そばかす




7,



浩介「晴彦!!」


ステージの裾に戻ったときには、もう俺たちの出番の5分前だった。
他のメンバーは、もう準備万端みたいだ。


晴彦「おう、おかえり。」
浩介「えっと・・・なんていうか。その。」


俺がベースを手に取り、チューニングを確認しながらおどおどしながら言う。 どうしよう、まともに晴彦の顔が見れない。
やけに照れくさい。


晴彦「・・・さすがのお前も気付いただろ?」


晴彦はパイプイスに座っていて、ステッキを自分もももに打ち付けながら言う。
向こうで、弘樹と藍子が仲良さそうに話している。


浩介「・・・おう。」


改めて考えれば、簡単にわかることだったのかもしれない。

藍子の好きな人は、晴彦でも、弘樹だったわけでもない。
俺だったんだ。

俺、不器用な上に鈍感だったのか。


晴彦「しっかしお前も鈍感にも程があるぞ、普通気付くだろ、そこまでやられてりゃ。」
浩介「・・・そうかな?」
晴彦「あったりめーだろ、普通好きでもない男に抱きついたりするかっつーの。」
浩介「?あれ、晴彦とか弘樹とかもやられないの?」
晴彦「やられねぇよ、アホ。」
浩介「そーなんだ・・・。」


確かにそうだよな、男だって好きでもない女を抱きしめたりなんかしたくない。
よーく考えれば、わかることだったのに。
俺は、藍子をどのくらい傷つけたんだろう。


浩介「悩んでたの?藍子。」
晴彦「あぁ。たびたび俺に相談してきてたぞ。」
浩介「あー・・・。」


どうしよう。
俺が鈍感なせいで・・・。


晴彦「まぁ・・・ライブ終わったらお前らまた出掛けるんだろ?」
浩介「え・・・。」
晴彦「え、って、約束してたんじゃねぇのかよ。藍子がうれしそうに言ってた。」


・・・あの夜のことだ。
藍子が、もう完全関西なまりになってしまってたとき。
藍子は眠くなると関西弁になるから、寝ぼけてて・・・俺はてっきり、そのときしたクリスマスに二人で出掛ける約束なんて、覚えてないと思ったのだ。
     ちゃんと、覚えてたんだ。


浩介「・・・うん、した。」
晴彦「そのとき、ちゃんとお前の想い伝えろって。な?」
浩介「うん。ありがとう、晴彦。」


向こうで、藍子が俺たちを呼ぶ声がする。
出番だ。


藍子「さぁっ!!今日は特別な日だからねーっ。みんながんばろ!」
弘樹「おうっ。」
晴彦「いくぜ今日も不器用君♪」


みんなが思い思いに声を掛けていく。


藍子「浩ちゃんー♪テンションはどうですか!?」


そう無邪気に笑いかけてくる藍子。


浩介「・・・上々。」


ますます愛しいと思った。



* * *



藍子「おつかれぇ〜。」


今日のライブも大成功。
オリジナル曲も評判が良くて、藍子の声が生かされている楽曲となった。


弘樹「あー、じゃ俺帰るわ。」
藍子「えっ!?打ち上げは?」
晴彦「あー、俺も。今日彼女とデートさぁ☆」


意味深げに俺をチラ見する弘樹と晴彦。
こいつら・・・。

いつもは、ライブが終わった後、みんなで軽い食事に行く。
でも今日は、俺と藍子のことがあるから・・・と、みんな気を遣ってるのだ、きっと。


まぁ・・・そのご好意に免じて。


浩介「藍子、今日ツリー見に行くって言ってたじゃん。忘れてる?」


俺もヘタレではありません。


藍子「えっ・・・。お、覚えてる・・よ?」


藍子、珍しくどもってます。
弘樹と晴彦がニヤニヤしてる。


浩介「支度できたら行こう。」
藍子「・・・うんっ!!」



* * *



藍子「超ーっきれい!!」


イルミネーションのそばで、俺の腕を掴んで放さない藍子。
本当に感動しているようで、彼女の瞳に映る光は、絶えることがない。
夜遅くだったからか、もう人影もまばらで、いつもにぎわっているこの商店街も、もう店も閉まり、落ち着いていた。


藍子「きれいだね、浩介っ。」
浩介「うん、本当。俺も、こんなじっくり見たの久しぶりだよ。」


二人でしばらく、輝き続ける目の前のイルミネーションを眺めていた。すると。
視界に、何か白く細かい物が、ちらほらと現れる。


あ。


浩介・藍子「雪だ!」


全く同じ言葉を全く同時に言って、俺たちは、顔を見合わせて笑い合った。
暗くなった空から、ひらひらと雪が舞い落ちてくる。
ホワイトクリスマス、って奴か。


藍子「浩介の言った通りだ〜。雪、ちゃんと振ってきた!」


うれしそうに騒ぐ藍子。
しばらく騒いでいたが、くしゅん、とくしゃみをした。
あ、やべ、藍子に風邪ひかせたら晴彦にどつかれる。のど痛めたら歌歌えなくなるし。
俺は反射的に自分の上着を脱ぐと、藍子の肩に掛けた。


藍子「え〜?いいのに。浩介、風邪ひくよ。寒いって、今日。」
浩介「いいの、藍子が風邪ひいたら、俺怒られるし晴彦に。それに俺、寒くないし。」
藍子「えー・・・浩介が風邪ひいたら私が困るもん。」


もー、うれしいこと言ってくれるな、「浩介が風邪ひいたら私が困る」・・・いやいや、俺なんかどーでもいいですよ、あなたに比べれば。
藍子は、俺がさっき掛けたばかりの上着を自分の手でどけようとする。
その小さな手に俺のごつい手を重ねて、どけようとするのを止めた。


浩介「じゃ、それ、クリスマスプレゼント。受け取ってくれないと俺凹む。」
藍子「・・・何それ〜!ずるい!」
浩介「ははっ。」


勝ち誇ったように笑うと、藍子はぷくっと頬をふくらまして、もぉー、と言いながらもしぶしぶ腕を袖に通した。
俺のコートは藍子にとってかなりぶかぶかで、それを着ている藍子は、いつも以上に小さく見えた。


藍子「あ!じゃぁさ、私もなにか浩介にクリスマスプレゼントあげる。何がいい?」
浩介「・・・何でもいいの?」
藍子「私があげられる範囲なら♪」
浩介「うーん・・・。」


ちょっとだけ、迷っているふりをした。
でも、俺が今すごくほしいものなんて、一つしかなくて。
簡単に、思いついた。


・・・藍子が、ほしい。


俺のほしいものっていうかほしい人は、俺の隣で、顔の前でいただきますの手を形をして、はぁ〜っと息を吹きかけている。
手、相当冷たくなってるらしい。


浩介「決まったよ、藍子。」
藍子「え?何、何?」


楽しそうに俺に向き合い、その大きな瞳を俺に向けてくる。

俺は、今もなお、顔の前でいただきますの形を保ったままの藍子の両手を、俺の両手で包む。
藍子の手は、すっぽりと、俺の手の中に包まれている。
案の定、彼女の手は、とても冷たくて。


え?と、今度は不思議そうに俺を見た。





浩介「藍子。」





どちらからともなく、キスをしていた。







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