そばかす





1,



机の上のケータイが、ぶるぶると震え出す。
あたりまえのように、俺はケータイを手に取り、何事かと画面を見る。
そこには、俺のケータイには登録されていない番号。
しかし、覚えてしまっている番号。

俺はちらりと他のメンバーを一瞥してから、ごめん、と一言残し、急いで楽屋から出ていく。


廊下に出ると、騒いでるメンバーの声がうっすらと聞こえた。
深呼吸をしてから、通話ボタンを押す。


「・・・もしもし。」
「・・・弘樹?母さんだけど。」


今更母親ぶるなよ。「母さんだけど」?       ふざけるな、そんなものとうの昔に捨てた。


「ライブ、見たわ。とってもよかったわ。これからもがんばってね。」
「・・・・。」
「聞いてるの?」


チケットなんて、どこで手に入れたんだろう。
初ライブのときには、メンバーみんな家族は呼ぼうってことになったから送ったけど、それ以降のライブのチケットは送ったことがない。


「・・・何の用。」
「・・・そろそろ、こっちに戻ってこない?」
「は?何言ってんだよ、追い出したのはそっちだろ。」


冷淡に言うと、コイツは少し押し黙った。


「あ、あのね、弘樹。真那のことは、本当に悪かったと・・」
      ふざけんな!気安く真那の名前を呼ぶんじゃねぇ!」
「弘樹・・・。」
「今更俺に謝ってどうにかなるのかよ。」
「・・・。」
「・・・あんたと話すようなことはもうない。・・・あと、一年。もう、それで俺とあんたは関係がない。」
「・・っ弘樹、ちょっと待っ・・」


ピッ。


相手のことなんか構わず、終話ボタンを押す。

体の力がだんだんと抜けて、俺はその場に座り込む。




         真那・・・。




* * *



「あっ!!出てきた!!きゃーーーー!!」


たくさんの女の子たちが、関係者出入り口から出てきた俺たちClumsyに駆け寄ってくる。


晴彦「おーっ、みんなさんきゅうー♪」


晴彦がファンのみんなへ笑顔を向けた。


月日は経ち、3月。
だんだん気温も上がってきて、春の気配をかすかに感じるようになってきた。
花粉症の弘樹は、この季節、ものすごく辛いらしく、鼻をずるずるすすっているのは日常茶飯事。


あれからライブの回数を重ねてきて、今日もライブをやって。

みんなで軽く打ち上げに、と外へ出たら、いつものようにたくさんの出待ちするファンの姿があった。
ほとんどが、俺たちと同年代くらいの女の子だ。
Clumsyは、アマチュアバンドにしては出待ちが多いらしい。
ライブが終わって外に出ると、20分やそこらは時間つぶされてしまう。まぁ、うれしいけど。

メンバーは一人ひとり、各ファンたちに囲まれてて。藍子も、すごく女の子の間で人気だ。
俺もまぁ・・結構囲まれてる方なのか。
四方八方から、黄色い声が飛んでくる。
あー・・・苦手なんだよなー、こうやって女の子に囲まれて会話するの。
プレゼント受け取ったり。うれしいことだが、うんざりしてしまう。


「浩介さん!今日もかっこよかったです!これ、差し入れなんですけど・・・よかったら食べてください☆」
浩介「どうも。」
「今日演った新曲、浩介さんが作曲したって本当ですか?」
浩介「あー、そうっすよ。」


ったく、トークで全くその話題に触れていないのに、どこからそんな話が漏れるんだ。

最近は俺も作曲するようになった。
新しいベースラインを考えていると、なんかこう、どんどんメロディーが溢れてくる感じで。
晴彦も相変わらず作曲するが、俺と晴彦は作る音楽の部類が少し違う。
俺はどうしてもパンクとかスカ系を作ってしまうのだが、晴彦はバラードだって作るし、ゴリゴリのハードロックだって作る。
何よりもメロディーが繊細。
俺はこう・・・なんて言うか、どっちかっていうと男気。


「すごいよかったですー!晴彦さんが作曲する曲も好きですけど、浩介さんのはなんか勢いがあってよかったです。」
浩介「あざーっす。」
「歌詞は誰が作ったんですか?」
浩介「あー、歌詞はいつも通り藍子です。」
「そーなんですかー。なんか日本語だったんで違うのかなって。」


そう。藍子はなぜか、俺の曲だと日本語の歌詞にする。
なんでって訊いたけど、本人も根拠はないみたいで、なんとなく日本語にしてしまうのだそうだ。
英語だと恋愛系が多いが、日本語の場合、何かストーリーを組み立てて、自分の経験も織り交ぜながら作詞してるみたいだ。


「あ!!藍子さんと言えば。」


周りにいるファンの子の中の一人が、何かに気付いたようで。
俺も他の子たちも、一斉にその子へと視線を移した。


「何??」


他の子たちが不思議そうに訪ねる。と、しまった、という気持ちが顔に浮き出てきた。


「あ・・えっと、噂で聞いたんですけど・・・藍子さんと浩介さんがつきあってるっていうの。」
「えぇ〜?何それ〜。確かに二人は仲良いけどさ。でも浩介さんとられても藍子さんなら許せる〜。」
「だよね〜。」


ファンの子たちが笑い出す。よかったな、ファンのみんなが仲良くて。ケンカとかなしっぽい。
でも。

あの・・・その噂、本当なんですけど・・・!


「??浩介さん?どうしたんですか?」


焦りの色が顔に出ていたらしく、ファンの一人が俺の顔をのぞき込む。


浩介「い、いや、別になんでも・・・「浩介さーーーーん!!」・・・は?」


黄色い声が向こうから聞こえたから、声の方向を見る。
すると、さっきまで晴彦の周りにいた晴彦のファンたちが、こっちに駆け寄ってくる。

息を切らしながら、晴彦のファンたちは俺に向かって。


「あっ、あのっ。」
浩介「・・・はい?」
「藍子さんとつき合ってるって本当なんですか!!!?」
浩介「!?誰から聞いた・・・」


それを言いかけて、俺ははっとした。
晴彦のファンたちが、いきなり俺のところに駆け寄ってきた、ってことは・・・。


浩介「晴彦!ちょっと来い!」



* * *


藍子「あはははは!!もう、晴彦ってば、おもしろい。」
晴彦「だって仕方ないじゃん、カマかけするんだぜ?うちのファン。」


いつも打ち上げをするライブハウス近くのレストランで、向かい合って座っている藍子と晴彦は、笑顔で話している。

話題はさっきの出待ちの事件のこと。
晴彦はファンに、「藍子さんと浩介さんってつきあってるんですよねー。お似合いですー。」とカマかけされ、「あ、知ってた?だよねー。」としっかりとカマかけにはまってしまったのだそうだ。
それならしょうがないか・・・と言いたいところだが、ミュージシャンが自分たちのファンに負けててどーすんだ、アホリーダーが。


浩介「おかげで散々だった。」


あのあとClumsyのファンは全員俺たちの周りに集まり、しっかりと記者会見されてしまった。


晴彦「まぁいいじゃん、みんな気付いてたみたいだし。」
藍子「そうだよね、気付いてたんならまぁいいか。」
浩介「よくないって。」


藍子はしっかりと晴彦に丸め込まれている。ダメだ、この子絶対いつか悪徳商法系にひっかかる。
俺がファンのみんなにつき合っていることがばれたくないのは、まぁその・・・藍子の書く歌詞の恋愛物は、全て俺のことってのが解ってるから。
別にいいじゃんって思うかもしれないけど、なんていうか、照れくさいんだよ、妙に。
歌うときには英文になってるからまだカモフラージュできるものの、オリジナル曲の歌詞は全て俺たちのホームページで公開されている。
和訳が載ってるわけではないが、熱心なファンが一生懸命和訳してファンの欲しがっている人にに配っているそうだ。
意訳が多いから多少は違っててもだいたいの意味は合っている。『main』や『奥手な彼をその気にさせる方法』で気が付く人が多いみたいだ。
そりゃ、ミスター鈍感って言われてる俺がその歌詞をみて気付くぐらいだから。


藍子「浩介・・・、やなの?私とつき合ってるって知られるの。そうだよね、私となんか・・・。」


藍子が、心配そうに俺の顔をのぞき見る。


浩介「えっ?違う違う、そーゆー意味じゃなくて。」
晴彦「やだ!藍子のこと遊んでたのね!浩介ってば!」
藍子「えー!?やだやだ!別れないで!悪いとこがあったら直すからぁー・・・。」
浩介「晴彦黙れ。」
晴彦「うっ。」
藍子「あははっ!」


はぁ、と息をつく。
ったくもう・・・面倒なことになったな。


浩介「照れくさかっただけだよ。」
藍子「ふふっ。浩ちゃんかーわいーvv」


藍子が俺のほぺったを人差し指でぶにっと押す。隣にある笑顔は、あまりにも無邪気で。


くそっ・・・・かわいーぞこの野郎・・・←末期


いちゃつくなこの野郎!と言っている晴彦。

その隣で、ずずず・・・とストローでのう残りわずかな飲み物を吸う音がする。
弘樹が、どっかりとソファによりかかり、うつろな目で今だにストローを加えて吸っている。
どうしたんだろ・・・弘樹、今日なんか元気ないな。


浩介「弘樹?疲れた?」
弘樹「えっ?何か言った?」
浩介「疲れてるのか、って聞いた。」
晴彦「あー、もうお開きにするか?弘樹さんお疲れみたいです。」
藍子「そーしよっかー。私も眠い。」


そうやって、みんなが同意すると、今日はいつもにくらべて早々と打ち上げは終わった。








next     NOVELtop