そばかす





4,



あれから、2週間が経とうとしてる。
あの日から、バンドの練習はしていない。
それはおろか、弘樹とは一言もしゃべっていない。
他のメンバーも、なんだか元気が無くて、特に藍子は、すっかり笑顔が消えてしまった。
俺は、なんて言葉をかけたらいいかわからなくて。
ただ、そばにいることしかできなかった。


でも、いつまでもこのままじゃいけない。
ちゃんと、話し合わなくては。
弘樹だって、根は悪い奴じゃない。だって、今まで一緒にやってきたんだから。
あんなに、優しくて、おもしろくて、いい奴だったじゃんか。
きっと、今回の件だって、何か理由があったんだ。

俺は、晴彦を呼びだして、自分の考えをちゃんと言った。
晴彦も、だんだん落ち着いてきたみたいで、そうだな、と俺の考えに賛成してくれた。


ちゃんと話し合って、ちゃんと、解決しなきゃ。
俺はただ、失いたくなかった。
Clumsyは、居心地が良くて。
やっと、やりたいことを見つけられて。
やっと、夢中になれることを見つけられて。
仲間という宝ができて。
藍子という、かけがえのない存在にも出会えて。
たくさんのファンもできて。

Clumsyは、俺の全ての始まりだったんだ。
今の俺は、Clumsyを失うわけにはいかない。
他のメンバーだって、きっとそうだ。



休み時間、藍子の教室へ行く。
藍子にも、ちゃんと説明しておいた方がいい。
教室の入り口から藍子を捜していると、藍子は俺に気付いて、すぐこちらにやってきた。


藍子「どーしたの?」
浩介「今日、みんなで集まろう。」
藍子「・・・え?」
浩介「このままじゃ、ダメだよ。ちゃんと話し合おう。弘樹にも、来てもらうから。」
藍子「・・・うん。」


藍子はうつむいて、暗そうに頷いた。
やっぱり、トラウマになってしまっているのだろうか。
そりゃそうだろう、仲間にあんなこと言われたんだもんな・・・。


浩介「・・・恐い?」
藍子「・・・。」
浩介「大丈夫、俺だって晴彦だって、いるから。それに、弘樹だって理由があったんだよ。」
藍子「うん・・・。」


藍子はまだ納得いかないような顔をしていたが、仕方ない。
藍子を連れて行かないわけにはいかないから。


浩介「帰り、迎えに来るから。」



* * *



放課後、いつもの地下室。
晴彦が、弘樹にちゃんと言っておいてくれたみたいで、俺と晴彦、それに藍子は、弘樹が来るのを待っていた。
来て、くれるだろうか。
そんな不安が、俺たち三人の頭の中をよぎる。

静まりかえった無音の空間に、時計の秒針の音が、やけに響く。


一刻すぎたころ。
地下室のドアが、重く開いた。


晴彦「弘樹・・・。」


弘樹だった。
気まずそうに、下を向いて、制服の、ままだった。
ゆっくりと、室内に入ってくる。


俺は、ごくり、と生唾を飲んだ。


晴彦「座れよ。」


いつもの優しい口調で晴彦が言うと、弘樹は大人しく、俺たちが輪になって座っているところへ、加わって座った。
よかった・・・いつものポジションだ。
話し合いをするときは、いつもこうやってみんなで床にぺたん、と座り込んで。
晴彦、俺、藍子、弘樹の順番だ。
笑い合って、言い合いもして。
そんな座り方。


弘樹「・・・藍子。」
藍子「・・・ん?」
弘樹「ごめん。」


唐突に言い出したと思ったら、まず謝った。
いつもみたいに、心のある声だった。


藍子「・・・うん。」
弘樹「晴彦に、浩介も。ごめん。」
晴彦「気にすんな。」
浩介「おう。」


弘樹は、ぽつりぽつりと言葉を並べる。


弘樹「ちゃんと、一から正直に話すから。」


俺たち三人は、弘樹へ視線を向ける。


弘樹「藍子の笑顔見て、いい気持ちがしなかったのは本当。でもこれは、俺の気持ちのせいなんだ。藍子は、なんにも悪くない。ごめんな?藍子。」


藍子の顔を見て、ゆっくりと話す。
その言葉を聞いて、藍子は、目を潤ませる。
うん、と力強く頷くと、また、大粒の涙があふれ出した。


晴彦「でも、なんで?浩介の話じゃ、お前、始めからそうだったんだろ?」
弘樹「あぁ・・・。」


そしてまた、沈黙。
弘樹は、まだ悩んでいるようだった。
一体、弘樹の気持ちの中に、何が潜んでいるんだ・・・・?
そして、短く溜息をついた後、弘樹は口を開いた。





弘樹「藍子の笑顔が・・・俺の死んだ妹に、そっくりなんだ。」







next     NOVELtop