そばかす



2,




ライブが終わったあと、みんなで軽い食事に行って。
そりゃ、ライブのあとやさかいに、みんな疲れてるのは当たり前なんやけど。
なっと、弘樹の様子がおかしかった気がする。

しかも、・・・聞いちゃって。
弘樹が、かかってきた電話に出るため、楽屋から出ていったとき、『ふざけんな』って、怒鳴ってた。

・・・絶対おかしい。

弘樹は、毎度優しくて。他のメンバーにかてあたり前優しかったけど、特別、あたしにはどえろー優しくしてくれた。
浩介が用事があって、(そんなことめったにないけど。)あたしを送れなかったとき、弘樹の家はあたしの家の方向とは正反対やったのに、必ず送ってくれた。
日常茶飯事なんやけど、いい歌詞が思いつかへんかったときも、いつかて、優しくアドバイスしてくれたり、励ましてくれたり、見守っててくれたり。
Clumsyのみんなは、全員どえろー優しいんせやけど。ほんまに、ほんまに、なんでそへんなに優しいんやろうってぐらい優しいんせやけど。
その中で一番優しいのはどなたはんどすか、って聞かれたら、きっとあたし、弘樹って即答する。
そんぐらい、弘樹は優しい。


なのに。


『ふざけんな』・・・?


これかてあたし、耳へーい方で。
結構、例の電話のときの弘樹の声、聞こえてたんだ。
晴彦や浩介は、まるっきし聞こえてへんかったみたいせやけど・・・。


『真那の名前を気安く呼ぶんじゃねぇ!』とか。
『なんだよ?』とか。


言葉遣いも、どえらい荒くて。
声かて、どえらい低くて。


正直、あの弘樹の声、どえらい怖かった。



「弘樹・・・?」


打ち上げが終わったあと、みんな現地で解散ってなって。
店を出たとき、すぐ弘樹に話しかけた。
あの電話のことや、珍しく達者のない弘樹の様子が、どへんしても気にならはったさかい。


「ん?」
「疲れてるねー。大丈夫?風邪とかひいっちゃったんじゃない?」
「・・・ありがとう、なんでもないと思う。」
「・・・そっか。じゃ、また明日ね!ゆっくり休んで。」
「うん。」


・・・おかしい。
絶対、おかしいよ、弘樹。
毎度やったら、「そへんなことないよ〜!なになに、俺、そんなテンション低い?」とか、もし風邪っぽかったら、「風邪かも〜、藍ちゃん看病して☆」とか、ふざけてしゃべるやん。

どへんしたの?弘樹・・・。



* * *



藍子「あー!!違う!こんなんじゃない!」


それまで向かっていた紙を、くしゃくしゃに丸める。
そしてゴミ箱にぽい、と投げ入れ、机の上に頭をふっつぶす。


浩介「最近スランプ?」


苦笑いしながら問いかけると、むくっと起きあがり、首を横に振った。


今日は俺の部屋にて二人でまったりしていた。
と言ってもいつもと変わらず藍子は俺の部屋の机で歌詞を書いていて、俺はベットの上でベースをいじっている。


どうやら最近、藍子は思うように詩が書けないみたいだ。
前までは新しくできた歌詞を練習のときに持ってきて、晴彦と一緒にメロディーに合わせて調整していたり、弘樹に英訳を頼んだりしていたが、最近はめっきりそれがない。
最近と言っても、一ヶ月ほどだが。


藍子「なんか・・・書きたいことは浮かんでくるのに、・・・じゃまする。」
浩介「邪魔?何が?」
藍子「・・・。」


藍子は黙って立ち上がり、ベットに座っている俺の横にちょこんと座る。そしてまっすぐに俺を見た。


藍子「あのね、私の勘違いかもしれないけど。」
浩介「ん?」
藍子「弘樹が、なんか最近おかしい気がして。」
浩介「弘樹ぃ?」


なんだ、弘樹がおかしいのはいつものことではないか。
でも、藍子の表情が真剣だ。
その表情を見て、俺はひざにのせていたベースをベットから下ろし壁に立てかける。


浩介「どんな風に?」
藍子「なんか、私としゃべってくれる回数減った。」
浩介「そういや、最近元気ないかも。」
藍子「でしょ?それに、私と目が合うとすぐそらすの。前は、必ず私からそらしてたのに。弘樹からそらすことなんて、なかった。」
浩介「あー・・・確かに、弘樹は人と話すときちゃんと相手の目ぇ見るな。」
藍子「でしょ?それに・・・・。」


それまで俺のことを見ていた目を伏せ、何か言いにくそうに口を閉じる。
急かすのもどうかと思ったから、俺はそのまま藍子が言い出すまで待っていた。
しばらくしたあと。


藍子「この間のライブのあと、みんなで楽屋にいるときに、弘樹が電話しに楽屋から出ていったでしょ?」
浩介「あぁ。」
藍子「そのときに、『ふざけんな』って怒鳴ってるの、聞こえてきて。」
浩介「え。」


それは明らかにおかしい。弘樹は普段、とても温厚で、俺たちの前でも怒ったところなんて見たことがない。いつも優しく、ノリよく笑っていて。笑顔を絶やすときなんて、ないんだ。いつでも元気で明るい。そんな弘樹が、怒鳴るなんてこと、想像できない。しかも、言葉が「ふざけんな」だろ。ありえないぞ、まず。


浩介「確かに、それはおかしいかも。だいたい元気ないってとこをからしておかしいもんな。」
藍子「そうでしょ?しかも、私が笑うと一瞬、弘樹の顔が引きつるの知ってた?」
浩介「あ、藍子が俺たちに加わるとき、弘樹の様子がおかしかったのは覚えてる。」


藍子が俺たちに加わろうとしていたとき。
なんだか弘樹が乗り気じゃなかった感じがして、ちゃんとそのことについて聞いたんだけど、軽い冗談で、流されてしまった。
あのあとは特に気にもしないで、普通に過ごしてきたんだけど。まさか今だにそうだったなんて・・・。


藍子「どうしよう・・・私、弘樹になんかしたかな。」
浩介「いや、それはないだろ。入る前からそうだったんだから。原因は、アイツの中にあると思う。」
藍子「そうかな?」


今にも泣き出しそうな藍子。かすかに、目が潤んできている。
安心させたくて、俺は藍子の肩を抱き寄せた。


浩介「大丈夫。今度の練習のとき・・・ちゃんと聞こう?」


自分にも言い聞かせるように言うと、藍子はすぐ近くにある俺の顔を見て、うん、と震えている言った。


藍子「ありがと。」


つぶやくように言うと、俺の胸元に顔を埋める。

そのあと藍子は、しばらく俺の腕の中で泣いた。
仲間にそんな態度とられてたんだもんな・・・相当辛かったんだろう。
なんでもっと早く気付いてあげられなかったんだろうと、自分を責めた。







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