amour methode 15
10,
「リョウー」
猫なで声をあげて、こっちへ来い来いと手招きをする女の子。
うん、かわいい。確かにかわいい。
そのちょこちょこした動きとかさ、心底楽しんでいるようなそぶりとかさ、揺れる長くて柔らかい髪とかさ、お気に入りのカルバンクラインの香水とかさ。
めちゃくちゃかわいい。
けどね。
「ねー、これすごくない?」
「おー、これか、歴史の教科書によく載ってる」
「実際見てみるとそこまで大きくないよね」
それ私の役目。
一日目の見学場所をほとんど回って、もう夕方近い、今は本日最後の見学場所、興福寺国宝館。
ここはその名の通り国宝級の像やら置物やらがキレイに硝子の中に飾られていて、360度、歴史的に貴重らしいものたちを見て回ることができる。
つまりですね。ここはですね。
仲良くなりたい男の子女の子と会話をするにはもってこいの場所なんですね。
私がこんなに睨んでいるのにも関わらず、アリサは相変わらずリョウと仲良さそうに博物館の中を歩いていく。
わざとらしく、私の前を歩いていくのだ、しかも。
くそっ……アリサの奴め、さすが物事理解してるあの野郎!
さっきまでの見学場所では私と一緒に行動していたものの、この国宝館に来た途端、あの調子だ。
アリサもちゃんとわかってたんだ、博物館の中じゃ、男女が話してても不思議じゃなくて、ちゃんとみんなの雰囲気にとけ込める、ってこと。
それにアリサだけに始まったことじゃない、周りのみんなだって狙っていると話していた男の子と一緒に回っている子たちが目につく。
別に、前々から仲の良かったアリサとリョウが一緒に歩いていたって、周りから見たらちっとも不思議じゃないのだ。
「宮森ー、コレさ、教科書に載ってるよな?」
もちろん、同じ班の沢村と私が一緒にいても、の話も決して別物ではないのである。
「うん……すごいねー……」
沢村がすごくねと差してきたのは、あの有名な阿修羅像だった。
あぁ、これ。
修学旅行の前、リョウと一緒に歴史の教科書を見ながら、これは絶対みたいよね、って話していた奴だ。
女の子をモデルに作られたとか、男の子をモデルに作られたとか、いろんな説がある像で。
ちゃんと自分の目で見て確認しなきゃ、って二人はしゃいでいたのに。
リョウはアリサと一緒に見ていた。
私は沢村と一緒に見ている。
なんだよ、馬鹿やろう……。
「なんだよー、俺じゃ不満か!」
「不満だよ」
沢村の呼びかけに正直に反応すると、沢村はなんだよそれー、とやっぱりノリ良く返してくれた。
「お前な、もうちょっと言葉にオブラートかけようぜ」
「私は自分に正直なだけだからー……、なんてね」
私が笑いかけると、沢村もひひっと笑ってくれた。
沢村は冗談が通じるし話のリズムも合っているし、一緒に居ても楽だから好きだ。
でも、リョウの代わりなんていやしないのだ。リョウの代わりなんて、見つかったら怖いくらい。
「そんなに長田が好きかよ」
「好きじゃなかったらつき合ってないよ」
「ま、そりゃそうだけど。でも、お前ばっか不満がってるのは話が変だぞ」
沢村がその良さでもあるいたずらっぽさを浮かべた笑みに、それでも私を悟らせるような態度で、そう言ってきた。
「どういうこと?」
「まぁー、アレだ、宮森って結構男友達いるし。結構話してるとこも見受けられるわけですよ」
「あ。」
「だから別に上島と長田が話してても気にしちゃいけないんじゃないの?って話」
「……」
沢村はそれからは何も言わずに、それでもあたしと歩幅を合わせながら歩いていってくれた。
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