の、歌詞の意味わかった?という言葉に返された、
弘樹「ん?歌詞?わかったよ、おおまかな意味ぐらい。」
という弘樹の言葉。
そういや、あいつ、成績超良い上に英語べらべらだったっけ。
もうしょうがないから、藍子に直接和訳見せてもらおうかな、と思って藍子にそのこと言ったら。
藍子「え・・・あ、うん、今持ってないから今度ね!」
そう言われて、流されてしまった。
晴彦に聞いても、弘樹に聞いても、教えてくれない。
ごめんよ・・・みんな、気を遣わせてしまって・・・。←遠い目
とにかく、メンバー内で歌詞の意味を知らないのは、俺だけだ。
弘樹の様子から見ると、もう藍子は、弘樹に気持ちを伝えてしまったのだろうか。
弘樹、歌詞の意味わかった、って言ってたし。
まぁ、歌詞が恋愛ものって決まったワケじゃないけど。
でも、普通だったしなぁ・・・弘樹と、藍子の二人。
つきあっちゃってるのかも。
あーぁ・・・。
* * *
俺たちのライブが始まる15分前。
いつものように、俺らは円陣を組んで気合いを入れる。
今日のライブは、いつもよりハコがでかい。
それ故に客数も多いため、みんなもいつもより気合いが入っているみたいだった。
円陣を組んで人叫びしたあと、いつもはそれぞれリラックスするなり曲目を確認したり・・・と一人で行動することが多い・・・のだが。
晴彦「おい、浩介。ちょっと話ある。」
そんな時間に珍しく、晴彦が俺を誘ってきたのである。
* * *
誰もいないステージ裏。
向こうで、藍子が弘樹を呼ぶ声がする。
その声を聞いて、本当は大好きなはずの藍子の声なのに、胸がきゅーっと締め付けられたよな気がした。
浩介「なんだよ?」
晴彦「お前・・・本当に藍子の歌詞の意味わかってないのか?」
浩介「・・・うん。そうだけど。俺英語得意じゃないし。」
晴彦「・・・ったくもうお前は。」
晴彦は溜息をつくと、ジャケットのポケットに手を入れ、なにやら小さく折った紙を取り出す。
晴彦「藍子に止められてたけど・・・お前が見ないわけにはいかないだろ。コーラスもやるんだし。」
なぜか俺と目を合わせない晴彦は、そのしっかりと筋肉のついた腕を伸ばし、和訳が書いてあるらしい紙を俺に向けて差し出す。
浩介「ありがとう。」
複雑すぎる気持ちだった。
藍子が書いた歌詞。
見たい気もするが、見てしまったら、本当に俺の恋が終わってしまう気がした。
でも、見ておかなければならないものなのだろう。
もしかしたら、俺の恋は始まった時点で、こうやって終わりを告げることが決まっていたんだ。
ここで、もう、藍子への気持ちを捨てる。
弘樹へ向けられた歌詞を読んで、俺の藍子への気持ちは、この紙と同じように、きれいに折り畳んで、またポケットに入れる。
洗濯するうちに、いずれ消えてしまうだろうか。
黙って折り畳まれたままの紙を見つめていると、晴彦はまた溜息をついた。
晴彦「なぁ、浩介。」
浩介「ん?」
晴彦「お前、本当に気付いてねぇの?」
。
晴彦が何のことを言っているかはだいたい予想できた。
きっと、藍子の弘樹への気持ちのことだろう。
晴彦は、俺が藍子のことを好きなことを知っているから・・・それを気遣ってのことだろうか。
晴彦「ちゃんと、向き合ってやれよ。藍子と。中途半端なままじゃ、一番かわいそうなのは藍子だ。」
浩介「・・・??」
晴彦「振り回すのかよ。このまま。」
浩介「・・・・は?」
晴彦「宙ぶらりんって言っていいだろ、今の状態。一番悩んでるのはお前じゃない、藍子だ。」
浩介「・・・え、ちょっと待って。」
何言ってるんだ?晴彦。
俺が気持ちを伝えようが伝えまいが、藍子には関係ないだろ?
なんで藍子が悩むんだ?
むしろ、俺が想いを伝えない方が、藍子としては悩まないじゃないか。
晴彦「・・・?まさか、お前本当に気付いてない?」
浩介「意味わかんねぇってば。藍子の気持ちの話だろ?」
晴彦「おう。・・・どうなんだよ?」
浩介「どうなんだ、って・・・弘樹のこと、好きなんじゃないのか?」
俺が思ったことを言う。
と。
晴彦「・・・・はぁーーーーーーー・・・・・・。」
晴彦は、今までに聞いたことの無いような溜息を漏らす。
いや、漏らすっていうか、漏れたっていうか。
え?なんで?違った?
晴彦「・・・まぁ、歌詞見ろよ。」
すれ違いざまに俺の肩をぽん、とたたき、晴彦は俺の前から去っていった。
・・・・?
全く意味がわからない。
はぁ?
何言いたいんだあいつ。
疑問はたくさんあったが、とりあえず晴彦に言われたように、渡された歌詞を見る。
『mine』
好きな気持ちってどうしても止められないように
あなたを欲しがる気持ちも止まらない
しがみついてる背中も 手を引いてくれた大きな手も ときどき見せる無邪気な笑顔も
全部 全部 ほしい
私だけの あなたにしたい
私だけの あなたにしたい
四弦を操るその指も 全て私のために あると信じてるから
せめてあなたもそう思ってくれるように 手をからめてるの
あの夜ね 実は演技してたの
寝ぼけたふりして 好きって言っちゃおうかと思って
でも あなたに嘘をつくことすらできないくらい
あなたを好きみたいで 結局 この想いは そのままマイクに
私だけの あなたでいて
私だけの あなたがいい
マイクを握るこの指も 全てあなたのために あると信じてるから
せめてあなたもそう思ってくれるように 想いを歌うわ
。
え。
何コレ。
え。
『四弦を操るその指も 全て私のために あると信じてるから』
四弦・・・?
弘樹への歌詞だったら・・・ギターは六弦。
四弦は・・・ベース。
俺の担当する、楽器。
俺の、唯一の財産。
俺の、唯一自慢できる、自信の持てること。
待って。
思考回路が、回らない。
これは、明らかに恋を唄った歌 。
紙をめくり、もう一つの曲の歌詞を見る。
『奥手な彼をその気にさせる方法』
いい加減気付いてよ どれだけ待たせるのよ
いい加減気付いてよ どれだけ凹ませるのよ
恋が成就する香水 あなたのために買ってきたわ
ちょっとだけ大人な気分味わってみたりして
つけてみたけど どうかしら?
気付いてるのかな かすかなフェロモン
私の気持ち 気付いてないの?
きっと気付いてないと 六弦も太鼓も言うわ
待ちぼうけなんて まっぴらだわ 王子様は迎えに行くものよ
誰か教えて 奥手な彼をその気にさせる方法
知ってたつもり 彼が鈍感な事ぐらい
知ってたつもり 彼が不器用なことぐらい
だからってこれはないんじゃない?
抱きついても甘えても誘ってもデートしても その気にならない
私 女の魅力がないのかしら? 蜘蛛の巣から 逃げ出せないわ
思わせぶり? それとも天然?
きっと天然だと 六弦も太鼓も言うわ
天然だとしたら 太刀打ちできないじゃない どうしよう
誰か教えて 奥手な彼をその気にさせる方法
・・・。
『私の気持ち 気付いてないの? きっと気付いてないと 六弦も太鼓も言うわ』
『ちゃんと、向き合ってやれよ。藍子と。中途半端なままじゃ、一番かわいそうなのは藍子だ。』
『振り回すのかよ。このまま。』
『宙ぶらりんって言っていいだろ、今の状態。一番悩んでるのはお前じゃない、藍子だ。』
待って。
おい、ちょっと。
・・・え?
藍子の好きな人は・・・弘樹でもなく、晴彦でもなく・・・。
俺・・・・?
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